#75 仮面闘技
玉座の間特有の無駄に大きな扉が見えてきたが片方が吹き飛ばされていることに気付いた。おそらく先程の竜騎兵がやったのだろう、剣を取り出して魔力を纏わせる。扉の先には黄金のティアラを身に着けた女性を守るウェルンとネモリアさんとバチバチに戦いあっている竜騎兵とベルゴフさんがいた。
「ソール!」
竜騎兵はまたも仮面で顔を隠していたのでウェルンには奴の素顔は分かっていない。見たらウェルンも自分と同じくとても驚くだろう。生き返ったと思っても良いが魔族に転化して自分達の敵として会うのは望んでいないだろう。
「流石、竜騎兵だな師匠も相手すんのに苦労したって言ってたからな!んな!?」
ベルゴフさんが突き飛ばされ魔剣で両腕を串刺しにされ壁に磔にされていた。その様子を見てネモリアさんが飛び出す。竜騎兵が何か術を唱えると地面に落ち身動きが取れなくなっていた。
「どくんだ、無駄な殺しはしたくない」
「嫌!もう目の前で誰かが殺されるのは見たくない!」
そう言うと地面にあらかじめ仕掛けていた術式から聖術の{バーティカルソード}が大量に襲い掛かった。竜騎兵目掛けて放たれるが距離を取り魔剣を生成して全て打ち消し距離を詰めて首筋に打撃を与える。
「そ、そん、な・・・」
「...悪くはなかっただがまだまだ力が足りない」
「待て!まだこっちにいるぞ!」
「...何故向かってくる?お前は先程私との力の差を理解したはずだ」
確かに先程は手も足も出せずに一瞬でやられてしまった、でも少し休んだ今なら全力を出せるはずだ。
「お待ちなさい!」
「王妃様?」
「私は国王代理のマリア。私を倒しても魔王の魔力の封印は解かれませんよ」
「...貴様をここで誘拐でもすれば国王が出てくるはずだ」
「その必要はない」
竜騎兵に向けて大量の矢が降り注いでいた。それを全て術壁を展開して受け止め術壁を貫通して鎧を砕かれていた。たまらず距離を取ると扉の前には先程の仮面のウィンガルがいた。
「今の矢は鳥のようだった。具現化する程魔力を込められる武器術ということは貴様が竜の子供の1人、エルドリア王だな?」
ネモリアさんの2倍はある翼を大きく広げるとまるで風が通ったかのように何かが通り抜けた。エルドリア王の魔力が濃くなっているのを感じた。仮面をつけ素顔を隠した者同士が対峙する様子と場を見て仮面舞踏会を連想してしまった。
「その仮面を外して顔を見せてくれないか?ルメガ・エルドリア・ウィンガルよ」
エルドリア王は仮面を外すとそこには確かにルメガさんがいた。まさかエルドリア王がネモリアさんの父親だった。ということはネモリアさんは王女様ってことか!?
「キュミーよ。ソールのとこに戻ってるといい、ここからは遊んでられないからね。ソール君ここにいる私以外の人を連れて逃げるんだ」
「自分もたたか...」
「いや行きなさい。私も久しぶりに怒っているのだよ巻き込むかもしれない」
目の前で話していたルメガさんの姿はなく大きな翼で殴り掛かり、竜騎兵ごと大空へと飛び出していった。磔にされていたベルゴフさんもようやく解放され、身動きが取れなかったネモリアさんも解放された。気絶したウェルンに肩を貸した王妃様がこちらに寄ってきていた。
「ソールさん、黙っていてごめんなさい。もっと早めに言っておくべきでしたね」
「ネモリアさんしょうがないですよ。エルドリアという国を守るためだろうし」
「おおいててて...でこれからどうするんだ?」
「私は大丈夫です。夫の元に向かってください!あの人は竜騎兵には勝てません!」
「あれだけの魔力量があるなら大丈夫なのではないですか?」
「それに関しては言わしてもらうぞ。俺から見ても無理だな、ルメガの強さは俺の地力と同等ぐらいだ。あの竜騎兵は師匠達程の実力がなければ勝てないだろういやそれ以上かもしれねぇな。」
ウェルンも目覚めたようなので世界樹の麓へと急いでいた、頼むルメガさん無事でいてくれ!
「最初は戸惑い、攻撃を受けましたがもうあなたの武器術は見切りました。もう戦うのを諦めてくれたらこれ以上苦しまずに一撃で屠ってあげますよ」
「ふん、余計なお世話だ。竜騎兵、私がもう少し若かったらこうはいかないぞ」
そう、私はノレージの全盛期と同じ魔力量を未だに持っていようとも身体そのものは老いてしまった。昔程動けはしないそろそろ消えゆく灯なのだ。少し無茶をして生きながら得ているだけなのだ。おかげでこれほどの奴に苦戦、いやおそらくこのままでは負けてしまうだろう。
ノレージに魔王の魔力の封印を任されたのだがどうやらここまでのようだ。ナザ...正しき道へ導けずに済まなかった。マリア...よく私の代わりに国を治めてくれたな。ネモリア...よく勇者をここまで導いてくれた。
世界が平和だったなら今頃ナザかネモリアが結婚でもして孫の顔を見れていたのだろうか。いいやもう十分に生きたか。友もノレージ以外は天命を全うして空の向こうで待っていてくれるはずだ。
最後の戦いと行こうではないか。師ゴレリアスの名に誓う、私は学んだことを最大限に活かし次の世代への糧となろう。例え、それが私の身と引き換えでも構わないこいつに一矢報いるために。




