#73 舞い降りし王
急いで階段を昇りながらふとソール大丈夫かな?と思ってしまう。ベルゴフさんが勢いに任せてソールをぶん投げてた。それで今頃あの強そうな竜騎兵と戦っているだろうけどきっと大丈夫だよね。さっきのキマイラ倒すときだってほとんど1人の力で倒してるもんね。
心配している暇じゃないや、私達は私達でやらなきゃいけないことやらないと!出てくる敵を各々が対処しながら玉座の間に行くための道へと急ぐ。
「ウェン大丈夫?」
「うんこれぐらいなら慣れてるから!」
「へぇー嬢ちゃん意外と鍛えてたんだな」
村で暮らしてた頃一日中ソールとコルロと一緒に狩りに行ってたからね。あの時に比べて私はソールに置いてかれてしまっているような気がする。
冒険のきっかけにもなった村の襲撃、コルロが亡くなって勇者の力が目覚めてからは特に差がついてしまっているような気がする。それから遺跡でのフレイペントとの戦いでもソールとベルゴフさんのおかげで助かった。サルドリアのメルクディン山での三魔将軍 狂猛のフュペーガとの戦いでもまるで歯が立たなかった。船旅の途中のキマイラとの戦闘でも手も足が出なかった。でも名も知らない女性が助けてくれた。
そして、いやもう振り返るのはやめておこう。もしこのあと戦うならこんな下がった気分じゃ戦えない。
「次の階が玉座の間に繋がる道です!」
「っ!?嬢ちゃんあぶねぇぞ!」
階段から不用意に飛び出したネモリアさんを魔術が襲い掛かる。ベルゴフさんが闘気で作った拳で攻撃を打ち消す。昇りきった先には既に大量の魔族が存在しており、玉座の間に繋がっているであろう大扉は壊されていた。
「この様子じゃあもうこの先にも魔族が侵入していそうだな」
「そうですね私も焦っていましたね慎重に行かないといけませんね」
「下でソールも戦ってるし私達も少しは戦わないとね!」
「おお、嬢ちゃん達も言うようになったな。それじゃ少し暴れてやろうや!」
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「お・・!・・・・ゃん!」
なんだ?なにか声が聞こえるような。
「お・・・ゃん!おきてよ!」
段々とはっきりと聞こえてくる。涙ぐんだ声で自分の身体を揺らしている声の主。
「おにいちゃん!」
ルメガさんの屋敷で待っているように言った、涙目のキュミーがいた。
「どうやってここまで来たの?」
「おやしきもえちゃったから、おにいちゃんたちおおきなきにむかうっていってたから...」
「そうか、それは辛い思いをさせたなごめんよ」
「でもおねえちゃんたちどこ?」
「ウェルン達はこの樹の上にいるから一緒に行こうか」
「うん!いくー!」
少し悲しんでいたような顔からとびきりの笑顔へと変わった。そんなキュミーの手には槍が握られているどこかで拾ったのだろうか。それにしてはちょうどいいサイズのような気もする。世界樹前の広場に行くと魔族とエルドリア軍が激しい戦闘が行われていた。
「ここは流石に通れないな回り道を...」
「おにいちゃんなんかおりてくるよ?」
キュミーが指をさすその先には空から何かが降りてきていた。仮面を被った謎のウィンガル族がゆっくりと滑空しながら弓を構えておりその背には大きな鳥が具現化していた。そして彼が放った矢はまるで鳥が群れを成すが如くまとまった大量の矢が広場の魔族を一掃する。
「竜剣術に似た武器術?まさか!あの人が・・・」
「我らが王が来てくれたぞ!全軍世界樹を取り戻す為に前進だ!」
広場で戦っていた騎士達が皆城内へと向かっていく。仮面のウィンガルはその様子を見届けたあと自分達の元に降りてきた。
「君が新しい勇者か?」
「どうしてそのことを!?」
「君から懐かしい気を感じるんだ師匠と同じ竜の力をね」
「それじゃああなたがゴルドレスさんと同じ勇者に剣を習った竜の子供?」
「そうだね鳥弓術という武器術を扱えるが兄弟弟子達に比べたら参の弓までしか開花しなかった未熟者だがね」
未熟者だといったが少なくとも先程纏っていた鳥弓術、あれが壱もしくは弐だとしたら自分より遥かに多い量のとてつもない魔力が込められているのだ。確かに参までしか使えないのは普通の武器術と大差がない。それ以上に彼の場合は保有魔力が大魔術師並みに持っていると予測できる。
「このあと妻を助けに行くのだがどうする勇者殿?」
「自分もお供させてください力になれます!」
「わたしもおねえちゃんたちのとこいく!」
「それじゃ背に乗り振り落とされないようにしっかりと掴まってるといい」
キュミーを抱えて背に掴まると翼を大きく広げて空へと飛びだった。先程のベルゴフさんに抱えられて飛んだ時よりも速く玉座の間に繋がる道と同じ高さに辿り着いた。
「ここでさっきまで誰かが戦闘していたらしい」
「きっと自分の仲間です」
壊れた扉の奥から先程の竜騎士の気配を感じるしとてつもない魔力の波動を感じる。奴の実力ならベルゴフさんがいるならきっと女王様もウェルン達も大丈夫だと思う。だが何故だろう謎の悪寒が止まらないのだ。この感じは親友を失った時と似ている一刻も早く玉座に向かわなければ。




