平凡なんて卑下する暮さんに、どうすれば伝わるのかな。好き……大好きですっ。
朝倉さんは、童顔巨乳、だという事前知識だけあれば、十分ですっ><
やっと……やっとね。
暮 伊月さんを呼べるくらいには、自信を持てるようになったんだよ。
一年もかかっちゃったから、高2の夏。
放課後の屋上なんて、ラブレターなんて、ベタ……だったかな。でも、男の子って、そういうの好きだよね?
あはは……。
でも。
ちゃんと真面目に来てもらえたよね。私が、本気だって受け取ってくれてる顔。
好き。
好き……です。
「あの、、、暮さんを呼んだのは、ね?」
「……うん。」
えっと、、、その。
もう、言葉が……出てきてよ。
「その、ね?」
「……うん。」
喉が、乾いてる。
「……好きです。付き合って、ください。」
あ。
言えた。
言ったよ。
暮さん。
「――ごめん。」
え。
え?
「ごめん……朝倉さん。」
……なんで?
なんで、そんなに苦しそうに、断るの?
*** ***
『え? 朝倉さんは、可愛い、よ、ね? ね?』
キョドった仕種。
垢抜けない恰好。
でも。
優しそうな性格。
それが第一印象。
『そ、そう……かな。えへへ。』
私もそうだったから、親近感が湧いた。
クラスの中でも地味な方。委員長とか図書委員とか言われたりして。
それが、一年前の私。
だからね。
可愛いなんて、反射的なお世辞でも、言ってくれたことが嬉しかったんだ。
暮さん、覚えてないよね。
ふふ。
そんな、何気ないひと言が、私の背中を押したんだ。
確かにね。
ちょっと気をつけるだけで、変わった気がして、キレイになっていくのは、嬉しかったよ。
でも、それを暮さんに気付いてもらえたときが、一番嬉しいんだって、気付いたんだ。
半年前。私、初めて告白されちゃった。
好きだって、言われちゃった。
嬉しかった。
でも。
『ごめんなさい。』
断っちゃった。
そのとき、気付いたんだ。
私、暮さんが、好きなんだなあって。
気付いてないよね。
それから、何度も告白されたけど、全部断ってる。
だって、暮さんが、好きだから。
暮さんは、にぎやかだから。
手品が得意で、パッと光るのとか、見せてくれて『これは手品じゃなくて、奇術! 錬金術の技だから!』なんてカッコつけて。
クラスでイジメが起こりそうなときとか、奇声をあげて変なことをして、注目を集めて話題を逸らすでしょ?
授業の時も、化学とか世界史とか、ときどき先生の言葉を遮って騒いだりして。
でも、やっぱり周りをちゃんと見て、騒ぐときだけ騒いでる。
気恥ずかしそうに。
みんな、お笑い系とか、キモオタとか、勝手なことばっかり言って、暮さんが、自分を犠牲にしてるの、わかってないよね。
ね。
そういう姿を見てたら、ね? クラスのみんなが楽しく過ごせるようにって、暮さんが頑張ってる姿を見ていたら、好きに、なっちゃいます。
『どう……かな?』
『え? あ、あの、、、最近、朝倉さんは本当に、キレイに、って、前も可愛かったけど、今はもっと、って、いや! あの! その……、良いと、思います。』
『なんで、敬語なの、ふふ。でも、ありがと。暮さんに褒められると、元気になれるね。』
『そんな、僕なんて。。。』
うん。
告白するなら、早くしなきゃ。
暮さんが、変に遠慮しちゃってる。
だから。
私、がんばったんだよ……?
*** ***
あーあ。
失恋、しちゃったかなぁ……。
暮さんが、可愛いよって言ってくれたから、がんばってキレイになったのに、がんばらなければ、付き合えたのかな。
「おはよう。」
「え、はい。おはよう、ございます。」
他人行儀な言い方。
「うぃーっす、くれぞー!」
「いたっ、ちょ! 今井さん! 痛いよ!」
「あはは、わるいわるい。」
「もっと優しく叩いて、、、って、叩かないでよ……おはよう。」
私じゃなければ、あんなに楽しそう。
……もぅ。
「あ、朝倉さんおはおはー。」
「はい。おはよう。」
「そういえばさー……。」
明るいオタク。時にはキモオタとか、中二病患者とか言われちゃってる暮さん。
私以外の女子とは、仲良くしてるんだよね。
って、ヤダヤダ。
私、すっごくブス。
ちょっと上手くいかなかったからって、他人のせいにして、それで、何になるの?
