#68 俊足のキマイラ
「なんだぁ?見たことねぇやつだな、だがな肌に伝わる緊張がひどいなこりゃ骨が折れそ...」
「そんな口を開いている暇があるかね?さぁ暴れて来なさいドロス!」
術式の真ん中にいたドロスと呼ばれたキマイラは叫び声をあげこちらに突撃してきた。ハウゼントが前に出て受け止めるが弾き飛ばされる。
「小型でパワー型かよ。坊ちゃん喰らうとひとたまりもなさそうだからちゃんと躱しとけよ」
「その心配自分にもしてほしかったですね。まぁただ派手にぶっ飛んだだけなんでいいんですけどね」
瓦礫の下からハウゼントが出てくる。確かに見た目が小さい割にパワーがとんでもない、瞬間的な速さにおいてはこの場の誰よりも速いだろう。サピダムが何かを唱えて門みたいなもの出現させその中から大量の魔族を呼び出していた。自分が倒したことがあるサイズのサタニエルがなんと5体も出てきていた。
「ドロスは任せてください、第一司教と他の魔物達を頼みます」
「ソールだけじゃ厳しいでしょう私も手伝うよ!」
「悔しいですが私には兄を止める力はないので私も加勢します」
自分達も実力的に考えてもこれが妥当だろう。大量の魔族を倒せるほどの制圧力は自分にもウェルンにもネモリアさんにもない。現エルドリアでの最高の術の使い手の称号である王宮魔術師である第一司教いやナザ・ゴースには適わないだろう。
「それじゃ私が魔族達を断罪するので第一司教とのタイマンは譲りますよ」
「おお、いいのか!じゃあお言葉に甘えるぞ!」
第一司教に向かって突撃して壁を突き破ってどこかに行ってしまった。ハウゼントは城壁のようなものを展開して自分達と分断してドロスと集中して戦える環境を作ってくれた。ウェルンがバーティカルを構え、ネモリアさんも飛翔し弓を構え戦闘態勢はばっちりだ。自分も剣に魔力を込めて剣術を出せるように構える。
それに対してドロスはどこを見ているのか分からず不気味な感じがする。必ず突然攻撃を出してくるはずだ。集中しろ、静かな空間にドロスの唸り声が響くこれほどまでに集中した戦いがあっただ...!?
「くっ!?」
突然飛び込んできたドロスの攻撃を盾でなんとか弾いて、剣を振るうが既に姿はなく空を切る。さらにドロスがいた場所にバーティカルと矢が撃ち込まれてしまう。明らかに自分達が遅れてしまっているのか何か特殊な魔能によって攻撃を躱されているのだろうか?考えろ、気づけ確かに速さで負けていても、それは詰めてくる時の瞬間的な速度だけで攻撃は普通の速度だ。ドロスはまたこちらを伺う様子で距離を取ってどこかを見ていて不気味だ。
「何か気づきましたかソールさん?」
「分からないけど絶対に魔能が関係しているはず」
「じゃあ今度はこっちから仕掛けてみる?」
ウェルンはバーティカルを剣の形に変えドロスを囲むように放ち、上からネモリアさんが矢の雨を降らす。ドロスが瞬間的に回避した後に自分が剣術を当てる。
この陣形だともしウェルンが詰められたらそこから崩されてしまう。だが流石に弱点である聖術を喰らってまでウェルンの元に詰めないだろう。ウェルンが術を構えた瞬間にドロスがウェルンの元に詰めていた。
「え!きゃぁぁぁぁ!!」
「ウェルン!くそ!」
あまりに突然なことに対して何も考えずに狙いもでたらめな魔力を纏わずただ普通に剣を振る。ドロスの腕に浅い傷をつける。またも距離を取り今度はこちらを伺う様子を見せる。度々止まっているという事は瞬時に最高速に達するのにもインターバルがあるのかもしれない。なら今が攻め時だ!剣に魔力を完全に纏わせて竜を具現化させ攻撃を当てに行く。
「{撃竜牙}!!」
当たる直前に突然身をよじり初撃を躱されドロスの攻撃が直撃してしまう。
「ぐはっ!!」
「ソールさん!くっ!」
ドロスの次の攻撃が来る前にネモリアさんに助けられるがネモリアさんの翼が引き裂かれてしまった。その影響で息が荒くなっておりとても危険な状態だ。
「ウェルン!」
「ちょつと待って今治療をす...」
ドロスが突っ込んできて自分とウェルンを掴んでそれぞれを壁に投げつけた。激しい痛みに襲われているがなんとか立ち上がりドロスを見る。先程までと違ってこちらを明らかに見据えて唸り声をあげていた。
違うこいつの魔能は{瞬間加速}じゃないただ単純に初速が速いだけなんだ。ドロスの姿を観察して何か特徴がないかを冷静に観察する。よく見ると尻尾のようなものが生えていることに気付く。今までの情報と合わせてドロスの魔能を予測しようとする。
またも急に詰めてきたので攻撃を繰り出す腕に盾を合わせようとする。奴は腕を途中で止め逆の腕で攻撃を繰り出す、またも喰らってしまい今度は完全にあばらが折れた音が聞こえた。呼吸をする度に苦しくなってきたな。
「「ソール・・・」さん」
「2人とも...もう大丈夫だ、どうしたら奴を倒せるか分かった気がする」
どんな能力か分かった。奴の能力は確かに戦闘においては強力だしそれに加えてあの速さは驚異的だ。まだ自分は全力を出し切っていない奴と同じく魔の力をまだ引き出していない。頭の中でとある言葉がよぎる『この力は強大であると同時に危険な力』そして黒翼を生やした姿を思い出す。この力にもし溺れてしまったら自分もサピダムのようになってしまうのだろうか。
それだけは絶対になりたくはないな。自分にはまだ守らなければならない人がいるし、その思いを託してくれた人達もいる。そのためにこの力を使うんだ。
魔の力を引き出すと呼吸が段々と落ち着いてくる。痛んでいたはずの所が直っていくのを感じる。それと同時に背中に黒翼が生え両腕は禍々しい鱗に覆われた...ここからが本番だ!




