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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
秘密の翼王

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63/246

#63 帰省、兄弟


「こ、ここですか...?」

「はい、これが私の家ですが何か問題でも?」


 こんなこと前にもあったような。ネモリアさんが持つ船の豪華さの時点でなんとなく予想してはいたがそれ以上だった。門があって噴水付きの庭、給仕服を着た使用人達が礼をしたまま止まって道を開けている。


「お嬢様お帰りなさいませ。我が主ネモリア様と共に旅をしてくださったソール様御一行もようこそいらっしゃいました」

「あっいや、こちらこそお世話になっています」


 執事らしき人に案内されお屋敷に入っていく。廊下を進み食堂に辿り着くと背を向けて外を眺めている人がいた。ネモリアさんに似た翼を持ち背丈は自分より大きく体つきががっちりとしていた。この人は確実に強い、今ここから不意打ちを仕掛けても倒されているのはおそらく自分だろう。


「うん?ああ申し訳ない少々考え事をしてしまっていてね。私がこの家の当主で冒険者としては紫のランクを認定されているルメガ・ゴースというものだ。勇者殿我が娘が世話になった、心より感謝しているよ」


 ルメガさんはおじぎをした。自分よりも強い人にこうやって感謝されるのはどうも慣れないな。


「先ほどハウゼント殿が来て娘に与えた船を壊したお詫び、それと君たちのことを話してくれたよ」

「そ、それじゃあ私達がここに来た理由も分かって...」

「もちろんだとも、我がゴース家も協力しよう。王家が保有する勇者様に纏わる資料を閲覧できるよう頼んでみよう」


 王家の保有する資料が見れるのはなかなかないぞ。これはいい情報が期待できるかもしれない。そういえば屋敷に着いてからネモリアさんが侍女さん方に連れていかれたな。いったい何があったんだろうか。


「お待たせしました父上」

「おねえちゃんがひらひらしたのきてるー」

「やっぱりドレス似合うねネモ」

「もう茶化さないでください!」

「本当に似合ってますよネモリアさん」

「ソールさんまで茶化さないでくださいよ...ほんとに...」

「我が娘は褒められ慣れていなくてな。それぐらいにしてくれ勇者殿」

「ち、父上!!」


 前にアルドリア城で見た時も思ったけど、いつもの格好も彼女らしくていいけどドレスも似合っているぞ。そんな感じで談笑していると扉が大きく開かれ、長杖(ちょうじょう)を持った歳的には自分より少し上に見える青年が入ってきた。


「父上!ここにおられましたか!」

「なんだ騒々しいぞ客人がいるのだぞナザ。お前も王宮魔術師なのだから気配を察知することぐらいは出来るだろう」

「いえ、自分より低い魔力の持ち主を感知する。無駄な行為は戦闘時以外はしないと決めているのです」

「兄上その言葉を聞くと私も含まされていませんか?」

「ん?いたのか、一族の恥さらしがお前が冒険者にな、」


 ナザの口が急に止まった。その目の先には手を組んでナザを見据えるルメガさんがいた。その姿を見て自分とウェルンは気圧されている。キュミーも後ろに隠れてズボンの裾を掴んでいる。彼から目に見えるほど濃い魔力が溢れ出ていた。流石は紫ランクの冒険者と言ったところだろうか。


「要件だけ話せ。話をしに来たのだろう?」

「っと、都市計画についての文書が送られていない。そ、送付確認に来たんだ送ってあるのか?」

「ああその件かすまない。送り忘れていたかもしれないこのあとすぐに対処しよう」


 ルメガさんは席から立ちナザを連れてどこかに向かった。扉が閉められ部屋の中の空気が軽くなると自分とウェルンとネモリアさんが膝から落ちる。


「あ、あれが紫ランクなんだね息苦しかったよ」

「そうだな剣を習ってるときに父が怒った時みたいに場が凍ったな」

「さっきまでやさしかったのにこわかったよー」

「確かに魔力を表面に出すだけであれほどの威圧感を放てるのはなかなかいねぇな」

「流石ですねベルゴフさんは、私も久しぶりだったので圧倒されてしまいました」


 しばらくするとルメガさんが戻ってきた。町を守る領主としてそして父親としてナザを正さなければならないと思ったらしい。ナザは魔力の才に関してはノレージ様にも迫るらしく{神童}と呼ばれている。

 だが調子に乗りがちなのがキズで王宮魔術師となった後、度々出過ぎた行為で問題を起こしてしまうらしい。礼と謝罪を言われ先程よりも深く礼をされてしまってこちらが戸惑ってしまった。ルメガさんは渡したいものがあると言い自分達を他の部屋へと案内を始めた。


「我が一家は妻を早くから亡くし子に対して愛情を均等に注いだつもりだった。ナザはどこかで間違えてしまったようだ。ナザは強さを求める節が強く術適性もノレージと同じ五術を使えて彼のようになろうとしていた。いつしかその魔力の才を彼のことを打ち倒すために掲げるようになってしまったのだ」

「なるほどな、それで自分より魔力が弱いものは見たくないってか。魔力を抑えて普段から生活してるやつもいるってのにもったいないやつだな。いつかその力の渇望で身を滅ぼさないか心配ってところか?」


 ルメガさんはベルゴフさんの言葉に肯定も否定もしなかった、沈黙が答えなのだろう。ナザのことをかつて親友だったコルロと重ねる。

 あいつは自分より戦いの才能がありいつも一歩先にいた。それでもその力に溺れることなく、自分に対してはアドバイスをくれたし村人みんなに優しくしていた。

 コルロもどこかで一瞬でもナザのように考えていたら同じようになっていたのかもしれない。才能に恵まれたが故なのだろう自分にはまったく分からない世界だ。

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