「あー、かつては燃焼という現象は、燃素というものが関わると考えられて……、」
「実は、18世紀くらいまでは、教会の権威が強く、魔女裁判も行われて……、」
ぜんっぜん、授業が頭に入ってこない!
澄まし顔で過ごさなきゃ、やってられないじゃない。
告白に断られてさ、なんでだろうって思ってさ。
ボヤボヤしながら、いつの間にか、見つめてて。
そしたら、暮さんがけっこう女の子と話してるの、気になっちゃうじゃないですか!!
なんでそんなふうな笑顔とか、できるんですか!
間違えて、「何話してたの?」なんて聞いちゃったら「え? 何でもないよ? っていうか、普通に話とかしない? あ、別にキモオタ狙ってないし?」なんて浅野さんに言われちゃったし。
変で、突飛なことばかりしてるのに、フレンドリーだから話しかけやすいだけなんだよね、なんて、暮さんの良いところは、そこだけじゃないんですよ!
誰にだって優しいし、自分がピエロになれば良いなんて自己犠牲でがんばっちゃいますし、すべてが丸く収まれば良いなんて、自分勝手なじゃないですか!
暮さん、どうしてそれで良いなんて、思っちゃうんですか。
確かに、机の上に上がって、アニメの話を始めるのとか、よくわからない魔術? 錬金術? か、なにかについて、大声を出すのとか、「封印されてる……」なんとか、とか、えーっと、えーっと!!
そこは、ちょっと、擁護できないんですけど、でも、でも!
暮さんをネタキャラ扱いするひとは、ひどいです。
「いやいや、くれぞーは面白いけど、、、言ってることわかんないんだよねー。」
「暮さんは、面白いよ? 信じても、良いんじゃないかな?」
「朝倉さんは、優しいね。」
「そんなこと、ないと思うけど。」
でもね、私は、フラれちゃったワケ、
*** ***
「はぁ~い。」
パシン!
痛っ。
「ねえ、起きてよ。」
「え……?」
痛い。
「おーきーなーさーいー。おっかしいなあ、『人形の呪い』は、催眠術を強固にするだけだから、言うことを聞かせやすいハズなんだけど。」
えっと。
「浅野、さん?」
「ぴんぽーん。」
浅野さん。
「え、っと?」
ここ、どこ?
教室?
っていうか。
「浅野さんの恰好って。」
「あ、これ?」
魔女みたい。
長い帽子に、マントみたいなローブ。
でも、胸元はそんなふうに広げない方が良いんじゃないかなあ。
っていうか、胸元の絵って、ヤギ??
「正解。魔女、だよーん。」
「まじょ?」
「なにゆってるのって顔してる。……わかるー。めっちゃわかるー。私だって、『魔女です。』なんて言われたら、まず頭を疑うよね。」
あれ、動けない。
「動けないよ? 朝倉さんは、私の操り人形だし。」
「な……。」
「そうそう、そういうリアクションが良いよね。わけわかんないけど、怒る、みたいな?」
すごく、怖い顔。
「……それをグッチャグチャにして、言うことを聞かせるのが、堪らないじゃない?? あはははははは。」
「――っ。」
怖い。
「お前はエサ、なのよ。」
「?」
「だーかーらぁ。朝倉さんは、エサなわけ。っていうか、女ひとりグチャグチャにするために、『人形の呪い』なんて使わないでしょ、って、わからないか。」
とにかく、動けないから、どうしようもない。
多分、ひとりで立ってる、よね?
棒に括り付けられたみたい。
夜の、教室。
浅野さんは、チョークで何かを描いてる。
「ま、アイツがくるまで、コッチはコッチで、楽しもっか?」
浅野さんが何をしてるのか、何にもわからない。
「ねえ、朝倉さんは、処女、でしょ?」
「――は!? えっ///」
「やっぱり??」
え、いや、、、初めては、5歳だったけど。
「暮がくるまでに、処女貫通させて、あげよっか。」
「は?」
「この子で。」
突然。パアッて、明るくなった。
机を退けられた教室の中。
――ぞる……っ。
這いずり出てきたのは、ヒモ?
イソギンチャク?
「これが、ローパー、だよ。うふふ。可愛い子。」
――戦慄。
「あ、初めては、痛いからね。私、優しいから、痛いかもだけど、気持ち良くしてあげるね。あー私やさしー。」
ウネウネ。
やだ、やだあっ!
