告白 13
それは、昔話をするような口調でも、用件を伝えるような口調でもなかった。まるで、少年が隠しきれないその想いをこらえきれず思わず漏らしてしまった、そんな口調だ。
雪子の心臓が跳ねあがった。
とたんに、体中に熱を感じ手を握りしめる。ふわふわとした不安定でいて笑みを耐える事の出来ない、なんとも柔らかな気持ちに雪子は泣きそうにすらなり、父のその視線から逃げるように自分の足元を見つめた。
『雪子には、初めては誰がいいか父さんなりに考えたんだ。でもな』
父が初めて自分に視線を合わせるのを感じた。彼の影が縮まり、自分を同じ大きさになるのを見つめる。
自分の存在の意味を、雪子なりに理解しているつもりだった。
他の同い年の子どもと違う事はとっくに心得ていたし、特別なその境遇を誇りにすら思っていた。
自分にとって、林俊という人間は父親と言うだけではない。あえて言うのなら、全て、だったのだ。
雪子は、彼の為に生き、彼の為に命すら投げ出したいと思っていた。
母親とは違うのだと思いたかった。母より選ばれた自分はその気持ちにこたえたいと思った。
だから、幼い頃から何度大けがを繰り返そうが、寂しい思いをしようが、厳しい訓練や勉強を強いられようが、平気だったのだ。
父は自分を愛してくれている。母親よりも、自分を選んだ事が何よりの証拠だ、と。
『父さんは、雪子の成長を一番に自分で実感したいんだ。……いいね?』
その言葉に、自分の中にあった硬い硬い蕾がふるふると震え、雪解けのように解かれるのを感じた。
ようやく、ようやく、自分は、ただの娘ではなく、父のパートナーとして認められるのだ。
一瞬にして込み上げて来た高揚感は、雪子の声を震わせた。
どのように、何語で返事をしたのか覚えていない。
しかし、雪子の返事に、俊が嬉しげに頷いた、それだけは雪子のその心に深く刻まれた。




