#87 最深
「兄ちゃん達俺らのことはいいから船長の元に向かってくれ。船長の死霊術で呼び戻してもらえばここで力尽きても復活出来るからな」
「分かりました、なるべく早くシーさんを助けます!行くよキュミー」
「ほねさんたちまたあそんでねー」
キュミーと共に気色悪い廊下を道中出てくる魔物を協力して倒しながら進んでいく。逞しい身体つきの石像に挟まれた大扉の前に辿り着く。どこか見たことある石像は過去に遭遇した三魔将軍、狂猛のフュペーガと瓜二つで今にも動き出しそうだ。
「どう考えてもこの先にいるな」
「おにいちゃんはやくいこ!」
先に飛び出したキュミーが扉に触れた瞬間石像が揺れだす。驚いたキュミーは自分の後ろまで急いで戻ってきた。台座の上に飾られていた2つの石像はその態勢のままこちらに動いて...いや動こうとしているのが分かる微妙に手と足が動いている。
「魔力を注入して無理やり命を吹き込んだってところか」
『コれヨりむコうノトびらには我が主がオられる』
『タちサれ、サもナくバ死ぬことにナるぞ』
「なんかこわいしださーい!」
『ワれラを愚弄するカ!』
『ならばココで死ぬがいい!』
それぞれの石像が飛び上がるとそれぞれが拳と足を巨大化させ急降下してきた。それをキュミーは右、自分は左に飛んで躱す。
「見かけによらずに早いな」
『すみやカに潰サれろ!』
『ちョコまかとうゴくな!』
「いやだよーべーだ!」
これぐらいの強さならキュミーだけでもどうにかなるだろう。ここまで一緒に行動してきて気づいたこととして、まずキュミーはかなり強い。気配を消すことに特化し攻撃をする直前に気配が急に現れるのでとても防ぎづらい。槍の扱いもまるで元々扱っていたことがあるかのようなぐらいに練度がとても高いことが伝わってくる。
『よそ見をするナ!』
またも拳を巨大化させ突き出してくるが宙に飛び上がり躱す。確かによそ見をしている場合ではなかったな、考えるのは目の前の石像を壊してからにするか。実は先程からコアの場所を探していたのだがよく見たら首の色だけが微妙に違うことに気づいた。腕に乗り剣に魔力を込める竜剣術を放つ。
「{渾竜斬}!!」
『ア、りえナい、ワれえ、ガアァァ...』
「そんな見え見えな攻撃じゃ自分には、ってもう聞こえてないかキュミー大丈夫かー」
「うんもうすこしー」
『オノれ、どコにいる!』
脚で攻撃する石像は完全に姿を見失っているようだ。対峙してみなければキュミーの恐ろしさは全く分からない。自分には腕にしがみついてよじ登っているキュミーのことが見えているが奴は全く気づいていない。傍から見るとまるで遊具で遊んでいる子供に見えない。登りきると槍を構え首筋に向け連続で突きを繰り出し段々と首に亀裂が入り粉々となった。
「おわったよー」
「よくやったなキュミー本当に強いんだな。ベルゴフさんの教え方はやっぱりすごいんだな」
「うん!でもねおじさんいがいともねあそんだことがあるんだよ!」
「へぇそれって誰とか分かる?」
「すごくだいじなひと!なんだけどね。なまえがおもいだせないの。あとかなしいの」
「そうか・・・」
悲しい表情をするキュミーの頭をなでると笑顔をこちらに見せてくれた。おそらく名前が思い出せないのはこの子は記憶を失っているのだろう。だがその時起きたことを思い出せなくても感情は別だ。とても不幸な事が起きてしまったのだろう。
「もうだいじょうぶ!いこうおにいちゃん!」
元気を完全に取り戻したキュミーが駆けていく。小さいときからすぐに気持ちの切り替えが出来るなんてすごいな。自分達と同じ歳になった時にはとてもしっかりとした女性になるんだろうな。
待て気が早いな、キュミーの未来のことを考えるならまずはちゃんとヒルドリアに返さないといけないな。自分達が扉を開けると真っ暗な空間が広がっていた。周りを警戒しながら前に進むと扉が飲み込まれた。完全な暗闇になり繋いでいる手をキュミーが強く握りだし不安が伝わってくる。
「大丈夫だよ自分がいるからね」
「・・・うん」
この空間に響くのは気色悪い床を歩く音と自分達の呼吸音のみでいつ何が出てきてもおかしくはない。段々と違う音が聞こえ音が大きくなってくると一定のリズムを取っているのが分かるようになってきた。
これはもしかしてクジラの心臓が動く音ではないか、急に視界が眩くなり思わず手で目を覆うととても豪華な作りの大広間へと辿り着いた。奥には巨大な心臓が見えた、その前に置かれた玉座に座る何者かと膝をついて息を荒げてた伝説の海賊シーウェーブがおり自分達は急いで駆け寄る。
「シーさん!」
「あぁ済まねぇな兄ちゃんよ。流石に相手が悪かったみたいだ後は頼んだぞ」
「ほねさん!」
「一度死んだやつが生きてる奴の為に力を使うなんてもったいないもんだなぁ!」
腕を組みながら立ち上がる姿を見てどんな相手なのかを理解する。やつは自分達の言葉で言うなら自身の身体を武器として戦う拳術士。キュミーが自分の手をさらに強く握り始め、その目には涙が浮かべただただ涙を流しながらその場に座り込んでしまう。
「ああ!あああああ!!」
「どうした?キュミー!」
「うん?お前少し前に襲ったフィンシーの船に乗っていたな。その顔覚えているぞ私が唯一取り逃した獲物だ」
「あいつがおとうさんを、おとうさんを!」
「お前を人質に取ったらすぐに武器を捨てたあのまぬけか!」
「おいあんた言い過ぎだろ。子を守るために命を張った親を馬鹿にするなぁ!」
煽りに負けて自分は斬りかかるが剣が空を斬っていた。奴は上体を逸らして躱し、軽々しく高く飛んで距離を取られる。自慢ではないが自分の剣の振りは中々速い方だ。それでも捉えられなかったとなるとこれは厳しい戦いになりそうだ。




