#61 ウィンガル
ん、ここはどこなんだ?確か自分は疲れたから部屋に戻って一休みをしていたはずだ。だがそれがどうして森の中にいるんだ。いや、この感覚は、久しぶりのような気がする。誰かと剣を打ち合っている相手の剣術士が打つ剣を自分は知っている。
「・・・・・とこうやって打ち合うのも久しぶりだな、今んとこ43戦中23勝で俺の勝ち越しだからなもっと広めさせてもらうぜ!」
「ゴレリアス負け越していてるのはほんとのことだがな。確かに純粋な剣の才能ならお前に劣る、でもな村で打ち合った時と違って俺も成長してるんだよ。だからこれは知らないだろう!」
相手の剣術士は魔力を剣に込める様子を見せた。自分の{撃竜牙}と同じように剣を振るう。そして竜が具現化して牙を向いて身体を貫通し衝撃が突き抜け地に膝をつける。でもおかしい仮に今自分が見ている光景がゴレリアス様のはずならばどうして竜剣術を受けているんだ。自分が知っている限りだと竜剣術はゴレリアス様の剣術のはずだ。
「な、なんだ今のは?一瞬竜がいたような気がするが」
「これは俺が自分の為、そしてお前に伝えるために会得した剣術だ。どうだ竜をも屠れそうな一撃だったろう?」
「竜をも屠る剣術{竜剣術}か。いいな流石は・・・・・!俺が勇者ならお前は{剣神・・・・・}だな!」
「悪くない響きだな、やっとお前らに追いついたみたいでよ」
「そうか?・・・・・は小さい時からいつも目新しいことをして俺の事驚かして一歩先にいたぞ?」
手を差し伸べられその手を取る。相手の顔を見るとそこには自分の父親と似た顔の誰かがいた。そこでようやく気付いた。ああ、これは勇者様の記憶なのか過去に何度か見たな。自分がゴレリアス様の記憶を追体験しているのか。視界が明るくなってきて今回はここまでか悟る。今までと違ってはっきりと意識が覚醒していく。
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「えっ?なんか夢を見るようになったって?」
「はい、それも自分じゃなくてゴレリアス様の記憶みたいなのを見るんですよね」
「へーちなみにどんなの見たの?」
今まで見た夢というか回想を話す。昨日の以外ははっきりとは覚えていないので曖昧に伝えた。誰かは知らない自分の父親に似た親しげな人は一体誰なのだろうか。
「それにしても{剣神}ですか聞いたことがありませんね。ベルさん聞いたことありますか?」
「いや俺が知ってるのは{拳神}だけだな。それこそ姉御達に聞いた方が分かりそうだけどな」
「私も聞いたことがないですね。仮に今言った話が本当ならその人は竜剣術の祖になりますね」
そんな人がいるなんて自分も聞いたことがない。流石にあそこまで瓜二つの顔をしていると何か関係があるはずだ。剣術指南役としても育ててくれた父親ウヌベクスに聞きたいことがまた増えてしまった。
「竜の子供であるエルドリア王なら情報が出てくるかもしれませんね。でも皆さんの話で思い出そうとしてるんですけど。顔が出てこないと言うか仮面をつけていて顔を見たことがないんですよね」
自分達よりかは王族と面識のあるハウゼントすら顔が分からない。同族であるネモリアさんも顔が分からない。同じく竜の子供として面識はあるがゴルドレスさんも顔を覚えていない。港でも情報を集めていたがそこで聞けたのは人々から秘密の翼王と呼ばれているらしい。
「ねーねー」
「ん、どうしたキュミー?」
「あれなーにー?」
キュミーが指さした先を見るとそこには弓と杖を携えて空を飛んでいる人達がいた
「なんかみんな似たような恰好してるね」
「あれはエルドリア騎士団ですね。異常がないか常に巡回してますね。でもまぁ平和なんでただ自由に飛び回ってる感じですね」
「やっぱりみんなウィンガル族って飛べるんだな」
「そうですね飛ぶことは歩くことと同じですからね。急いだら疲れますしあそこ以上に飛ぶとなると空気と魔力が薄いんですよね」
「おねえちゃんわたしもとんでみたい!」
「はいはい、じゃあちゃんと落ちないように掴まっててね」
ネモリアさんがキュミーを背に乗せ宙に飛ぶ。正直あまり目の前で飛ぶのはやめて欲しい、本人は気にしていないがそれでもスカートで飛ぶのはやめてほしい。スパッツを履いてるのは分かっているのだが、咄嗟に目線を逸らすのが遅れて見てはイケないものを見たような気になってしまう。
「ソールどうしたの?」
「いやなんでもない!別に何もないよ!」
「ふーん、何か考えてたんだ」
とか言っていたら急に目の前に盾が展開されてどこからともなく飛んできた矢を弾かれた。危なかったハウゼントがいなければ確実にくらっていたぞ。どうやら罠を踏んで矢が飛んできたみたいだ矢には何かの魔力が込められている。
「坊ちゃん不味いぞ!キュミー達がいねぇ!」
「えっ!」
飛んでった方に目を凝らして周りを見渡すと近くに多数の魔力反応と共にネモリアさんとキュミーを見つける。
「ここを抜けた先にいます!」
「急ぐぞ何が起こるかは分かったもんじゃねぇ」
魔力を漲らせて森林帯を急いで駆け抜けてようやく開けたところに辿り着く。そこには先程見かけた騎士団とは違ってエルドリア共和国の紋章が逆さまになった旗を掲げた人達がいた。気絶したネモリアさんとキュミーが何かの箱に入れられようとしていた。
「ネモ!キュミー!」
ベルゴフさんが拳の形を模した闘気の塊を飛ばして敵を薙ぎ払いながら箱そのものを破壊する。自分とウェルンは魔術で数人倒して残りの敵をハウゼントさんが倒して事なきを得たのだった。それにしても待ち伏せされていたかのような感じがする。ここにももう魔の手が伸びているのだろうか。にしても自分ではなく何故ネモリアさんとキュミーが狙われたのだろうか?