「……っ!」
「声、出ないでしょ? 煩いのは嫌いだから。……さて、今宵は新月。魔女の夜♡」
蝋燭に点された火。
「『シェール・ペーテル・ポー……」
何かを火に焼べながら、ニヤニヤと笑ってる。頭おかしいんじゃない? って思うけど、動けないし。
「……メンニル・トレージェ』。――っ♡ っ♡ あはっ♡♡」
「な、なに?」
「この魔術は、術者が性的な快感を得やすくするもの♡ だから、うふふふふ、堪らないわぁ♡♡ ……だけれども、これも、呪いの一種♡ 呪い返しで、術者をごまかすなんて、魔女の嗜み♡ はあ……♡ 朝倉さんに、返すね??」
う。
あ。
「――ね?」
「……くぅ。」
なに、これ。
「ダラダラ垂れるでしょ?」
「――っ/// 変態!」
「うふふふふ。強がっても、この子に貫かれて、私たちは姉妹になるの♡」
「――!! ゃだ、やだやだやだぁ!!」
「強がっても、ダメ♡ じゃあ、ヤッて、」
いやぁ!!
ガシャァンッ!
「――待てっ!」
「……やっときた。構わないから処女貫いちゃいなさい。」
「え!? 待ってよ!」
ムリムリムリ!
でも体動かないし、っていうか、え、縄みたいな、なにこれ濡れててキモいのが体を縛ってくるっていうか、足開かせないでよ、いや、いやぁ!!
ヤダヤダヤダヤダ!
「やめろ浅野! ――朝倉さんっ!!」
グイッ。
嫌、嫌嫌ぁ!
「はぁい♡ ここでストップ~♡ くれぞーもストップ~。」
いやぁ!! イヤ……え?
「まあね~。本当に貫いちゃっても良いんだけど、それじゃあ、交渉にならないからね。」
交、渉……?
「くれぞーは、わかってるんでしょ?」
「ああ、狙いは、賢者の石……その、僕が持ってる欠片だろ。」
??
「そうそう、わかってるじゃない。」
「浅野さん。でも、本当に欲しいのは、賢者の石じゃなくて、エリキサの方、だろ?」
「……へぇ。」
「シオン修道会が影響力を持てたのは、ニコラ・フラメルの賢者の石から精製したエリキサによる治癒を、聖杯の奇跡として利用したからだ、なんて僕らの業界じゃ有名な話じゃないか。そして、それを隠した。だから、今でも、その権威は聖杯の奇跡に依らなければならない。」
「……。」
「常に、新たな賢者の石が必要で、僕がお師匠さまたちから貰った欠片を狙った。そんなところだろ?」
「だから、エリキサにした、って? 殊勝じゃない。」
――え?
は?
えっと、何の話をしてるのっていうか、私は放置なの!?
「なら、さっさとコッチに寄越しなよ。そしたら朝倉さんは帰してあげる。今なら、まだ綺麗なままだよ? だけど、」
グイッ。
え、ちょ!
「や、だあ……。」
「ウチのローパーくんは、エッチだからね~。早く決断しないと、くれぞーの目の前で、朝倉さんの処女、貫いちゃおっかなぁ~。」
ちょ、っとお! 暮さん! 見ないで! 足、開かれてるからパンツとか見えてるよね!?
もぉヤダぁ!
「ほらほら、早く決めないと、パンツずらして入れちゃうよ? くれぞー、朝倉さんのこと、好きでしょ?」
え?
え?
ええっ??
「……くっ。」
「え!? 暮さん!?」
「煩いなあ。だまってろ。」
「んんっ!」
また! 口がっ!
動けないっ!
「止めろ!」
「くれぞーもだまってろ! 『ペサメノス』。」
カチャン。
「――うぐっ。」
なにっ!? 何が起きてるの?
もお! 体動かないし、上向かされて、暮さんに向けて足広げられてるし!
「『割れグラス』も、効くでしょ? 机の並びは人の往来を作る……だから、その十字路で新月に割る青いグラスには、呪術の作用を持たせられる。……まさしく、思い込みが導く超常ね。」
私だけおいてけぼりの状況って!
