#80 海の底の宝物
ん、この感じは。隣にはフィーザー様、フィオルン様もいてその周囲を取り囲まれており、キュミーと同じ多数のフィンシー族がおり槍を構えられていた。目線の先の玉座らしきところには高貴な服装をした男性と女性がいた。
「この国の第一王女である我が娘、ヒルドリア・ミュリル・フィンシーを魔王軍から守り切りながら必ず世界を救えると誓えるか?」
「これまで共に旅をしてきたミュリルさんがいなくなる、それはここから先のさらなる戦いが厳しくなるでしょう。自分達は今術に長けた者が1人もおらずその為術の才に秀でたヒルドリア王家の力を貸していただきたいのです」
場の緊張が高まるのが伝わってくる。ヒルドリア王は立ち上がり先程と違い、黄金の三又の槍を手に持っていた。とても落ち着いているように見えるが王の背後の海水の流れがとても荒ぶっていた。
「海を統べる我々ヒルドリアの一族の力を必要とするのは分からなくもない。だがどうしてまだ未熟であるミュリルの力が必要なのだ。未来を見据えるなら実力が確かに存在して尚且つ老い先の短い私でも構わないのではないかな?」
「お父様!?」
黄金の槍を急に高速で回しだすと辺りから水が噴き出しヒルドリア王の周囲を囲み始める。竜のような術弾が形成され槍をこちらに勢いよく突いてきた。
「{水竜弾}!!」
その攻撃術に自分である何者かに向かっている。魔力を込め竜が具現化した剣を振るい術弾を打ち消していた。その技を見ていて自分は何か違和感に気づいていたがその疑問はすぐに解消された。
「確かにあなたには確かな実力があります。ですが、分かります。あなたのその術の才は海の中でのみ発揮され地上では娘さん以下なのではないのですか?」
今のは術を生成したのではなく元よりある海水を魔力で操作した。術っぽく形成をしてこちらに飛ばしてきたのか。魔力のこもっていないただの術弾ならば周りを覆っている魔力そのものを弾け飛ばせばいい。
「王女を戦場に出したくない気持ちは分かります。今この世界はそれと同時に終わりを迎えてしまうかもしれない。もしその最悪の事態が起きてしまったなら王であるあなたの気持ちは無駄になってしまいます。世界を救う勇者であるこの私、ゴレリアスの為にあなたの娘さんを預けてはくださらないでしょうか」
自分もといゴレリアスは武器を床に置いて膝立ちをして深く頭を下げていた。自分達を入れた他の3人も頭を下げる。辺りを伺うと槍を構えた兵士達は互いに困惑した顔を見合わせていた。ヒルドリア王の背後の荒ぶっていた海水の流れがとても穏やかになった。
「...半年前家出をしてから大変目に遭っていないかと心配していたがこの仲間達ならば私も安心できるな」
「お父様、こ、これは!?」
「持っていくがよいそれがなくともこの国を守れるほどの力ぐらいは持っている。魔族共に我らがフィンシーの力を存分に見せつけてくるといい」
ミュリルと呼ばれる女性にヒルドリア王から黄金の槍が受け渡される。その姿を見ていると視界が段々と明るさを増していくのだった。
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「・・いちゃんおきて!あ・だよ!」
「ううん?ああおはようキュミー今日も元気いっぱいだな」
「おはようおにいちゃん!」
「ああおはよう着替えたら下に行くからってみんなに伝えてきてくれるか?」
「うん!わかった!」
元気よく駆けていって勢いよくドアを開けて出ていった。ここは船で上陸した場所とはちょうど逆の場所に位置するエルドリア左港、そして宿屋ではなくゴース家の別荘に泊まっていた。いつもの服装に着替えて階段を降りて表に出る。新しい船の船員さん方がとても忙しい様子で積み下ろしの作業をしている様子が見えていた。
「おう坊ちゃん起きたか!朝飯まだ食ってないだろほれ」
「あっ、おはようございますベルゴフさん、それじゃいただきます」
紙袋をもらい中に入っていたパンに野菜と焼かれた魔獣の肉を挟んだものを口に運んだ。なかなかスパイシーな味をしていてとてもおいしかった。
「まさか王女さんが本当に国を飛び出してくるとは思わなかったよな。そのおかげであんな豪華な船でメルクディン大陸に行けるんだからよ感謝しなきゃな」
エルドリアを出立した後しばらくしてネモリアさんがまた自分達の元に戻ってきてくれたのだ。自分は先程まで見ていた夢の内容をベルゴフさんに話した。
「あぁー師匠達が訪れた時のキュミーの故郷の話か」
「はいそうですね。現在のヒルドリアは確かミュリル様が治めているんですよね?」
「ああ、そうだな。あれは確か二十年ぐらい前だったか、先代のヒルドリア王は魔力欠乏症にかかって死んじまってそのあと即位したらしいからな」
海底王国ヒルドリア、存在はしているのだがその場所はフィンシー族にしか知られておらず、一度陸に上がってしまった者は王家の者以外二度と帰ることが許されない、とても閉鎖的な国だ。国としての歴史は世界暦が作られるよりも昔から存在している国。代々ヒルドリア王家の者よりも水の術の才においては右に出る者はいないとされている。
「キュミーを返すのはまずは坊ちゃんの疑いを晴らしてからだな」
「はいそうですね」
自分達はどうしてメルクディン大陸に戻ろうとしているか。それは一度勇者として認めて送り出してくれたはずのグラス・メルドリア王に会いに行くためだ。どうして自分達はエクスキューションから追われる身となってしまったのか。その理由をメルドリア王本人に直接聞きに行こうとしているからだ。
「おはようございますソールさん」
「あっおはよーソール!」
「2人ともおはようまたスイーツでも食べてきたの?」
「ぶっぶー女の子が毎回スイーツ食べると思わないでね!」
「じゃあ何食べてきたの?」
「教えません内緒です、ねぇウェン?」
「ふふふっそうだね。乙女2人の秘密だよねー」
2人で笑いあう姿を見て自分達もおかしくなって笑い始めて、朝からとても幸せな空気を噛みしめるのだった。




