告白 18
− オルゴールが最後の音を鳴らし
二人の転倒が酷い不協和音を立てる
− 愛しあう二つの人形は見つめあう
雪子は構わず馬乗りになった
− もの悲しくも甘いメロディーが静かに闇に溶け
影は男だ。呻く声がそれを教え、相手の苦痛がさらなる欲望をくすぐる
− 人形は背をむける
自由を奪うために男の体の上を這い、その手首を締めあげた
− 最後の逢瀬は終わり、人形は再び闇の中
首を巡らせ、相手を覗き込む。月明かりに照らされていて、その顔が露わになっていた。
− 扉が閉じた
ぞくぞくする興奮に頬を染めた雪子の目と、その目が交錯した。
− ラストダンスが終わった
雪子は言葉を失った。
目を見開き、息を飲む。
時計は切ない恋人達の逢瀬をその中に閉じ込め、もうここには永遠に甘い旋律は流れないと告げるように、無機質で無情な時を刻み始める。
雪子を見つめ返す瞳は、ナイフのように鋭く、氷のように冷たかった。
だが、雪子の鼓動はもう歓びの歌を歌わない。何故なら、冷たく、冴え冴えとしたその瞳は
「お父さん」
愛してやまない、唯一の人、林俊。その彼の瞳だったから。
雪子は糸を切られたマリオネットのように腕をたらし、ただただ信じられない思いで彼の目を見つめた。
暗闇に沈黙が、冬の夜明けの湖に張る薄氷のように広がっていった。
その薄氷の上を吹き抜ける風のような声が、した。
「見事な動きだ」
父親のその目は笑みに細められている。雪子は緊張にひきつっていた頬をふと緩め、手首を締めあげていた力を解いた。
なんだ、父の試験だったのか。安堵のため息が静かに鼻から抜けかけた時だった。
「だがな、いつも言ってるだろう?」
鋭い声が飛び、緊張に雪子は再び眉をよせる。
父は一度目を伏せると
「お前には接近戦は不利だってな!」
次の瞬間、思いっきり雪子の顎が打ち抜かれた。
世界が真っ白になり、意識が遠のきかける。
彼女のまだか弱い体は宙に浮き、後方に吹っ飛んだ。体が重力に従い床に叩きつけられる、しかし、雪子が意識を十分回復させる間を、父は与えなかった。
すぐさま彼女の体を蹴り上げる。振りぬかれた足には雪子の骨が幾本か折れた事を教える感触を伝えていた。
迷いも躊躇も、情けすらないその動きは……。
雪子は壁にしたたか背を打ちつけられ、ぼんやりとしながらも近付いてくる、輪郭のぼやけたその影を見つめた。指先に固いものが触れるが、視線を一時たりともその影から離せない。
なぜなら、影が発するのは訓練や試験の様な生温いものではなかったからだ。
ピリピリと肌を射し、心臓を射抜くような鋭い感覚。
そう、これはきっと殺気だ。
父は、いや、林俊という男は今、本気で自分を殺そうとしている。
「何故」
鈍い痛みに呻きながら、雪子は触れた何かを手の中に収め、なんとか崩れてしまいように壁に寄りかかると、男を見つめた。
見たことのない顔だった。
自分を優しく諭す父のものでもなければ、厳しい訓練を与える教官のものでもない。
敢えて言うのなら……敵、だ。
雪子の頭は混乱していた。
どうして父はこんな事をするのだ?自分をパートナーとして認めたのではなかったのか?そのために今日一日、一緒に過ごしてたのじゃないのか?
父ハ 自分ヲ
愛シテイタノデハ
ナカッタノカ?
父親、いや、林俊は忍ばせていたのだろう、ナイフをこちらに真っ直ぐに向けると、無慈悲なほどの冷たい表情で雪子を見つめていた。