「だけど、正式な呪いじゃないから、ぐっ、不整脈を起こすぐらいにしかならない、ということか。……魔女、浅野さん。」
「良いのよ。私にすれば、くれぞーの足を止められたら、それで十分。……私は召喚魔術の才能を買われたけれど、それ以外はからっきし。くれぞーが一番後悔しそうなコトをできたら、それで良いのよ。」
「ちっ。」
「だから、渡しちゃいなさいな。」
「……わかった。」
暮、さん。
「朝倉さんには、代えられない。」
「それで良いのよ。」
「だけど、浅野さんも信用できない。……だから、そっちもローパーを帰して。話はそれからだ。まさか、錬金術師が怖いわけ、ないだろ?」
「……いいわ。」
ドサッ。
痛っ。
「――っ!」
「ほら、帰したよ。」
「わかった。『人形の呪い』は、いつ切れる?」
「そんなの……はぁ。面倒な男。」
「朝倉さんの安全が確保できないなら、僕だってエリキサを、」
「ああああああ! 煩いなあ! 黙って従ってれば、いけしゃあしゃあと! お前もまとめて黙らせて、後でエリキサも賢者の石も回収したって良いんだよ!」
「待て!」
「ほら、朝倉も立てよ。」
私の体じゃないみたいに立たされて、浅野さんが怒ってるのが見える。
「魔法陣もグチャグチャ、ローパーくんも召喚できないなら、私の指でグチャグチャにするしかないでしょ?? おい、くれぞー早くエリキサ渡せよ!」
動けないからって、浅野さん! 胸を揉んだり体触ってきたりするのは……くっ。。。
「ほらほらぁ♡ 朝倉さんにかけた『淫呪』で大変なことになっちゃうよー? リンゴの裂け目にシナモンを抜き差ししちゃおうか♡♡」
「だ……め……。」
「ち、意思の力が強いじゃないか。で、どうする?」
「僕は。」
なんだかわからないけど、助けて欲しい気持ちと、ダメって思う気持ちが混ざってる。
状況がわからないし、何を言ってるのかもわからない。
でも、暮さんが、私のせいで困ってるのは、わかったし、浅野さんの言うことに従わなければ、私が大変なことになっちゃうのも、わかった。
夜の教室で、ウソみたいな出来事。
「暮さん。」
「あ?」
「朝倉さん!」
「私は、いいから。」
「……私はいいから、だって? じゃあ、初めては教室の椅子にしよっか。脚が40センチくらいあるけど全部入るよね? ね? な? な? さっきからうるせーし、そろそろマジでウザい。」
「好きにしたら?」
「朝倉さん!」
「暮さん。私、暮さんのこと、信じてますから。」
少なくとも、誰かを助けるために自分を犠牲にしてがんばっちゃうところとか。
だから、浅野さんは怖いけど、暮さんが私を見捨てたりしないって、信じてる。
それだけを、信じてる。
「ああそう。じゃあ、」
「私は、」
声が、変わった。
暮さんの姿を、ちゃんと見た。
カッコいいローブ姿。
「私は、クレイズ! C'raze・Craisen=Déranger! それは、粉砕・ひび割れ・知性の崩壊・狂気! その本質は、知性の崩壊。そして、欠けたるもの! ひび割れた月!」
「真名の、宣誓?? バカじゃないの?」
「崩壊の錬金術師!」
それは、怒りなのかな。
「お前を、殺す。」
「なにそれ、ウケるー。……冗談はよしてよ。後方支援しかできない錬金術師が。」
カチャン。
「ぐっ。」
「ほらほら。こんな簡単な呪術ひとつにすら、対抗できないじゃない??」
「私は、お師匠さまたちみたいに音楽で何もかもできるほど、研鑽していないから。」
「はんっ。カザノヴァが、ピタゴラスとケプラーを継承して、D'erlangerに繋がっていたのは、事実だったのかい。」
「燃えるような恋だの愛だのセックスだのってのは、ロックの基本だろう!!」
「だからなに!!?? 机の入り口はお前の住処の直喩になる! 『ペサメノス・ペサメノス・ペサメノス』! 死ね!」
「ぐあっ!!」
「暮さんっ!」
「――大丈夫。私の根源は、炎、真名を告げた今、その燈火を絶やすことは、難しい!」
「ちっ、面倒なヤツ。」
「錬金術での炎の象徴は、刃物だ。それは削り取るもの。Razeことの象徴!! C'razeの真名!」
「だから、何だっていうのさ。」
「知っているだろう? 私たちの技は、信じるところから始まるって。」
「……。」
「朝倉さん!」
「えっ、なに?」
「僕を、信じて。」
「――はいっ。」
「大いなる作業なんて必要ない。私たちは知っている。」
「何をする気だい?」
「朝倉さん。フロギストンは、あるよ。」
それを、信じろと、言うのね。
「はい。」
信じられるか、信じられないかで言えば、信じられない。
だけれども、暮さんが嘘をつくとも思えない。
こんな、変なことばっかりの夜。
ワザワザ振った相手を助けに来るなんて、もっと変。
何を信じたら良いか、なんてわからない。
だったら、信じたいものを、信じたい。
私は、暮さんのことは、ずっと見てたから。
だから、こんな変な状況じゃなくって、暮さんを、信じたい。
だって、さっき、僕、って、言った。
「――これは、硫酸だ。錬金術師なら、誰だって持っている。」
「だから?」
「聖水は、魔を払うという。……だけれども、私は、ただの水にそんな効果があるとも思えない。……そこには、からくりがあるのさ。――それを説明し得るのが、フロギストンだよ。」
フロギストンは、万物の燃素。
灰と、フロギストンから、物質は成るとされた。
それは、負の質量をもつという。
「……だから、魔女は箒で空を飛べるのだろう?? 自身が持つ豊富なフロギストンと、樹木のフロギストンの力を借りて、宙に浮く力を得る。」
「だからなに?」
「朝倉さんゴメン。僕は朝倉さんを傷つける。」
バシャッ。
ジューッ!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」
ジューッ!
