#83 伝説
勇者ゴレリアス一行幻の七人目魔王の娘ラ・デビア・アンクル。もちろん敵対勢力同士で長い間戦っていたという。魔王軍は度重なる作戦失敗により責任を取るために魔獣との融合実験の生贄にされていたところをゴレリアスは助けた。最初は何度も死のうとしていたアンクルも、次第にゴレリアス一行や他の種族と共に暮らしていくうちに心を開いた。その結果協力的になり遂には世界を滅ぼそうとする父を止めるべく勇者一行に魔王城を教えたという。
「これが今話せるだけのことだ。他のことは口が裂けても絶対に言わねぇそのうち来るべき時が来たら分かる」
「いえそうやって少しでも話してくれただけでも大丈夫ですよ。人間誰しも秘密を抱えてますからね」
「しかしあの女の人がそうだったんだー」
「そんなすごい方に私達は助けられていたのですね」
「まぁだがそれが分かったところで今は船を直さねぇと前に進めねぇわけだろう。壊したのはほぼ俺だからよ直させてくれだからこのまま隠れ家まで行くが問題ねぇな?」
その提案に船員たちも頷いた。先程のシーさん達の襲撃にあったブレインファザー号は船体に穴が多数空いてしまった。航行しきるのは無理らしくどこかで修理する必要があったので好都合だ。
「それにしてもシーさんの個能は本当にすごいですね」
「ん?まぁな俺の{操人形}は一度でも触れた物体を自由に操れるからな。物限定だが海賊同士の戦いにおいては敵はいねぇな」
重量に制限はあるがそれでも自在に操れる、物資が限られている海上においてとても強力だろう。先程みたいに船に乗り込むためにまず相手の船の動きを錨で止める。その次は掴むまで何度でも襲い掛かってくるフックで船上へと乗り込む。あとは個々の能力で戦い物品を略奪するという。
「しかしまぁ流石に船は能力で動かせねぇからよ。ロープで繋いで今オールで漕いで何とか速度を保っているが中々疲れるな」
「それじゃ回ふ...って、そっか一応魔物だから回復術かけられないんだったね」
「ウェルンちゃんよ。その気持ちだけもうれしいぜありがとうよ。あーあ俺がまだヒュードの身体だったら一緒に食事でも誘って楽しい時間を過ご、」
「なんだよー船長だけずるいぞ!そんなかわいい子と話して。俺らも混ぜてくだせぇよー」
「だぁ!うるせぇ!お前らが今お天道様に出れてるのは俺が魔力をお前らにも使ってるからやぞ!今解いてしばらく魂だけにしてやろうか?!」
甲板のあちこちから大きな声が聞こえてくる。魔物と自分達がここまで仲良くしていることがあるのだろうか、話せば分かるとはよく言ったものだ。ベルゴフさんはなんか1人だけ図体がデカいスケルトンと争ってるしキュミーはスケルトンの人達に構ってもらってとても楽しそうだ。
「なんかこういう感じ久しぶりだね」
「そうだなこれは初めて都会に出た時の騒がしさと似ているな」
「こうやって楽しい感じを見ていると私も混ざりたくなっちゃった!」
ウェルンと共に自分もみんなの輪に混ざっていく。これなら本当に退屈しないで船旅を送れそうだ。
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シーさん達の隠れ家に着いて修理が始まりまたも自分達は暇になった。ただ船が直るのを待つのも嫌だったので修練していた。するとシーさんがやってきて手合わせをしないかと言われた。
「本当にいいんですか?」
「ああいいぞ。俺もお前さんの{竜剣術}を体感したいからな」
互いに剣を抜き構え距離を一定に保つ。流石は長年伝説になっていただけのことは構えが様になっている。襲撃された時の動きを少し見ていたが他の船員と比べても何かが違うように見えた。
そもそも他の船員は曲線を帯びたカトラスと呼ばれる剣を使っている。だがシーさんの剣はとても細く突くことに適したレイピアという細剣を構えている。
「ああ言ってなかったが俺は・・・ゴレリアスに勝ったこともあるぞ」
「え?っ!?」
いきなり肩に衝撃を受けたと思ったら既に視界から消えていた。背後からの攻撃に気づき盾で受け止めるがそのまま突き飛ばされる。なんて速くて鋭くて重い攻撃なんだ。あの細い骨のどこに力を隠しているのだろうか?武器術を扱っているのは確定している。それも独自に編み出した竜剣術に似たまた違う剣術を扱っているのだろう。
「なかなかいい捌きだな。だが気は常に張っていないといけないな。これが真剣なら最初の一撃で倒されているかもしれないぞ」
「そうですね、少し心配してしまっていたんですよ。あまり本気でやって骨を砕いてしまわないかと」
そんな冗談を言いながら笑みを浮かべるとシーさんも笑ってた。その後自分も竜剣で応戦したがシーさんの太刀筋を読み切ることが出来ず負けてしまった。それよりも後に言われたことの方が気になった。
『よくやったよお前さんならゴレリアスに並ぶだろう、まぁ最も俺はあいつに勝ったのが剣術とは一言も言ってないがな!』
・・・確かに何とは言ってなかったけどもゴレリアス様には何に勝ったのだろうか?気になって聞いてみたが何故か教えてくれない。気になるな...そんなことを考えていると船が直ったという知らせが入ったので自分達は船へと戻っていった。




