#8 登録、忘れ物
「自分は前までただただ世界を見て回ろうとしてました。ですがこの前の村の襲撃で親友が亡き者となり村の人々達も自分らを逃がしてくれた。そしてこの紋章を自分は身に付けることが出来てしまったので今は自分自身を知るために冒険をしたいです。それと自分には愛する人がいますもう目の前で誰も失いたくないその力も得るために自分は世界を巡りたいです。」
自分がそう言ったあと沈黙の時間が流れた。そしてノレージ様が机に向かい羊皮紙に何かを書き込んでいる。書き終わるとこちらに向き直りその書いていた羊皮紙を自分に差し出した。
「少々私は嘘をついてしまった今の質問は昔とある男に儂がされた質問だ。君の能力が判明してその力を間違った方向に使わないかどうかと心配してしまった。だが今言ったことに嘘偽りはないと確信したぜひ君の力を我々に貸してくれソール君。」
「はい!!ありがとうございます!!」
自分は羊皮紙を確認した
名前:ソール 年齢:20 生日:6月32日
魔能:反応あり、ギルド記録に類似の物なし、個能とみられる
魔術適性:魔 武器術:竜剣 討伐済みモンスター記録:A級サタニエル
この者を冒険者になることを認める 冒険者ギルド長 ノレージ・ウィンガル
「魔能が不明ってことは自分の個能ってもしかして?」
「ゴレリアスの勇者の力かもしれぬ、だがそうと決まったわけではないそれよりも儂は魔術適性で魔を持つ者を初めて見た。本当じゃったら術の基礎理論を儂が教えなければならないのじゃが・・・」
六術の中で最も謎が多く解明されていない術である{魔}は魔物が使う術とされている。六術と言うが実際五術だ、魔以外の適性を持つ者はノレージ様程の才能を持った者もいれば一術だけ使える者を持った者と様々である。例えばウェルンなら聖の一術が使えて攻撃術や治療術が使える。だが魔に関しては冒険者が使った前例がなく魔物が使った記録しか残っていないのだろう。とても危険な可能性が高いと言うのは理屈では分かった。だからノレージ様も自分を試すような真似をしたのだろう。
「よいか、ソールお前さんの魔術をあまり人前で使おうとしないことじゃ、それこそここ最近悪い風の流れがするんじゃよ」
「それってもしかしてこの紋章が関係してますか?!」
「そうかもしれぬしそうじゃないかもしれぬじゃが一つだけ確かなことがある、それは主が旅を続けていれば分かるじゃろう旅は人生のコンパスじゃよ」
「は、はい!」
・・・何言っているのだろうこの人急にボケでも来たのかな?いいこと言おうとしてなんかよく分からんことを言ったんじゃないか?ノレージ様ってこんな御方だったのか。なんていうかね・・・最後の最後になんか年寄りくさいというか・・・そんなことをつい思ってしまったが羊皮紙に書かれていたことを考えながら自分はドアを開けギルドへと戻っていった。
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あれはいつのことじゃったかな、儂も同族から異端児扱いをされた時があった。それこそ今でこそ魔力の才を認められてはいる、だが当時ウィンガル族では術の使い方を知る者が存在しなかった。あの日ゴレリアスが来てなかったら儂はあの里で埋もれていただろう。その日は私がウィンガル式の剣術を学んでいた。剣を使うのは苦手だった剣術に関していうならソール君より技術的にも劣っているだろう。そんな毎日がとても憂鬱に感じていた時、里に魔王の軍勢が襲来し儂は前線で戦いに加わるのではなく仲間の救助へと向かった。だが戦況は最悪だったその敵達はこの時のウィンガル軍にとっては最悪だったのだ。それは物理攻撃耐性があるスケルトン系との戦闘で、当時魔術を学ぶことはウィンガルの地では禁忌のようなものだった。そのおかげで当時ヴァル大陸には術士団がなかったのだ。
戦いは困難を極めたがその戦いも突如終わりを迎えた。ゴレリアス達が救援に来てくれたのだ。魔王軍に対して聖属性の広範囲の攻撃術を繰り出し魔王軍をたちまち壊滅させていった。里の人達は涙を流し術の偉大さを知った。ひと月にも及んだ長き戦いは終わりを告げ、儂はこの後ゴレリアスに術の才を認められ、自ら志願して仲間となり術を学んで世界を旅してゴレリアス達の助けとなった。彼らと共に名を世界へと轟かせた。
だが儂は魔王の城の直前で里へと帰らなければいけなくなってしまった。里の者が急いで私の元へ来て族長であった父が他界したと伝えられその原因は里内部の亀裂による内部戦争によって戦死したと聞かされた。私は魔王の城の攻略を優先しようとした、だがそれは拒否された誰に言われたかは思い出せないがその時言われたことをはっきりと覚えている。
「必要とされているなら手を差し伸べろ!取り返しがつかなくなって後悔するのは自分自身なんだぞ、魔王は俺達だけで十分だから行ってこい!」
儂はその言葉に従い里へと戻り内部戦争を終結させて族長となった。その数ヶ月後魔王の軍勢がまるで蒸発したかのように姿を消した。魔物達は残ってはいるが以前とあまり変わらない普通の世界へと戻り、平穏な生活が訪れそれと同時に世界を救ったはずのゴレリアスが姿を消した。
その理由を儂は仲間に合流しなくとも分かってしまった。この生活は魔王を倒せていない仮初の平和でそしてゴレリアスの身に何かが起き、ミュリル・ヒルドリア・フィンシーによって世界全体を混乱に陥らせないために、彼女の個能である{幻}を世界全体を包むように発動し彼女は今もその力を使い続けているのだろう。
その個能も年が経つにつれて薄れていっているのを感じられる。近年ギルドに届く依頼量が増加の一途を辿っている。魔物達も魔王が生きていることを察知し活動が活発になっているのだろう。祠のある村の襲撃、そして勇者の紋章を装備出来た少年、これはもう世界に良くないことが起きるとしか考えられない。
儂は机の上にとある書き置きを残して記憶を辿りながら旅をすることにした。ギルドマスターはいなくてももう大丈夫なぐらいまでギルドというものが大きくなったはずだ。なので私はこう書き置きを残した。
忘れ物を取りに行ってくる、戻らないかもしれないその時はギルド職員皆で乗り越えてくれ