#64 術
ルメガさんに案内された部屋に入る。壁に自分が持っていた剣よりも二回りも大きい剣が飾られていた。
「見事な剣ですね」
「分かるか?ソール君、この剣を君に託そうと思っていてね」
「ち、父上!?た、確かに私ソールさんが剣を無くして困ってると言いました。でもまさか王家から託された魔術剣をソールさんにですか!?」
「託されたといっても私が若い頃はずっと使っていたのだぞ。最近は公務で忙しくなって剣を振るうこともなくなってしまった。あともう私はこの剣を使いこなせるほどの魔力を有していないのだからな」
「でも明らかにソールが持てる大きさじゃないけど何か仕掛けが...」
ウェルンが触れると剣の大きさが片手剣ぐらいの大きさに変わった。今まで色々な本などで剣の知識や魔力に関する知識を得ているのだがこれは流石に驚いた。魔族に対抗するために連合軍が作り出した人口的に作られた剣、それが魔術剣である。使用者に馴染むように魔力の質によって姿を変えるとは聞いていたがまさかウェルンが持っても変わるとは思わなかった。
「おおウェルンさんも単色なのですか?」
「たんしょく?」
「ん?ああ単色っていうのはな術適性を1つだけ持っていて応用術が使える専門家って感じだな」
「よくわかんないけどすごいってこと!?」
「そうだぞ、ウェルンはすごいってことだぞ」
「なんか恥ずかしいんだけど、というかこれソールのでしょ!」
ウェルンから渡されると今度は少し刀身が伸び、刃が黒色つまり黒鉄ぽい何かへと変化した。それぞれに適した剣になるのか今まで使っていたものと遜色がない。
「流石は剣術士なだけありますな。私が持つとただ大きくて鋭い普通の剣になってしまって...これほどの力を引き出すとは」
「本当にもらってもいいんですか?これって相当に貴重な物じゃ・・・」
ルメガさんは静かに頷いた。これ以上の謙遜は逆に失礼に当たるな。いつも持っていたような剣と同じサイズになったのでいつもの鞘にしまえた。
「坊ちゃんやっぱりあるとないとじゃ格好つくな」
「そんな変でした?」
「そうですね、木剣の素振りじゃ物足りないって朝の修練に訓練用の弓と矢を作って、私を付き合わせたじゃないですか」
「あーははは・・・そんなこともありましたね」
そうだ、そうだった。ベルゴフさんとハウゼントさんに自分の修練に付き合ってもらっていた。ふとその時思ってしまったのだ。そういえばネモリアさんの強さを体感したことがないな。と思って声をかけたらだいぶノリノリだったよな。
ちなみに空中戦に持ち込まれなければ負けることはあまりなかった。今までウィンガル族のような空を飛ぶ相手との戦闘経験が少なかった、なのでとても大変いい経験を得られた。
「まぁ坊ちゃんも剣をもらえたしよ明日に備えて休もうぜ」
「そうですね、この時間だとどちらにせよ城には行けませんからね」
その後夕食をいただいて客室に案内された。まさか自分達が個人で使える別館があるとは思わなかった。改めてネモリアさん貴族なんだなとしみじみ思った。
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この国に来たのも久しぶりじゃな。ここに来るまでに魔王軍に魂を売った同志たちも葬ってきた。まさかここまで魔王信仰が広がってしまっているとは思わなかった。やはり魔王軍側に繋がる何者かがいるのは確定だろう。
特にこの国にはゴレリアスを忌み嫌う儂以上の年寄り達が多い。その者達は反勇者団体であるザイール教を掲げ、エルドリア共和国建国の際に姿を消した。確実と言っていいほど、儂個人が関わるものに妨害をしてきた。その為儂は冒険者ギルドを完成させ、儂は王位を譲りギルドマスターとして他国に冒険者組合を設立しにいった。
「まさかここまで大きくなってしまうとは昔の儂は愚かじゃな」
「そうですね、ノレージ様。そして我々ザイール教の第二基地に1人で来るのは愚かなのではないのですか!」
年寄りの独り言に返答するのはどうかと思うぞ。ここはエルドリア郊外にある貴族の屋敷の庭。そしてここはザイール教の第二拠点である。
「他の拠点にも連絡を入れているのでそろそろあなたを倒すための...」
「今回こうやって姿を現したのは第一拠点、つまりザイール教の総本山を叩くためじゃよ。ここに教祖と繋がるものがいるはずじゃ。さっさと出てきた方が身のためではないのか?」
「そ、その情報をどうし...」
「第二司教!他の拠点が応答しません。本部からも応答がありません」
「な、なんだと、本部以外の拠点が既に壊滅させられたというのか。まさか貴様がやったのか!」
あやつが第二司教か。他の拠点を任せられた司祭と違い本拠点の場所を知っている。その情報を一番最初に襲った拠点で入手し、魔道具で本拠点以外の場所の記憶を第八司祭から抜き取った。
他の拠点を一夜で壊滅させ、この拠点に着く前に他の拠点は{混術}全て消し飛ばしたところだ。水術と風術の混術で第二司教を捕え他の拠点と同じ術を唱える。儂はこれまで色々な術を開発させてきた中で最も破壊力のある術を唱える。
「{エンド}」
構成員が数百はいるであろう。屋敷に向け、火、水、風、土、聖を混ぜた魔力の塊を解き放つ。すると破壊光線を繰り出され、地下にも広がる拠点ごと跡形もなく消し飛ばす。
「さて、貴様の記憶を読ませてもらうぞ」
「ま、待っ、お待ちくだされ。マジックアルケミスト殿、これからはあなた様に仕えさせていただきます。なのでどうか命だけはおた、グワァァァァァァァァァ!!」
奴の頭に右手を当てもう片方の手に持つ英具{フォールンウィング}に魔力を吸わせる。儂の英具は魔術書として魔力の質を高める。基本造形術ですらも応用術並みの威力へと変化させ、尚且つ普通の武器と違い魔の力を秘めた魔道具である。
特殊な能力として他者の生命力を吸い取ることにより、記憶を自身の物へと変換が出来る。おかげで儂がこの英具を使い始めた時は{死神}と呼ばれたものだ。
「儂はもう甘くはないぞ。今度こそ最後まで勇者の役に立つ為にな」
第二司教と呼ばれた中身のない亡骸を術によって出来た大きな大空洞に捨てた。そして儂は読み取った記憶を頼りに本拠点へと向かう。




