#94 何が正しいのか
放たれた青い鳥は骨骸竜の左翼の付け根に直撃した。骨が砕け散り羽を構成している部分が崩壊していく。海へと落下するウェルン目掛けて飛翔し彼女のことを助け出すことに成功する。
「ソールさん飛び方はばっちりですね!」
「うん、もう大体は分かったけど流石にぶっつけ本番でやるものじゃないですね。ウェルンが海に落ちるんじゃないかと肝を冷やしましたよ」
「それぐらい厳しい状況だと本気で習得できるものだと父は言ってましたからね!」
もう一度弓を構え今度は上空に打ち出すと今度は1本の矢が鳥へと変化した。大量の羽をばらまきネモリアさんを中心に降り注ぎ辺りを飛び回っていた骨を打ち落としていく。あれはおそらく鳥弓術の弐の弓である雨鳥を使用した。その前の武器術はおそらくだが先代のエルドリア王とはまた違う新しく自分だけの参の弓を完成させたのだろう。
少し前まであれほど見事に鳥を具現化など出来なかった。だがこの前捕らえられてしまったこともあり、実力不足を感じたのか熱心に魔力を纏わせることを練習し会得した。
下手をすれば武器術そのものの才能だけならば自分より高いのかもしれない。それにしても目を奪われるほど綺麗な鳥だな。あれはまるでネモリアさん達ウィンガル族の主神である伝説の聖鳥ガルウィンといっても過言ではないだろう。
「ううん、こ、ここは?」
「あっ目が覚めたウェルン?」
「っ!?そ、ソール、あっそっか私反応遅れたから...」
「もう少しで船に辿り着くからしっかり掴まっていてね」
「うん、分かったちゃんと掴まってるね・・・」
力強く抱きしめられ少し身体が熱くなるのを感じる。流石に好きな人に抱きしめられると動揺してしまうな。そうでなくとも大体の男性は女性に抱きしめられたら緊張したり色々と反応してしまうだろう。例え、これがネモリアさ...いやそんなことを考えてはだめだ。確かにウェルンにはなくてネモリアさんにあるも、
「ちょっとソール何かやましいこと考えてない?」
「・・・いいえそんなことは」
「どうせネモならもっと柔らかいとか考えてたんでしょ?」
「カンガエテナイデス」
「ふーんそうなんだその顔だと少しは考えたんだね」
なんでバレたんだ!?長い付き合いで自分にも分かりやすい癖か何かがあってそれを見抜かれてたのだろうか。背後から骨が襲い掛かってくるが身を翻して全て躱していく。ウェルンを抱えた状態では流石に剣を抜くことが出来ないので防戦一方だ。
「ねぇソール少しいいこと考えたんだけどやってみない?」
「うん?うん、いいねそれやってみるか!」
「じゃあ移動は任せるよ!」
ウェルンが杖を構えて攻撃術を展開し次々と飛び回る骨に当てていく。先程耳打ちされたのは移動を自分が担当して攻撃を全てウェルンの聖術で行うというものだ。これならただ飛び回るだけではなく奴を相手に有利に立ち回れる。そして聖属性を浴びた攻撃をくらった骨は粉微塵になっていく。
骨骸竜の最大の特徴である無限に骨を生成しそれを使い多種多彩な攻撃をしてくる。全てが魔の力で形成されているがその力に相反する聖の力に対しては無力なのである。これなら段々と奴の力が削がれていくだろう。ん?いや、待てよ。魔の力ならあの手が使えるじゃないか。
「ネモリアさん少しウェルンのことを頼めますか?」
「ソールさんいったい何をす、ってちょっと!?」
「ソール!?」
多数の骨によって守られている胸元へと飛び込んでいく。そこはブレインペアレンツからの砲撃と大量の骨弾によって熾烈を極めるとても危険なところだ。互いの攻撃の波をギリギリ躱しながら目的の場所へと羽ばたいていき剣を抜いて魔力を込める。一番厳重に守られている部分へと思い切り剣術を放つ。
「{ライズドラゴン}!!」
「グギャァァァァァァァ!?」
魔力を使い果たし身体が元に戻ってしまうが狙いはここからだった。近くの骨を掴みながらスケルトン系の弱点である巨大な魔力核の前まで辿り着きそれに手を触れて魔力を吸収する。
「各員打ち方やめぇ!弾が勇者にあたるぞ!」
「そうかその手があったか考えたな坊ちゃん」
骨骸竜は核を聖術で貫いて魔力の元を断ち切る以外倒す方法はないとされている。だが魔の力で骨を生成しているということは魔の適性を持つ自分がその力ごと全て吸収してしまえばいいではないか?予想通り使い切ってしまった魔の力が自分の中に満ちていくのを感じる。
吸収しながらいよいよ自分の種族がヒュード族ではなくデビア族である。そう言われた方が自然なのかもしれないと思った。禍々しい色を帯びていた魔力核は色を無くし辺りの骨が段々と消滅していく自分も背から羽を生やして離脱しブレインペアレンツの甲板に着地する。
「お見事ですソールさん!それにしてもいつあんな術を覚えたんですか!」
「いやまぁ少し前に魔族と戦った時にシーウェーブさんに教えてもらったんですよ」
「ん?ああ、あの分かりづらい俺のヒントからぶっつけ本番で使わせたあの術か」
「そうですね。この術を使えば魔の力に対してとても有効かもしれませんね」
「魔の力を持った敵に対して強くなるのは私だけじゃないってことだね!良かったー私だけじゃ不安だったんだよー」
この力を使えばより今後の戦いが楽にはなるだろうがそれと共に疑問も湧いてきた。自分の胸元の勇者の紋章を眺めてしまう。魔の力を使えるようになる度に思ってしまう。本当にどうして一定の時に限って勇者ゴレリアスと同じ力を扱える時もあるのだろうか。
最初はその力を使えたことに対して疑問を抱くことはなかった。段々デビア族として力に目覚めていくと共に感じてしまうことではあった。この力で仲間の命や誰かしらの命が救えるならば別に悪いわけではない、魔の力が原因で自分達が世界の敵と見なされてしまう日が来てしまったら、自分は一体誰の為に戦えばいいのだろうか。
船の修理をするために少しの間停留するらしくその間の時間にそんな雑念を払うために久しぶりに瞑想を行っている。やたらめったらキュミーが自分の顔を触ってくる。なんだろうこんなことかなり前にもあったな。元々考えていた雑念よりも何故触られているのかを考えてしまい結局キュミーと遊んでいたのだった。