「あ゛あ゛あ゛あ゛貴゛様゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
え、え、え?
私は、何ともないよ??
「大丈夫?? 朝倉さん!」
大丈夫って言いたいけど、喋れない。
「――ぷはっ。だい、じょぶ。」
あ、喋れた。
「――良かった。」
「え、っと?」
「ああうん。ゴメン。本当は、朝倉さんも、溶けてる。」
「え?」
「だから、これから、大量の水を被せないといけないんだ。」
「え?」
*** ***
いや、本当に大量の水を被せられるなんて、思わなかったじゃん。
しかも、溶けてく浅野さんのそばから動けないとか、ホラーだし。
「うん、だからね? フロギストン仮説だと、フロギストンを多く含む物質から、少ない物質へとフロギストンが移ることを……、」
もちろんね?
申し訳なさそうな暮さんのローブを羽織れたのは嬉しいんだけど、どうしてから、納得できないところあるじゃない。
「うん。最後にナイフを心臓に突き立てるなら、最初からそうしていれば良かったんじゃないの??」
「それは、そもそも魔女裁判が、どうして火刑に処すか、というところにもあるんだけどね? プネウマを放出させる目的の他にも……、」
もう、何言ってるか、わかんない!
「そんなことより!」
「そんなこと、って。」
「ねえ、暮さんが、私の告白を断ったのって、今日みたいなことが、あるからって、思ったから?」
「うん。」
「じゃあ、私はもう、関係者、だよね?」
「え?」
ほらほら、朝日も昇ってきたよ?
思えば長いこと、学校にいたんだね。
浅野さんの、魔女の力が、新月の深夜に最も強くなるから、かな。
「ねえ、暮さん。。。まだ、私は、暮さんのことが、好き、だよ?」
「え、、、いや。その。」
「どっち? 好き? 嫌い?」
「好き、です!」
「じゃあ、付き合おうよ。それで、私を守ってくれたら、良いんじゃない?」
「はい!」
「うん。よろしくね。」
えへへ。
本当は、私の方が嬉しかったりしてね。
ようやく、暮さんと付き合えたりして。
「……あ、そういえば、まだ、あの、、、効果が、残ってたり??」
「??」
「あの、『淫呪』の……。」
「あ、そうかも? でも、暮さんのことが好きなのは、本当だよ?」
「え……はい/// あの、それでも、一応、解呪しておかないと。今なら『ベルティナの朝露』も、」
「え? なんで?」
「え!? だって、解呪しないと、その、、、ずっと、」
「ずっと?」
「朝倉さんが、、、その、」
「えっちに、なっちゃう??」
「~~~~っ! なんで自分で言っちゃうんですか!?」
「暮さんだったら、構わないですよ?」
「え!?」
「はいっ。暮さんなら、構わない、ですよ??」
「えっと、えっと! 普段の僕は抑えてるから! ……僕の本性と真逆のことをしなきゃって抑えてるから、アレですけど、」
Raze、破滅主義的な、燃えるような享楽主義。
ああ、だから、暮さんは、自己犠牲を払うのね。
「抑えられなくなったら、壊れるまで貪ぼっちゃう、よ?」
でも、そんなことなら、構わないの。
「はい♡ どうぞ♡ 伊月くん♡」
~fin~
参考文献
https://www.etymonline.com/search?q=craze
https://www.etymonline.com/search?q=raze
https://www.etymonline.com/search?q=derange
https://en.wikipedia.org/wiki/Frédéric_Émile_d%27Erlanger
https://ja.wikipedia.org/wiki/ジャコモ・カサノヴァ
https://ja.wikipedia.org/wiki/フロギストン説
「図解 近代魔術」、羽仁 礼、新紀元社
「図解 錬金術」、草野 巧、新紀元社
「悪魔の呪法全書」、ビーバン・クリスチーナ、二見書房
日本ビジュアルヒストリー、暮伊豆、https://ncode.syosetu.com/n1917fh/
実は、ガッチガチに下調べをした、ローファンタジーなのでしたっ><