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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
秘密の翼王

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74/246

#74 混術

 上空から玉座の間に繋がる道にいる眺める術士がいた。長杖を構えて火、風、土の混術(フュージョンスペル)を発動させ、2人めがけて放ったのを見てそれに合わせて同じ混術によって打ち消すとまるで花火のように砕け散った。


「同じ術を使えるやつはあんたしかいねぇ...ノレージ・ウィンガル」

「こんな騒がしいときにまさか{コメット}を放つ者がいるとは...当たっていたらあの2人はただでは済まないぞ?」

「いいや、待ってたんだよ!この術を誰かに放ったらきっと姿を現すと思ってな!」


 ほう儂の術で儂を試したと?相当な自信が見受けられるな、ここまで術士の質は落ちたか。だが先程の混術(フュージョンスペル)の出来を見る限り、儂と同等もしくはそれ以上の素質があるような気がするの。


「俺は王宮魔術師という称号を与えられエルドリア歴代最強と言われた最強の術士。この制度が作られる前のあんたを除いた術士でね」


 何を言うかと思えば単純な魔力を比べあいたいのか。昔は仲間と共にやったものだ、一方的に申し込まれ全て勝ったのは懐かしいものだ。左手に英具を展開して術式を次々と展開する。こやつも魔以外の五術、魔族に身を売ったからすべてを司る六術使いなのかもしれない。先程の{コメット}は三術、次に放つであろう混術(フュージョンスペル)は...


「これならどうだ!!」


 放たれた術は予想通りではあったがここまで早く放てるとは思わなかった。障壁を展開して防ぐが黒コートに液体が飛び微妙に溶け始めたため脱ぎ捨てる。自身が一番威力を知っているがまさか儂以上に早く展開して尚且つ威力があるとはな。


「やはり{メルト}と来たか。火、水、土、聖の混術(フュージョンスペル)で開発した対人魔術。身体を溶かし骨の一つも残さない成分の水弾を作り出す四術...禁忌術に指定したはずじゃが?」

「禁忌書物も読み漁ったからな!あんたが使える術でこの俺が使えない混術はないぜ!」


 ・・・どうやらそのようだ今までのやつらと違ってちゃんと物にして改良を加えている。確かに儂の術を真似して失敗する者や性質が変わってしまうというのはよくあることだった。

 こやつは術式の簡略化をして展開時間の短縮、儂が展開するものよりも攻撃的に変化させている。儂の場合だとつぶてで身体を貫通させることによって内部崩壊を目的として放つ。彼のはメルトが防がれることを前提としてつぶてを拡散させてより着実に当てることを目的にしている。


「まぁそろそろ終わらせるか、竜騎兵様に追いつけねぇからな」

「ほう、ということはあの術じゃな?」


 互いに何を展開するのか分かっているようだ。おそらく奴は最大威力で儂に向けて{エンド}を放つつもりじゃろう。先程からの混術(フュージョンスペル)の威力から察するに、おそらく単純な威力では確実に負けるだろう。

 もう展開し終わったようじゃな、これほどの魔術師がエルドリアにおったとは。儂も生を受けてから色々なことを経験してきた。その中でも才能ある若者をごまんと見てきた。今まで一番それを感じたのはただの老兵としてこの大陸が滅んでいく様を見ていた、そんな時に現れた我が術の師でもある勇者ゴレリアスじゃった。

 こやつはその時に似た何かを感じる。だが同時に三魔将軍のサピダムのような魔の力に魅入られ世の敵になる危うさも感じる。このままではソールの邪魔になるだろう。


「はっ!俺はもう準備万端だぜ!これで終わりだぁぁぁぁぁぁ」

「ここまで優秀ならあやつに王を譲らずに儂の弟子にしたかったものだ」


 奴の杖先から儂が開発した最強の混術(フュージョンスペル){エンド}が向かってくる、術が儂を飲み込もうとした瞬間、術式を展開して術を受け止める。


「な、何故だ!?俺の方があんたよりも強いはずだぁ!」


 もう一度展開して向かってくる{エンド}。それをまたも術式を展開して受け止める。そう48年前のように魔力に満ち溢れていたころなら儂も同じく{エンド}を放ち正面から消滅させただろう。どうしてそうしないかと言うと儂の魔能が関係しているのだ。

 能力としては最大魔力が段々と落ちていく代わりに寿命を延ばすことが出来るという{魔寿命}と呼ばれるものだ。いくら長命種であるウィンガル族でも儂のように226年も生きるやつはいない。魔寿命で延びる寿命もせいぜい1年とか2年がせいぜい。そもそもの魔力量が多いために全盛期の三分の一まで落ちて今まで生きてしまっている。

 全盛期だったならこれほどの若造に負けることはない。だが単純な威力では負けてはいてもそれ以上の混術(フュージョンスペル)を展開すればいいのだろう?


「いいことを教えてやろう若者よ。その術を最強と言ったのは開発が終わったその時点のことだ。今からどの書にも記されていない真に最強の術を見せてやろう」


 魔術書から{エンド}を構成するために五術の球を出す。そしてさらにもう一組、もう一組とどんどん宙に飛び出していく。同じ色の球が球体を形成するように五つの色の球が高速で動き出す。


「なんだその混術(フュージョンスペル)は!?や、やめろ防げるわけが...」

「じゃろうな、全盛期の儂にもきっと防げないじゃろうなこれが真に最強の混術(フュージョンスペル)じゃ」


 儂はこの術を無限に広がる宇宙のように例え{ネビュラ}と名付けた。襲い掛かる無数の球に対して障壁を展開しきれず球の波に飲み込まれながら空へと打ち上げられていく。永遠にその中で反省をしていると良いだろう。

 昔の儂ならばまだ優しかっただろう。優しさをかけたがために惜しい人を無くしてしまった。あの日は悔やんでも悔やみきれない。もう儂は一度身を魔に加担したものに対して容赦はしない。もうこれ以上は術の展開が厳しいな。あとは若い者たちに任せようではないか老人は今一度休憩していようではないか。

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