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告白 17

 相手は男か女か、武器はサイレンサー付きの銃のみなのか、そもそも相手は一人なのか、様々な可能性を頭に叩き込みながら、雪子はその瞬間を待つ。

 それは、相手も同じようだ。雪子がテーブルの下に隠れているのはわかっているはずだ。獲物を狙う肉食獣の様な視線が、雪子のシルエットをじっと見つめていた。

 時計の針の音だけが、この薄暗い世界で快活に動いていた。

 父親が唯一買い替えなかったものだ。祖国から持ってきたものだから、と。古い木製の仕掛け時計だった。

 大きさは70cmほどで、壁に掛けられてはいたが結構な重量感のあるものだった。下の部分に大きな振り子が揺れていて、上の部分の文字盤の真ん中には小さな窓がついている。

 その窓はなぜか、8時を指す時だけ開き、中から可愛らしい女の子と男の子の人形が出てくる。そして音楽に合わせて踊るのだ。

 なぜ、そんな中途半端な時間なのかわからなかったが、父は昼と夜の別れの時だからだと雪子には教えてくれていた。

 別れの前のラストダンス。微笑み合う男女は泣きながら笑っているのだと。

 時計の長身が傾く音がした。

 窓が開く。 

 それが、合図だった。

 影が銃を構えた。

 雪子がテーブルを蹴り上げた。

 照射された弾道はテーブルを貫き、雪子の肩の肉を数ミリ抉ったがそんなのは痛みのうちには入らなかった。

 心臓が喜びの悲鳴を上げていた。

 雪子は低くかがんだ体勢から、しなやかなその足の筋力をしならせ思いっきりしてとの距離を詰めた。

 直線な動きは危険だが、迷いはなく隙が少ない。

 雪子は躊躇なく拳を突き出した。

 しかし、影は頭を横に振り寸でで避けると、雪子の腕の内側を軽く弾いた。

「!!」

 それだけで雪子の軌道はずれを見せ、着地を危うくする。しかし、雪子の口元には笑みが浮かんだままだった。

 雪子の最大の武器、それは柔らかな体と天性の勘だった。 

 床に崩れおちそうな体を、柔らかく関節を曲げ、しなやかな筋肉を床に押し当てるようにし、転倒を回避させる。

 そのまま軽く手をつき、思いっきり足を払った。

 影はそれを軽やかなステップで避ける。

 オルゴールの音が優しく流れていた。

 別れを憂い、愛を引き裂く運命にそれでもほほ笑む二つの人形。

 カーテンが揺れる。青白い月明かりが切れ切れに部屋に差し込み、相手の手や足元を照らした。

 銀色の光は雪子の烏羽色の髪に揺れ、その白い肌をさらに白く見せた。

 雪子が手を繰り出す。

 影が避けて銃を放つ。

 雪子が避ける。

 二発目が放たれる。

 それに今度は向かうように踏み込む。

 思いっきり雪子の足が跳ねあげられた。

 銃を持つ手にそれはあたり、黒い鉄の塊が放物線を描いて部屋の端に鎮座する暗闇に飲み込まれた。

 音楽が流転する。

 終幕に向かうのを知る踊り子はそれでもステップを止めない。

 影が踏み出し思いっきり腹を蹴り上げた。

 回避すようとするも、一瞬遅かった。

 凶器と化したそれは、思いっきり雪子の体を二つ折りにするように振り切られる。

 しかし、雪子の勘はその持ち主を助けていた。

 腹に食い込む、その僅か前に自分で後方に飛んだのだ。そのために衝撃が緩和され、雪子はその足にしがみつく。

 体中が喜びの声をあげていた。

 命をかけたスリル。

 恐怖と興奮の狭間の快感。

 自分の中に秘められていた狂おしいほどの攻撃性に、心が躍る。

 雪子は、笑顔に顔をゆがめながら相手を思いっきり引き倒した。

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