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告白 7

 父親はいなかった。俊は母親や妹弟達に裏口ではなく、トイレの窓から逃げるように指示すると、台所に急いだ。この狭い家で、生活場所にしている部屋意外にある部屋はそこしかないからだ。

 火の手が一層広がり、家を覆いつくそうとしている。

 俊は父親を呼びたい気持ちを堪え、煙を吸わないように煤で汚れ初めた袖で口を押さえ進んだ。放火されたのなら、犯人が残っているかもしれない。そう思ったからだ。

 途中、農作業用の鎌を見つけ、手に取る。

 柄を持つ手が震えていた。

 家族の思い出が、生活が、全てが炎に飲み込まれていくのを横目に、台所に続く戸口から中を覗き込んだ。

 すぐに足が見えた。

 動かない、丸太が二本並んだように転がっている。

 息をのむ。

 覚悟を決める。

 事実を、受け入れる覚悟を、だ。


 父親は、死んでいた。


『誰だ!』 

 炎の向こうで鋭い声が飛んだ。

 父の傍で、銃を持った男がこちらに銃口を向けて立っていた。その途端、頭が真っ白になった。

 全てを奪う炎。父親を奪った男。

 どうして、どうして、

 僅かなものまで運命は自分から取り上げるのか。

 どうして、どうして、

 かけがえのないものまで運命は自分から奪おうとするのか。

『くそぉぉぉっ!!』

 次いで男が何かを言ったが、俊には聞こえなかった。

 男に突っ込んで言ったからだ。

 男ごと後方に転倒し、銃声が一発、夜の闇に轟く。

 男が銃を取り落とす前に撃鉄で俊の手を弾いた。鎌はその拍子に炎に中に消えてしまった。

 家の屋台骨が崩れ、天井の梁が男のすぐ後ろに崩れ落ちて来た。遠くでガラスが割れるのが聞こえ、母親の声がした。

 俊は、家族が遠ざかる音を聴きながら、男に馬乗りになり、思いっきり顔面を何度も殴りつけた。

 何度も、何度も、何度も。

 拳に血の匂いがついた。

 歯の欠片が自分の頬に掠めた。

 熱気が喉を焼こうとしていた。

 男が命乞いを口にしていた。折られた歯の隙間からそれは言葉と言う形にはならず、俊には自分達を囲みだす炎とその男の出血に、全ての世界が赤く染まったようにすら見えた。

 夢中で、ただただ殴った。

 哀しかったのかもしれない。

 こんな現実に、こんな生活に、こんな……。

 もう、このまま死んでもいい、そうんな思いが頭をかすめた時だった。

 背中から声がした。

 ふりかえると一番下の弟だった。逃げ遅れ、自分を必死の思いで探しに来たのだ。

 弟は震えながら泣いて、俊の名前を呼んでいた。

 その時、自分はまだ、死んではいけないのだと悟った。

 もう、自分の下の男は動いてはなかった。

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