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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
明かされる真実

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91/246

#91 一旦の終幕


「何をしているのですか?早くかかってきなさいあなたが倒すべき敵はここにいますよ」


 手に持っていた術具を投げ捨てて自分の元に近づいてくる。ようやく魔力が身体に馴染んできたがこれはおそらく丁度一度しか放てないだろう。タイミングだ、ちゃんと引き付けて必ず当てるんだこの力を託してくれたシーさんの為にも。


「やはりハッタリでしたか。所詮紛い物、勇者ゴレリアスの贋作如きが私に勝てるわけがないのですよ」

「そんなわけないもん!おにいちゃんはかつもん!」


 遠くで声が聞こえる槍で身体を支えてなんとか立つキュミーの姿。なんとか力を振り絞って立っている幼い彼女の姿を見てつい身体が動いてしまった。目の前でシーさんが殺されてしまった光景を見た後に我慢出来るわけがなかった。


「っく!?」

「ハァァァァァ!!」


 撃竜牙(スティング)の構えをとったがいつもより魔力を多く込められた。まるでノコギリのようにギザギザした魔力の刃を纏わせ連続で斬りつけ、そして最後に奴目掛けて回転して飛び込んでいく。


「{スティンガー}!!」

「ぬぉぉぉぉぉぉ!!」


 刃をつけ高速回転するその様はまるでドリルのように奴の身体を着実にダメージを与える。受け止めるのを流石にきついと感じたのか何か術弾のようなものを爆破させて距離を取った。ジャックは身体の色が元に戻り自分のことを抑えて防御する為に使っていた腕はダランと下がっていた。


「なるほど、確かに成長が速いという言葉は嘘ではないですね...これ以上は戦えないので一旦引かせてもらいましょうかね」

「逃がすか!」


 追撃しようと跳びかかるが急に下から水が噴き出し周りを見るとキュミーも打ち上げられていた。


「またどこかで会おう偽勇者、その時は貴様の首をもらい受けるぞ!!」



********************************************************



 メルクディン大陸西に存在する雪山の中に滅びた集落に隷属の首輪をつけた大量のビース族の姿があった。それを使役する狂猛のフュペーガとその横で傷だらけな腕に包帯を巻く魔族の姿があった。近くの泉には巨大な魚がおり雪解け水を飲んでいる為一時的に水が無くなっている。


「正統剣術の使い手ですか?なるほど道理でこの私が苦戦するはずです」

「だな!竜剣術を使っていたのは過去にゴレリアスだけでよ。あの小僧が使おうとしてるのを見てそういうのがあるのを思い出したんだよ。そういやよ俺がお前さんに頼んだフィンシーの船団は全員仕留めたんだよな?」

「はいそのとおり。あ、いえあの船に乗り合わせていた子供1人だけは仕留めそこなっ...」


 急に地鳴りがし山に亀裂が入りその溝に何人かが落下していった。


「ジャックその1人ってのは何か身に着けてなかったか?」

「た、確か髪飾りみたいなのを着けてい、」


 話していた魔族の横に拳が飛び、音をたてながら廃屋が完全に崩れた。その様子を見ていた他の魔族達にも緊張が走る。魔王軍の三魔将軍がここまで感情を表すことはほとんどない。ジャックの行った行為が失敗したことを指していた。


「まぁ取り逃したのはしょうがない。そいつも海に1人で投げ出されては生きてはいないだろう」

「いやそれがその子供は例の偽勇者と共に行動してい、」

「それは本当なのか!どうしてそういうことを先に言わないジャック!」

「は、はぁ?」

「あの船団はヒルドリア王家御用達の連絡船でな。本来なら俺が潰すはずだったんだがな、まだ魂がちゃんと定着していなくてよ代わりにお前さんに頼んだわけだ」

「で、ですが子供1人逃しても問題ないのでは?」

「確かにその後息絶えていれば問題はない。だが何の偶然かは知らないが勇者一行として世界を旅している者の元に辿り着いてしまった」

「ま、まさかあの子供が最重要ターゲットだったと?」

「サピダムから聞いた話だとそいつがいると不都合が起きるんだとよ。ったくあいつもちゃんと理由話せよな、確かに俺もちゃんと伝えなかったのは悪いかも知れんがな。お前さんの実力なら全てを破壊するだろうから安心していたがまさか爪が甘いとはな」

「ち、違うのですそれには訳が、1人だけ実力が高いフィンシーがいて苦戦してしまったのです」

「ほぉその男は?」

「確かキールと名乗っていました相当な槍の使い手で珍妙な武器術を使っていました」


 その言葉を聞いてフュペーガは高笑いを始めた。集落を超え山の麓にも聞こえてしまいそうなぐらいの声量だった。ちなみにその日別の場所では誰かの笑い声が聞こえてきたと思ったら雪崩が起きたらしい。


「そうかならばいいだろう。ジャックいい働きをしたな」

「そ、そうですか。いい働きというのはどういったもので?」

「この前情報収集がてらリハビリで倒した魚野郎に洗脳術かけたらよ面白いこと吐きやがってよ。フィンシー族の中に特別な武器術の使い手がいてよ。しかもそいつはキールと言う名前で王家の者らしいんだとよ!」


 ジャックはサピダムがどうしてその子供を倒したいのかここで気づいたのだった。あの男は確か子供を守るために戦い命を落とした。もしやあのフィンシーの子供は第一王女とかにあたる人物になるのでは?


「次の作戦までにはちゃんと直しておけよ。今度こそ失敗は許さねぇからな?数少ない魔王軍の中でもお前は俺らに近い実力を持っているんだ魔王様の為に貢献しろよ」

「は、はい!次こそはフュペーガ様の期待に必ず応えてみせますこの私ジャックにお任せください」

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