表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/24

告白 9

 時計を見た。式の時間まであと10分。

 東吾は顔をあげると、もう一度死体の方を睨みつけた。邪魔だ。どう考えても邪魔だ。

 初めは動揺したが、よく考えれば、この死体さえなければなんとかなるんじゃないだろうか?

 牧師の失踪。

 それ自体は多少の騒ぎになるのかもしれないが、雪子が忌々しい警察に拘束され、自分の幸せをかき乱されることと比べたら、こんな中年の死体一つの隠ぺいの方がずっと取るべき道の様な気がした。

 披露宴は別として、式には幸い、雪子の親族と自分の仲間しか呼んでいない。勘当状態の自分の式に親族を招待しなかったのが、今になって幸いした。

「雪子。ひとまず逃げよう。それから幾らでも君の話を聞くし、これからの事も考える」

「え、でも……」

 雪子は戸惑い眉を寄せると、死体の方を見た。

 東吾は昔の感覚がよみがえるのを感じながら、口の端に笑みを浮かべた。人を一人殺したきりの雪子が殺し屋と言うのなら、自分はその道のプロだ。

 『やんちゃ』だった頃、殺しはしなかったが悪事の隠蔽は山ほどした。父親が警察のお偉いだから、という安心感が行動を大胆にさせていたのは否定しないが、そんな権力を行使したのは数えるほどしかない。

 そして、その頃の仲間は、今日、ここの式に来る仲間だ。

 多少、金はかかるかもしれないが、お互い弱みは握りあっている。さほどのリスクもデメリットも負う事なく協力は望めるだろう。

「言っただろ。俺は君のためなら命だって差し出す覚悟なんだ。君を守りたい。だから、誰かが来る前に……」

 素早く頭が回転する。まずは携帯で仲間の一人に連絡を取り、式場の他のスタッフがこの現場に近寄らないように工作してもらう。その間に、他の手の空いた連中には死体処理に回ってもらおう。

 それが無理なら、アリバイ工作だ。

 アリバイ工作。そうだ、それのがいいかもしれない。 

 雪子がここに来た時は神父はもう死んでいたというのはどうだ?そして、あまりの事に驚き、落ちていたナイフをたまたま拾ってしまっただけなんだと……。

 何かを隠ぺいし、事実を曲げるのなら。嘘は最小限がいい。

 100ある事実の中で、99の事実に1の嘘を混ぜてもまずはばれないし、ほころびも少なくなる。その1の嘘が、隠したい事実を隠蔽する、その一点のみに効果的であればいいだけの話だ。

 東吾は自身の中で素早く方向性を決めると、雪子の方を振り返った。

「でも」

「君の父親が同じ立場なら、きっと、同じことをしたと思う」

「東吾さん」

 目を伏せる雪子。その俯いた顔も美しいと思った。そう思うと、尚更、彼女を守らねば、そんな気持ちがわき上がり、東吾は彼女の手を強引に引いた。

「行こう」

 二人が立ちあがった、その時だった。

 教会のドアが音を立てた。

 ぎくりと心臓が跳ね、喉が一気に締めあげられた。

「東吾さん」

 雪子が声を震わせ、自分にしがみつく。

 東吾は思わず雪子を庇うように彼女の前に立ち、その方向を凝視した。

 ゆっくりと扉が開き、外の光が薄暗い教会に差し込む。空気が流れ、外の空気とここにある鉄の匂いの濁った空気が交ざり合い始める。

「大丈夫」

 東吾は雪子の手の上に自分のそれを重ねた。

 僅かに開いたその扉の隙間から、何者かの手が覗いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