#89 年月
「済まねぇな少し呼ぶのに手間取っちまったなリバー」
「いいえ船長、呼んでくれなきゃ俺ら野垂れ死んでたんでいいっすよ」
「ん?お前らバーナはどうした?」
「流されてバラバラになっちまって再生が不可能になった。あまりに突然のことで自分の身を守ることで手いっぱいで俺がついていながら面目ねぇ」
「そうか...ならしょうがないな。我らシーウェーブ海賊団1人減り合わせて5人になっちまったが相手になろうじゃねぇか、野郎どもかかれぇぇ!!」
{ネクロスピリット}で呼び出されたシーさんの仲間はジャックに対して攻撃を始めた。自分は腰のポーチから布と薬草を取り出して抉られた部分の回復を施す。原始的で多少痛みを覚えるがウェルンがいない。今傷を癒す手立てはこれしかないので我慢をする。
「坊ちゃん肩大丈夫か?」
「はいなんとか、人数も増えたんでこれでどうにかなりますね」
「果たしてどうかな仮にもあいつの実力は昔の三魔将軍に並ぶほどかもしれねぇぞ」
「本当ですか!?それなら自分達には勝ち目が...」
「あぁ限りなくゼロに近いだろうな。一応手はあるが出来れば使いたくはねぇ。見たところ勇者の力がまだ自由に使えないみたいだな」
「はい、過去に何回か出せていたので完全にコントロールしたと思っていたんですけど」
「魔能に関していえば繰り返して使わなきゃ身にならんこともあるだろうからな」
少し遠くで鳴っていた戦闘音が無くなりその場所にはリバーさん以外のスケルトンの骨が飛び散っていた。中には完全に砕けてしまっている骨の残骸もあり、シーさんの力でももう戻れないことを物語っていた。
「骨折り損のくたびれ儲けとはよく言ったものですねネクロパイレーツよ」
「そんなあれだけの数をもう倒したっていうのか?」
「・・・やっぱり駄目だったか。そうだよな思い出したぞ、お前さん昔ここいらの海域でキラーホエール乗って暴れ回ってた魔族だろう?」
「そういうあなたは私のかわいいかわいいペットに風穴を開けて、こんな醜い姿にさせたあのシーウェーブだったのですね。年月と言うのは実に愚かだ、私は強くなり貴方は転化してあの時の強さのままここまで生きてしまった。そしてそこにいるソールとかいう勇者と呼ばれている紛い物は私の足元にも及ばない」
「もうあれをやるしかねぇよ腹を決めろ船長!」
「いいや絶対にやらねぇあれをやっちま...」
「うぅわ、わたしもまだたたかう!」
「だめだキュミー!!」
槍を構えて突撃するキュミーだったが躱されてしまいそのまま拘束されてしまった。明らかにこちらの方が不利な状況になってしまった。この状況を打開する策が自分にはない。どう頑張っても未だ魔の力は回復する気配がなく勇者の力も出せないのだ。
「ジャックお前さっきあの時の強さのままって言ったな?」
「ああ言ったとも私が知ってる限りスケルトン種は成長しない。それは魔族に転化したお前もその決まりに則っているはずだ」
「確かに転化した時の強さではあるがな。お前さんはもう少し知識を入れたほうが身の為になるぞ」
シーさんからは何か違和感を感じる誰かに似てきているような気がする。頭蓋骨にあんな傷あったか?あの傷は確かリバーさんの傷と一緒ではないか。よく見ると身体のあちこちに傷痕が増えている。
「貴様どうして魔力量が増えているのだどんな手品を使った」
「実は本物じゃないんだよそこにいるスケルトン達は。みんな俺の記憶から作った紛い物、自身の傷痕を媒介として魔力を分け与える。すると動くことの出来ない意識のある人形を作るか意識のないスケルトンを作るか。それがネクロパイレーツの死霊術で出来ることだ」
てことは今まで魔力を分けて意識のある人形を作って尚且つシーさんの{操人形}で常に動かしていた。伝説の海賊シーウェーブ本人の実力が今まで出せていなかったということか?
「ここまでは俺らシーウェーブ海賊団の実力だった。これからは伝説の海賊シーウェーブの実力をお前さんに見せてやろうじゃないか」
「ふっ戯言を少し見た目が変わっただ、」
ジャックの背後の瓦礫が突然飛んでいき背中に直撃する。急に体勢を崩してキュミーが投げ出されてしまうが粉々になった骨で受け止められ自分達の元に帰ってきた。自分がキュミーを受け取ると衝撃を吸収しきれていなかったのか気絶していた。
「悪いな坊ちゃん久しぶり過ぎて少し加減が出来てなかったみたいだ」
「いやキュミーのことを助け、ってこれは!?」
自分の前には見えない壁が作られシーさんを助けに行けない状況となった。横一面に広がる壁で殴っても壊れる気配は全くないのに何故だか声は通る不思議な壁だ。
「こいつは俺に任せてくれないか?さっきみたいに加減を間違えて巻き込んじまうかもしれねぇ」
「それなら自分も戦わせてください!2人でやったほうが、」
「いいや俺の戦い方は1人の方がいい。正直今の坊ちゃんはその魔の力で作られた術壁を越えられないなら足手まといだ」
自分よりも強い人に今はっきりとお前は邪魔だと言われた。さっきまで張っていた緊張が張り裂けたのか膝から力が抜けて立てなくなってしまった。自分はもうやれることはないのだろうかキュミーのことを抱きかかえながら拳を強く握った。




