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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
知るべき時

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98/246

#98 解決への前進

 心地よい風が肌にかかるようになったのを感じてきて目が覚めてきた。布団を片付けて外に出ると魔力を込めて槍を振るっているキュミーがいた。


「あっおはようお兄ちゃん!起こしても起きなかったから鱗槍術の修練してたんだ」


 昨晩のように久しぶりにちゃんとした食事を取り、満足に睡眠する時間も確保しないで捜索していたので眠りが深かったのだろう。それにしても身体が大きくなったからか前見た時よりも華麗に槍を振るっておりまるで踊りをしているかのようにも見えた。小さい時は槍だけでの攻撃しか出来ていなかったがそれに加えて身体を使った複雑な攻撃も出来るようになっていた。


「よし今日はみんなを探しに行ってみよう。途中食糧になりそうなものも確保しながらね」

「うん分かった!」


 と言って髪飾りに持っていた槍を収納してこちらに駆け寄ってきた。昨日漂着していた海岸とは逆の方に探索をすることにした。そこらから生えている背の高い木に実がなっていることに気づいた。

 取ってみるとかなり固い皮をしていたので剣で斬ってみると中は赤くみずみずしい果肉だった。かぶりついてみるとかなり酸味が強い果物ということが分かった。

 誰かと合流した時に食べられるようにと実をもう1つ取って進んでいく。すると建物が並んだ町らしきものが見えてきた。近づいていくとフィンシー族が見えてきて自分を見ると目を凝らされた。よく確認されたあと驚いた表情をしてこちらに向かってきた。


「お、おいあ、あんたもしかしてヒュード族か?」

「そ、そうです、はじめまして」

「ああはじめまして。こんな海底でまさかフィンシー以外を見れるなんてな」

「いやぁ船から落ちちゃってこの子に助けてもらったんですよ」

「ああそういうことか。いやぁきみもえら...ってぇぇぇ!?」


 キュミーの顔を見た途端更に驚いて腰を抜かして街の中に消えて行ってしまう。置いてかれてしまった自分達は互いに顔を見合わせて首を傾げる。段々と街の入り口にたくさんの人が集まってきた。その中から先程の人ともう1人男性が慌てて走ってきて、こけたと思ったらそのまま頭を下げて自分らの前に正座で滑り込んできた。


「よくぞ生きておられましたヒュリル様ぁぁ!!」

「ヒュリル?あ、そっか私の名前か!」


 そうだった自分は今まで通りキュミーと呼んでいた。そういえばこの子この海底王国ヒルドリアの王女様なんだった。すっかり忘れていたしなんなら本人もその自覚がなく、たった今思い出したような感じだ。

 自分も勇者と呼ばれ始めた頃こんなことがあったし、最近も似たような事が多いような気がする。顔が擦り傷だらけの男性は急に立ち上がった。今度は勢い余って腰をやってしまったようで今度はうずくまっている。


「ど、どうしますか?わ、私の家に、い、一応王都と連絡を、と、取れますがどうしますか?」

「あの落ち着いてください。気持ちは分からないこともないですけどとりあえず大丈夫ですか?」

「おじさん大丈夫?」

「いえヒュリル様の手を煩わせるわけには行きませぬ!ささ、とりあえず私の家までご案内いたします!どうぞお連れ様もどうぞどうぞ!」






 腰を押さえた町長によって案内され応接室らしきところで椅子に腰かけた。村長は奥の豪華な椅子に座りこちらに見据えた。


「えーゴホン、それでどういったご用件で我が村の方を」

「あっそうですね。確かにヒルドリアに行きたいのはそうなんですけどその前に自分達の仲間を探したくて」

「お仲間をですか?船に乗っていたと聞いておりますが今地上にいらっしゃるのではないですか?」

「その可能性はかなり低いですね。長いこと漂流して船そのものに限界が来ていたので時間の問題だったかと」

「そうですか。まずは伝書鮫を泳がせておきましょう、届いてから迎えが来るまでの間にこの場所に向かうといいでしょう」


 壁にかけられた地図の前に行って指を差してくれた。地上にあるような大陸地図のようなものだろうか?半球状の空間が5個あって1つ隣の何かの建物を指していた。


「そこは?」

「今我々がいるこの町のあるが第四ヒルドリア球領なのです。隣の第三にはですね、海域に異常がないかを調べるヒルドリア王国警備隊の詰所があります。ここでなら何かしらの情報が掴めるかと。町の外れの小屋の近くに転送術式がありましてそこから向かえます」

「町の外れの小屋ですか?」

「パッと見は廃屋のような物がありまして、その近くにしばらく使っていない埋もれている祠があってそこから行けるかと」


 廃屋に見える小屋というと自分達が拠点に使っていたあの場所の近くにあるのか。確かに見た感じはどこにも見当たらなかったので本当に埋まっているのだろう。伝書鮫というものがどんなものか見届けたあと、キュミーが町を見て回りたいと言った。自分達は海底の街並みを堪能しお店や屋台を巡ってお腹を満たして元来た道を戻ることにした。


「お兄ちゃん手を出して!」

「うん?どうした」

「さっき見ててお兄ちゃんに似合いそうだから買って見たの使ってみて!」


 といって渡してきたのは中々見事な模様が施された剣の鞘だった。武器屋に寄った時に買っていたのはこれだったのか。確かにかなり前に新しい鞘が欲しいなとぼそりと言ったことがあったな。まさかキュミーにプレゼントをもらう日が来るとは思いもしなかった。

 記憶を取り戻して精神年齢も上がったのだろ・・・うん、そう考えるとこの前の自分の頬にキスしたのもまさか意図的な行為だったのか?考えていることが小さかった時よりもかなり読めなくなっているぞ。

 そんなことを考えながら歩いていると頭に何かがぶつかった、木に生っていた実が落ちてきたようだ。果実自体は柔らかくはあったが一軒家程の高さから落ちてくる物は流石に痛かったし酸っぱい汁が口に入ってきた。これは本当に油断大敵だな。もしこの場に父親がいたものなら修練が足らない!と容赦なく真剣で斬りかかって来ただろう。

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