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告白 6

 それから、二人はごくごく普通の順序を辿って結婚した。他の日本人と違う所と言ったら、俊の両親が偽物だったくらいだろう。金を払えば、そういう役割を演じてくれる人間はいくらでもいる。

「私の家族のようにね」

 雪子はそう言って、小さく笑った。何かが面白いというより、それは相槌の代わりのもののような笑みだった。

 東吾は彼女から紹介されたあの女性たちの事を思い出し、「本当に、僕は信じてたよ」とまだ嘘の方が信じられない気持で呟いた。

 雪子は首肯し、再びナイフの方へと視線を戻した。

 俊はそれから数年は、本当に幸せだったという。

 日本人になり、日本の社会の中で、日本の生き方をし、日本の幸せだとしても、幸せだったと。

 愛する女がいて、毎日食事ができて、安心して眠れる。

 時々、国の人間の事を考えては、言いようもない罪悪感にさいなまれもしたが、妻の笑顔を見ていれば薄甘い非現実的な現実に身を沈めていられた。



「そして、数年の歳月が経った時、私が授かったの」



 俊は自分でも信じられないほど喜んだ。

 日本人と自分の子ではない、女との子どもだと思えたからこその事だったが、それでも、新しい家族、新しい故郷のさらなる絆として子どもが授かったというのは喜ばしい事だった。

 女の方は仕事を辞めた。

 もう、その頃には諜報活動の一切も必要もなくなっていたから、問題なかった。

 日に日に膨れていく彼女の腹。

 それにそっと手をあててみる。

 ポコんと動き、二人で顔を見合わせる。

 こみ上げる喜びに自然に零れる笑顔。

 掌を蹴り返して来た命の存在に、明るい未来しか彼の前には広がっていないかのようにすら思えた。 

 彼が子どもの頃は、赤ん坊の誕生をこんなに手放しに喜べる日が来るなんて想像もつかなかった。

 食べるものもなく、数日で口にできるのは米がひとかけら、そんな状態も珍しくなかった。無防備に眠るなんて事もない。

 いつ、どこで起こるかわからない爆撃や急襲に怯え、浅い眠りが引き連れてくる悪夢の中をまどろむしかなかった。

 女の腹の膨らみが、遠い過去を俊の中に息づく記憶を呼び覚ます。



 俊が14の時だ。

 母親の臨月が近いその夜、煙の匂いに俊は目が覚めた。

『放火だ』

 慌てて起き上がり、母親や妹たちを起こしながら父親の方を見た。

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