#92 隠されし王国
「はぁぁぁ!」
「うおっ、あぶねぇなあっと!」
突きを放つが腕を取られて甲板に投げられてしまう。今の一撃は中々いい感じだったんだけどな。まさか躱されてしまうとは思いもしなかった。剣術士と拳術士だと距離的には自分達の方が有利ではあるが手数では圧倒されてしまうな。技術の差によってはそもそも有利不利がなくなって関係ないんだよな。
「いやしかし坊ちゃんいつの間にか強くなったな!」
「はい、ダンジョン内をキュミーと一緒に巡ってたからですかね」
「なるほどな、まぁ地力が上がってもまだまだ実力そのものには結びついてないな。もっとがんばらねぇとな!」
「そうですね...自分少し疲れたんでいったんご飯食べに行きませんか?」
「ああいいぞ朝からずっとだったもんな」
朝起きて型に沿った実践に近い修練をしていたらベルゴフさんに声をかけられた。それから昼までずっと相手をしてもらっていた。行く道中にキュミーに槍の扱い方を教えていたのかと聞いたが、どうやら元々槍が使えたらしくほとんど教えることがなかったらしい。そしてようやくキュミーをヒルドリアに返すための手掛かりがようやく見つかったのだ。
「今向かっている{迷いの海}ってところにヒルドリアに行けるってことで合ってるよなシーウェーブ?」
「エルドリアに行くためにまさかフィンシーの力が借りれるとは思わなかったわな」
ジャックとの激戦の末に辛くも勝利しシーウェーブさんも無事だった。シーウェーブさんはなんと魔道具を取り除かれた状態でも生きてるらしく、ダンジョンから脱出してしばらくすると新しい身体が出来上がっていた。{死霊の心}から魔の力が枯渇しない限り、魂そのものが魔道具に残り続け時間はかかるが再生する。しかし他の仲間たちはもう作る気がないらしい。船員は今ブレインペアレンツ号に乗っている元々マザーで乗組員をやっていた人たちがいるのでもういいそうだ。でどうしてヒルドリアに向かっているかと言うと・・・
「で、少し考えてたんだがよ。正直このまま行ってもギリギリ問題はないから、一度坊ちゃん達を大陸に届けてから俺らがキュミーを送り届けてもいいかなと思ったんだがな...」
「やだ!おにいちゃんたちといっしょがいい!」
「この調子でな。このまま行くことにするしかないみたいなんだが1つ問題があってな。食料が思った以上に消費が激しくてよ持ってもあと2日みたいなんだよ」
「それじゃあどうするんですか?」
「どうにかあと2日でエルドリアを見つけるしかないってこと?」
「あと2日分しかないならどちらにせよ西メルクディン港に辿り着かないですからしょうがないですね」
「済まないな、ネモリアさんよ。俺がもっとしっかりしてればこうはなってなかったかもしれないからな」
「顔を上げてくださいシーウェーブさんのおかげで海上のトラブルも簡単に乗り越えられたじゃないですか」
シーさんが顔を上げると海図を広げ何かを描き始めた。その中心ぐらいに十字に印を入れた。1つ1つの絵が何を表しているかがとても分かりやすかった。いつもの描き方と違ってキュミーに分かりやすいようにしてくれてるように見える。
「で、これからの航路だがまず1つここを越えなきゃならない。ここら一帯は海竜の巣でな、うじゃうじゃいやがるからな。本当は迂回したいんだが時間がかかっちまうから気張っていくことにする」
「親玉みたいなのはいるのシーさん?」
「そうだな、中でもとびきりでかいのがいるな。そいつは普段から部下共達だけ働かせて寝てるだけだから心配することはないと思うぞ」
「それじゃ手を出さない方がいいってことですか?」
「いやそうにも行かねぇ。今まで俺らスケルトンだったからよ狙われなかったが、おいしそうな肉がいるとなると分からないからな」
肉?食料のことか?いやこの場合は多分自分達のことか。確か海竜種はフィンシー族を好んで食すらしくその中でも特に子供が大好物でよく狙っているらしい。自分に風の術適性があればその魔力を纏わせて簡単に一掃できるのだが、自分の適性は魔しかないのでどうにもしようがない。風の術適性を持っている自分を育ててくれた父であれば簡単に倒せていただろう。
そういえば今両親はどこで何をしているのだろうか。聞かなければならないことはたくさんある。例えば自分は本当に2人の子なのかとかな。どうして勇者様と同じ剣術を扱えるのか?とも聞いてみたいところだ。
村にいた頃ならこの時期に帰っていたはずだ。例年に類を見ない程に魔物や魔獣が活発化しているらしいので少し心配している。両親どちらも長いこと冒険者をしているのでおそらく大丈夫だろう。
「ねーおにいちゃん、えるどりあもどったらおかあさんにあえるかな?」
「うんきっと会えるよキュミーに似てすごくきっと美人なんだろうな」
「でもかえったらおわかれなんだよね?それはやだ!おにいちゃんものこってよ!」
そうエルドリアにいるであろうキュミーの母親に送り届ける。そして自分達はその後も旅を続けるんだ。この子のお父さんが命を懸けて守ったように、自分も同じ覚悟で魔王軍との戦いに集中しなければならない。その戦いにキュミーの様な小さな子は巻き込みたくない。
実力としては中々高くて戦力になるとしてもだ。せめて自分と同じくらいの歳と同じならばこれからも旅をしたいとは思ってはいる。だが正直ここまで一緒に旅をしてきたのにお別れというのは何とも寂しいものだ。




