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告白 4

 雪子の父親の名は「そうね、ここでは俊とさせてもらうわね」と断り、母の名前は「私も知らないの」と恥いるように付け加えた。


 日本名、林俊はその時、IT関連の企業に勤めていたらしい。政府関係の仕事も請け負う結構大きな企業だそうだから、半民半官な天下り企業だったのかもしれない。

 どうやってそんな所に潜り込めたのか、雪子は詳しい事は知らされてはいないが、母親となる女性出会ったのは、その職場だったそうだ。

 俊は、当時システムエンジニアで重要なポストについていた彼女から情報を引き出す為、少なくともそういった場所に近づくために恋人関係にこぎつけていた。


 国が消滅し、数週間経ったある夜の事だった。


 俊はどれだけ手を尽くしても、どうにもならない状況にようやく絶望し、浴びるほど酒を飲んで、バーで潰れてしまった。

 女は忙しい中、俊を迎えに来、優しく介抱しながら「仕事の失敗は誰にでもあるわ」と見当違いの慰めの言葉をくれ、彼女の部屋に泊めてくれた。

 俊は、そんな心から自分を信じ、隣で安らかに眠るその寝顔を見つめながら考えていた。

 数年、日本に住んでいても、好きになれなかったこの国とこの国の人間の事を。

 この国は俊からみれば、嫌悪を通り越し、薄気味悪さすら覚える国だった。

 入国して、すぐに驚いたのは、この国の人間の政治への無関心さだ。新聞をめくったり、酒場に行けばそれなりの政治批判も聞こえてくる。でも、この国民は「困った」「腹が立つ」と口々に言う割には、誰一人として行動しようとはしない。それどころか、選挙権すら行使しない輩がほとんどだった。

 自分の国では、数年前、選挙権を求めた闘争が起こり、多くの命を失ったというのに……。

 また、理解できないのが、幼児のような振る舞い、嗜好の成人が多い事だ。大人になっても、子どものような話し方や考え、果ては「大人に何かなりたくない」と現実から逃げる人間すらいるらしい。

 現実逃避はまだ理解できる。

 俊の国でも、現実を憂い、麻薬や酒に命を削る人間はたくさんいた。しかし、日本との違いは、そうやっていれば必ずその先に死がある事だ。

 なのに、何だ、この国は。

 そうやっていても、そういった人間のほとんどが飢えはしないし、もちろん死にもしない。逆に、この国を築いてきた老人、未来を担う子供には極端に冷淡だ。

 大切にされるべき存在が無視され、命を落とす。

 税金を払っても保障されない医療と生活、歴史と未来に敬意を払わない風潮。

 また、自分を産んだ親にも、物を教えてくれる教師にも敬意を払いもしない。いい所、友達扱い、軽蔑すらする場合もある。


感謝を忘れ

生き方を忘れ

モノだけが飽和した

絶望しか見いだせない国


「頭がおかしくなりそうだ。ここはネバーランドなのか」

 俊はよく酔っては、女にそう訊いたものだった。

 その度に女は「俊にもそんな子供っぽいところがあったんだ」と笑った。

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