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告白 10

 その手はゆっくりと扉を開き、その身を滑り込ませてきた。

 東吾は小さく声を上げる。

 現れたのは、一人ではなかったからだ。

「お義母さん、それにお姉さんたちも……」

 現れたのは雪子の家族だった。いや、雪子の話が本当なら、家族を装った全くの他人と言う事になるのだが、東吾には他の呼び方が思いつかなかった。

 義母……役の晴美、続いて姉の氷雨に妹の風香が教会内に入って来た。三人は二人の様子に特に不審がる様子も見せず、にこやかにこちらを見ていた。

 晴美は新婦の母親らしい清楚なドレスに、黒い手袋をしていた。そういえば、彼女はいつも手袋をしているな、と東吾は小さく首を傾げた。

 料理教室をしている関係、手が荒れやすいからだと聞いていたが、もし、胡散臭い家業の人間なのだとしたら、料理しているのは食材ではないのかもしれない。

 その彼女が、すっと切れ長の目を細めた。

「今日はおめでとう。雪子。そして、東吾さん」

 薄く引かれた紅の合間から零れる声は、祝福そのものの喜びに満ちていて、東吾は困惑した。

 彼女達には後ろの死体が見えないのか、その事が気になり、もし、まだ気がついていないのならやり過ごせるのではないかと、少し体をずらした。

 しかし、そんな奇跡は都合良くは起こらない。

 末娘の風香は、彼女の通うとい女子高の学生服そのままで両手を腰に当て、少々こ憎たらしい表情で歩み寄りながら東吾の顔を値踏みするように見つめた。

 丈の短いチェック柄のスカートが妙に挑発的に見える。

「何? これから、どっか行くつもり? 死体のオッサンを置いて」

「風香ちゃん……」

 風香はその、肩の辺りで外側に跳ね上がった茶髪を揺らし、生意気そうな笑みに顔を歪めた。

「そりゃ、駄目よ。全く、駄目よね。逃げても、死体は残っちゃうじゃん。すぐにお縄頂戴。アウトだよ」

 風香は東吾の前で足を止めると、その鼻先に自分の人差し指を横に振って見せた。

「いい? 殺人の作法としては、罪を誤魔化すなら完璧に隠すか、自首して正当防衛だったふりをするかだよ。雪子姉さんの場合、美人なんだから、このおっさんに言い寄られただのなんだの言えばいいじゃん。それとも、もう、オッサンは見つけた時には死んじゃってた事にする?それもナンセンスよ。雪姉さんについた血が返り血かそうでないかくらい、調べればすぐにわかる。じゃ、これはどう? たとえば……」

 風香は次から次へと言葉を繰り出して行く。東吾は自分の考えまで事のついでのように否定され、少し決まりの悪い思いをしながらも、他の事を考えていた。

 風香にしろ、晴美も未だに一言も発しない姉の氷雨もこの死体が怖くないのか? と、言う事だ。 

 三人とも死体の存在はわかっているようだ。なのに「きゃあ」の悲鳴の一つもなく、死体に落とされる視線はまるでカーペットにできた染みでも見ているようだ。

 と、いうことは……。

「あの、もしかして皆さん、ここに死体があるのをご存じだったんですか?」


 東吾は風香の話の切れ目を待つのを諦め、彼女の息継ぎの、その僅かな間に思い切って小さなその疑問を口にした。


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