#65 世界樹
日が昇る少し前街中が多少騒がしかったような気がする。とりあえず昨日もらった剣の調子を確かめることとした。朝一番からさっそく竜剣を振るうことにした。以前と同じ感覚で剣に魔力を込めると目に見えるほど魔力がきれいに纏われ、暗めの色の竜を纏いながら撃竜牙を放てた。
これは今まで使ってきたどの剣よりも事細やかに魔力の質そのものが映し出されるな。威力が上がったのはいいけどこれは同時に他の人に魔の力を見せることになるな。
この力は傍から見れば魔族が剣を振るっているように見えなくもない。仲間の前以外で力を使うときは気を付けて使わなければ誤解されてしまうかもしれない。それでも自分の姿を隠せない、どうしようもない程の強敵に遭遇した時、その時が絶対に惜しみなく力を使うと決めている。
「朝から鍛錬かソール殿?」
「ルメガさんおはようございます。そうですね、少し剣の感触が知りたくていつもの修練がてら振るってましたね」
「我が友から聞いてはいたが魔族でもないのに本当に魔の力を扱えるのだな」
「我が友?それってもしかして...」
「世間一般的にあいつはマジックアルケミストとも呼ばれて、この世界に新たな職を生み出して今もなお伝説を更新しておるよ」
やっぱりこの人も勇者様一行の知り合いなのか。紫ランクの冒険者であるルメガさんはやはり繋がりが多いのだろう。ノレージ様の知り合いか、メルドリア王都で冒険者になるために審査を受けたのがもう懐かしい。
ノレージ様はバラバラになっていた部族達をまとめてエルドリアという国を作って、その後冒険者というものを正式な職とした。さらに冒険者ギルドも作り世界各国へと支部を作った。
依頼を進め世界中の冒険者達が順調にランクを上げ実力者を育成する。自身もそのギルド規定に則って紫ランクへと到達させ、今もなお個人として術の研究においては右に出る者はいない。
「勇者であって魔を使うヒュードの青年。もしかしたらソール殿はヒュード族ではないのかも知れませんな」
「!?そのお話について詳しく聞いてもいいですか!」
「うーむ確かにそれらしき文献をどこかで見たような気もしたような気もします。とりあえず日も昇ってきたので朝食としましょう。その後エルドリア城の書庫に参りましょうそこなら情報もあるでしょう」
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「改めて近づいたら本当にでかいね」
ルメガさんに連れられて世界樹と呼ばれる巨大な木の麓に自分達はいた。今までメルドリア、サルドリア、アルドリアの城を見てきた。これほど自然を活かした巨大な城は見たことがない。
エルドリア共和国の象徴でもある世界樹はエルドリア城としても機能している。軍事力ではサルドリアに次いで世界で2番目で圧倒的な術兵器や魔術師団を有している。
「それでは書斎の方へ参りましょう」
城の中を進んでいくところどころに術を施した防衛設備が置かれている。絨毯に沿って進み樹の中とは思えないほどに広い空間を有した書斎へと辿り着く。
「うわぁ、ここまで本が並んでいるのは見たことがないです」
「ギルドでは冒険の為に必要な物しかないけど、ここには王家が保有する禁書や歴史書があって時間が続く限りは情報を得ることが出来るのだよ」
「えほんもある?」
「あるよ、じゃあ、私と一緒に読みに行こうか」
「うん!よむー」
キュミーをウェルンに任せて自分達は勇者様についての情報を集め始めた。勇者というカテゴリがあるわけではない。なので関連書物を片っ端から読むことになっている。正直途方もない作業だが剣についての手がかりを探すためならこれぐらいどうってことはないはずだ。
とか思ってた時期は自分にもあったがこれは想像以上にしんどい作業だ。大半は自分達が知っているような勇者伝説を深堀したような本ばかりだ。大したものはないし似たような内容ばっかりで途方もなく落胆していると目の前に古びた書が置かれた。
「ルメガさんこれは?」
「この前言っていた種族についての文献です。これは持ち出しが自由なので今日はここまでにして帰りましょう」
ルメガさんの言うとおりにしよう。このままだと文字の見過ぎで頭がおかしくなりそうだ。一緒に探してくれていたネモリアさんとベルゴフさんも相当疲労しているように見える。
「おにいちゃん、ここおもしろいほんいっぱいだよ!」
「おおそうだな、でもそろそろご飯食べに行こうか」
「うん!ごはん♪ごはん♪」
キュミーはずっと絵本を読んで過ごしており楽しんでくれていたようだ。ウェルンがずっと相手してくれてなければ恐らくはもう体力が持たなかっただろう。ルメガさんが持ってきてくれた古書を持って帰路につく。
タイトルは『栄光の六種族』と書かれているが六種族?ヒュード族、マイオア族、ビース族、ウィンガル族、フィンシー族の五種族じゃないのか?仮に六種族だとして、どうしてもう一つの種族が衰退してしまったのか。これはとても興味があるな。
もしかしたら自分の能力の正体が分かるかもしれない。だとしても謎として深まるのはどうして両親に拾われたのか。本当の自分の親はどこにいるのだろうか?屋敷に着いてご飯を食べて部屋に戻り古書を開いて読み始めたのだった。




