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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
秘密の翼王

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72/246

#72 生きていた兵士

 似たような光景は過去に一度だけ見たことがある。自分が勇者と分かった日、そして故郷を失い親友を失ったあの夜と同じ光景だ。


「ソール!私達エクスキューションは城下町の民の救助を優先しなければならない。代わりに国王代理であるマリア様の元に向かってくれ!!」

「分かった気をつけろよハウゼント!」


 そう言うと城下町の方に猛烈な速度で向かっていった。回復薬を飲みながら城の正面まで辿り着く上層の方で魔族とエルドリア軍が戦っている。


「ネモの嬢ちゃんや一つ聞いてもいいか?あそこだけ異常に守り堅そうだけどもしや玉座がある位置って」

「そうですね唯一玉座の間に行ける道ですね。でもあれだけちゃんとまもっ・・・」


 ネモリアさんが指さす先を眺めていると紫色の爆発が起きた。守っていた近衛達が力尽き落ちる様が見えた。術を放った魔族を辺りを見回して探すと紫鎧を着た何者かを見つけた。


「竜騎兵かあれ?上位魔族とは聞くが前の魔王軍との戦いでほとんどが滅びたと聞いたぞ」

「って解説してる場合じゃないでしょ。ここから上に行くまでどれくらいかかるんですか?」

「少なくとも私はこのまま飛んで行けますがそれ以外の方は城内の階段を上がるしかありません。なので相当に時間がかかりますね」

「それじゃあ女王様があの魔族に倒されちゃうよ!」

「んーならこうするか坊ちゃん少し身体借りるぞ」

「え、ええええええええええ!?」


 急に身体を持ち上げられたと思ったら宙へと飛び上がりあっという間に竜騎兵と同じ高さまで上昇した。そこでなんか小声で「あとで飯おごるから許せ」と聞こえた、あっけにとられているとベルゴフさんにぶん投げられ竜と衝突した。接触した自分に明らかに骨が折れる音が聞こえ、中が抉れるのが分かる生々しい感触が伝わってきた。上に乗っていた魔族も態勢を崩して落下し始めた。


「あ、いててて...流石に身体的に回復したからって無茶だろこれ。おかげで侵攻は防げたけどこれって要はこの強そうなやつと戦わなきゃいけないんじゃ...」


 魔族は態勢を直して地面へと静かに降り立っていた、なので自分もそれを真似するように翼を生やして静かに降り立つ。自分が相手の真似出来たことよりも思った以上に自然と翼を生やせたことに驚きを隠せない。


「で?元はどこの種族の人なんだ?感じからして転化した魔族なんだろう?」

「・・・」


 答えないか、いや答えられないのかもしれない。奴は地面に術式を展開してその中から剣を出現させた。あの紫を基調としている妖しい雰囲気を醸し出す。

 あれは正真正銘の魔族の術式剣で自分が持っている魔剣の元となった原初の剣だ。だがすぐに目の前の魔族が先程戦ったキマイラよりも全然強いことに気づいてしまった。


「もしかしなくてもたった今術式から現れて、周りに展開している魔剣全てお前が作ったのか?」

「・・・」


 沈黙は答えってことにしていいかな?個能{魔剣創造}ってところか。しかも本数は...現在進行形で段々と増えていってるな、途中で数えることをやめたがとんでもない本数だ。


「フェアじゃないとは言いたいけど命を懸けた戦いに遠慮をしていたら逆に失礼だもんな」


 魔の力を開放して剣を構えて魔力を込め戦闘態勢を整える。単純な魔力量で言うなら奴に負けているだろう。大量の魔剣を捌きれるとは思っていないので生き残ることを優先としてこいつを玉座に向かわせないようにしよう。そうすればウェルン達がきっと女王様を安全な場所まで避難させるまでの時間を稼げるだろう。

 剣先が全てこちらを向いて高速で飛んでくる。躱すことに全力を注ぎつつさらに全力で魔剣を全て弾く。魔の力を開放すると身体能力が元と違って桁違いに向上している。普段の自分だとあっという間に死んでいたであろう攻撃を無傷で防ぎきることに成功した。だが奴の姿を見失ってしまい背中に強い衝撃を受けて消えゆく意識の中で奴の後ろ姿をようやく捉える。


『う、嘘だろ...一撃で意識が持っていかれ、てたまるかぁ!!』


 落ちゆく意識を根性で戻して奴の背に攻撃を放つと奴の頭の装備に当たりヒビが入った。だが受けたダメージは強大だった。気を抜けばたちまち意識を持っていかれるだろう。息を荒げながらも剣を構え直す、ヒビが広がっていき完全に割れこちらに振り返っていた奴の顔が見えてくる。


「ようやく、顔をみせ...た...な...!?」


 たかが仮面の向こうの素顔を見ただけ。普通そこに見えるのは赤の他人のはずで驚きはしないだろう。だがその顔を見て驚きしか出てこなかった。

 それもそのはずだ、小さい時から共に遊んだり一緒に訓練したことがあり、自分が勇者と分かったきっかけでもある村を魔族が襲撃した時、自分とウェルンを守るために目の前で死んだはずの親友の顔がそこにはあった。


「生きていたのか...なぁなんでだよ!なんでお前がそっち側に立っているんだよ!忘れちまったのか、コルロ!」

「...そんな奴は知らん私は何者でもない」


 手をこちらに構えると紫色の小さな球体が多数作られ全て身体に直撃する。自分らのことを何もかも忘れさせられて尚且つ魔族へと転化させられてしまったのかもしれない。ただ顔が似ているだけのコルロとはまったく関係のない別人なのかもしれない。でもどうしてなのだろうかコルロに似ている奴か、らは昔懐かし、き雰囲気がして・・・くるの・・・は・・・

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