#79 生き方は人それぞれの秘密
泊まり慣れた宿とは違う天蓋付きベッドに違和感を覚えながら立ち上がる。部屋を出てお付きの人に正装に着替えさせてもらう。着替え終わったのを見計らって執事が部屋に入ってきて予定を教えてくれる。だがあまり頭に入ってこない、何も分からぬまま廊下を進み術式に乗る。この国の現女王であるマリア・ゴース・ウィンガルがいる玉座の間へと辿り着き母上の隣の玉座に腰を掛ける。
「ネモリア本当に良いのですか?王族としての勤めはもう少し後でもよいのですよ?」
「私は父上に代わってこのエルドリアという血を守っていかなければならないのです。勇者一行として旅をするのも確かに楽しかったです。ですがそれ以上にこの国を守りたいと思いの方が強いのです」
「ほぉ父親に似て正義感が強いことだ」
「ノ、ノレージ様、いらしていたんですか!?」
「いらしてるもなにも今日は儂がそなたに用があって来たのじゃぞ?」
そうかさっき執事が言っていたのはこのことだったのか。ノレージ様に連れられ城下を見渡せるところにやってきた。私も手伝えるなら手伝いたいものだがここからでは何も出来ない。こうなってしまったのは私が兄上の思惑を掴めなかったせいだ。確かに私のせいではないのかもしれない、ただそれでは私の気が収まらなかった。
「先程の言葉にはやはり迷いがあるのだな」
「どうしてそう思うんですか?」
「儂も一度ゴレリアス達から離れ族長達をまとめ上げそしてこの国を作ったのだ。ネモリアよ、その間儂は何を考えていたと思う」
「えっ?今後の国の在り方についてとかですか?」
「確かにそれも考えてはおった。じゃが一番に思っておったのはゴレリアス達の安否じゃよ」
「そうなんですか?」
「そうじゃよ、国を治めなければならぬとは思っておった。それと同時に友という大事な宝が気になってしまった。じゃから儂はこの国が儂がいなくても大丈夫なぐらいになったころにルメガに譲った。そして儂自身が友の役に立つ為に冒険者ギルドを作り世界中を飛び回り常に宝を気にしていた」
やっぱり私だけじゃないんだ。やっぱりみんな似たようなことを思うんだな。ただ私はとある1つの理由でソールさんと旅をしたいのだがこの思いだけは秘めなければならない。
「おそらくじゃがな、これから先ソール達はより困難な旅を送るだろう。支えてくれる仲間の存在がより必要となってくるだろう」
「そうなんですか...」
「それと主が胸に秘めてる思いを諦めて良いのか?」
ノレージ様の唐突な言葉に驚いてむせてしまう。えっ、まさか気づかれていたの?でもこれ誰にも言ってない。なんなら口に出したことは一度もないはずなのにどうして...
「同じことを思っておった仲間がいたのじゃよ。その者達はたいそう後悔をしていたのじゃよ。そなたがその者達に重なって見えたのじゃ」
「その人達って・・・」
「今は家庭を作り幸せに暮らしてはいる。じゃが一度は思いを告げたかったと言っておったのじゃよ」
その言葉を聞いて少し胸が絞められたような気がする。それと同時に父の最後の言葉を思い出した。確かにこの国の王女として父上から任せられたわけではない。それどころかエルドリア王として勇者共に旅をして世界を救えと言われてしまった。
背に畳んでいた翼を広げドレスの裾を破ってベランダから飛び出して自分の部屋へと飛んでいく。ドレスを脱ぎいつもの冒険者の服装へと着替え壁に飾られていた愛弓を取ってまた勢いよく空へと飛び出す。
しがらみがなくなったせいなのかは分からないがいつもより気持ちよく空を飛べた気がする。あとで聞いた話だけど、その姿を偶然見かけた人達は皆とても楽しそうに飛んでいたと言っていた。とても恥ずかしくなってしまった。
「あの子はもう行きましたか?」
「行きましたよ本当に良かったんですか?」
「いいも何もここ数日のネモからは何も意思を感じられませんでしたからね。本当に私とあの人の子供なのか怪しかったんですけどね...あーあせっかくあの子の為に作ってもらったのに思い切ったことをするものですね」
「ふぉふぉふぉ、若いというのは本当にいい物じゃな」
「今のあの子を見ていると私を迎えに来てくれたあの人の姿が重なって見えますよ。あの子が帰ってきた時の表情がとても楽しみです。私も使命を果たすとしましょう」
このあと第三代国王として正式に女王マリア・ゴースが即位し同時に先代国王で人々に秘密の翼王と呼ばれていたルメガ・ゴースの名が開示された。そのことを知らなかった国民たちは皆驚きと同時に今まで国を支えてくれた秘密の翼王を称えた。
復興が進んでいくに連れて新たな広場が建設されそこには歴代の国王の銅像が建てられそれぞれが名を模した地名になった。死してようやく名を知らしめた、ルメガ・ゴース。そしてその娘であるネモリア・ゴースはソール新勇者一行として世界を救う旅へと向かっていくのだった。




