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「ねぇ、アルト・・・アルトが何でそんなこと知ってるの?王国の英雄譚では『勇者』は『魔王』に『転職』してないよ?それに魔族領の英雄譚には『魔王』が倒された後、新たな魔王がその座について、今の体制を築いた・・・って」


「えぇ、そうですね」


「なら、なんでアルトはそれを知ってるの?私も知らないのに・・・・」


「怖がらなくても大丈夫です。ちょっと長い話になりますが、僕の話を聞いてくれますか?」


 そう不安そうに僕を見てくる師匠に、僕は話し出した。


「僕は、生まれ変わりなんです。前世の記憶を持った。だから勇者の話も知っています。丁度、僕が生きていた時代でした。あの時は本当に酷かった。国は魔族との戦いの為に、国民から税を取り立てていて、国も民も長い戦いで疲弊しきっていた。そこに、師匠も知っている、女神の啓示を受けた勇者が誕生したんです。彼は貴女に教えを乞うために、知恵を貸して貰うために何度も貴女の元を尋ねました」


「うん。何回も来た。そしていろんなことを直ぐに吸収したよ」


「そうですね、国民の、国の期待を一身に背負っていた彼は、どんなことにも貪欲に吸収しました。そして貴女に最後に会いに来たのは、『魔族領へ入る為の海を渡る方法』を教えてもらった時ですね」


「・・・・うん、そうだ!その時が最後だ。だから私は彼がその後どうなったのか知らないんだ・・・。今まで思い出さないなんて、なんて薄情なんだろう私・・・・」


「貴女が傷つくことはありませんよ。彼は会いに行けなかったのですから、探さないでいてくれて安心していました。だってあんなにも、魔族を、魔王を倒すために教えを請いに行っていたのに、最後には倒される側の領域に行ってしまったんですから」


「でもそれは仕方がない事でしょ?悪いのは国王なのだから・・・・」


「そうですね、当時彼は国王を、国を、人を憎んでいました。でもね、いつも思いとどまるんですよ。人の領域には自分が大切にしたものがあるから。だからどんなに憎んでも、傷付ける事はしたくなかった。その内、彼は長い時間をかけて自分の心と折り合いを付けて、人と手を取り合える方法を模索し始めたんです。もう一度、人の領域にある大切なものに会うために。そして彼は再び、長い時間をかけて今度は魔族領の発展と平和に力を注ぎ、人と共存出来る様に最初の礎を作ったんです。そして、次の世代に託した」


「亡くなった・・・?」


「えぇ・・・彼は人間です。自分の心と折り合いを付け、魔族と人との共存出来る礎を作った時には、もう旅をする力が残ってはいませんでした。彼の心残りは再び、彼の地にある大切なものに会いに行けなかった事です。そして、天寿をまっとうした彼に、女神が会いに来たんです。『人の為に尽くし、人に裏切られ、それでも魔族と人との調和をのぞみ、尽力した貴方の最後の願いを叶えましょう』と、そして彼は願った。最後の心残りに会いに行くことに、共に歩くことを」


「それは、誰か・・・だったの?」


「えぇ、そうですよ。大切な人が壮絶な旅の中で出来たんです。彼は世界とか、人間とかどうでも良かったんですよ。勿論、最初はそんなこと思ってもいませんでしたが、彼女に出会って、一緒に過ごす内に『彼女の為』が彼を動かす原動力になったんです。だからこそ、人に追われた彼は彼女に会いに行けなくなった。彼女に会って今の自分を見て、どう思われるのかを知るのが怖くなったんです」


「そんなの・・・会ってみないと分からないのに・・・」


「彼にはその答えに辿り着く事が出来なかったんですよ。彼も一人の男だから、好いた人に恥ずかしい所を見られたくなかったんです。・・・さて、メリッサ。僕は最初に生まれ変わりと言いました。気付いてくれましたか?」


「うん・・・アルトが・・・・アルトが彼の生まれ変わりだったんだね・・・」


「そうですよ。そして、僕が愛した大切な人は・・・・・メリッサ、貴女です。僕は貴女を愛して、貴女に再び会いたくて、貴女の元に再び行きました。だから僕は、貴女と一緒に居られる事が出来て凄く幸せです。これからも、一緒に居させて下さい。メリッサ、貴女を愛しています」


 最後のはとても勇気が必要だったけれど、本当の気持ちだ。

 やっと、伝えられたことが嬉しい。

 でも・・・・彼女に断られたらと考えると、この後僕はどうしたらいいか分からない・・・。

 そんな僕に彼女は突進してきた。


「うッ・・・・メリッサ・・・・痛いです」


「うわぁーーーーん!!!アルトのばかぁ~!!!なんでもっと早く言ってくれないの!!!!」


 いきなり泣き出すメリッサに僕は慌てた。


「そんな・・・無茶なこと言わないで下さいよ。いきなり、『生まれ変わりだ』とか『ずっと愛してた』とか軽いノリで言えませんよ・・・・」


「そりゃ・・ぐすッ・・そうだけど・・・ぐすッ・・」


「僕も黙っていてすみませんでした。だから、ほら泣き止んで?」


「うん・・・あのね、私もね話さないといけない事があるの・・・・」


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