#59 新たな大陸
「見てソール!見えてきたよ!」
ウェルンが手すりから身を乗り出してそんなことを伝えてきた。目新しいものを見たときは皆興奮するもの、この前までいたマクイル大陸は一面の砂漠が広がっていた。これから新しく向かうヴァル大陸は深い木々に覆われた自然豊かな森林島だ。
「エルドリア右港にやっと着きましたね。そろそろ船から降りる準備を・・・」
「いや待てネモ、なにかおかしいぞ?」
「どういうことですか?」
「港の奴らは傘を差してるよな。なのに俺らのとこだけ雨が降ってない。それもこの船の範囲だけ雨が止んでる」
そう言われて港の方を見ると確かに雨が降っているようだ。上を見ると光り輝く盾があり自分らの船には一滴も雨水が落ちていなかった。
「あー少しいいですか?」
「っ、いつの間に!?...気を感じられねぇなんて師匠以来だな」
見知らぬ声の方に声を向けるそこには青年がいた。ベルゴフさんの気配探知に引っかからずに自分達の背後まで回ってるなんて。下手をしたら自分達はやられていたのではないだろうか。
「まぁそんな身構えないでください。あくまで確認をするため少しお話がしたいんです」
両手を挙げながらそう答える彼からは確かに敵意は感じられなかった。確かに今まで関わってきた人と比べても雰囲気が違うというか。もしかしてこの人が。
「名前を言ってなかったですね。私はエクスキューション三闘士、ヴァル大陸支部、ゼク・ハウゼントです」
「あなたがですか?顔を見たことはなかったので想像でもっと厳格な人かと思ってました」
「よく言われますね意外と若いねとか。それもそうなんですよエクスキューションに入ってまだ半年の新人なんでね」
「半年で一般団員から幹部職なんですか?!」
「ですね、なんで部下に当たる人のほとんどが先輩に当たるんですよね。ちょっと複雑な気持ちな時が多くて。とそろそろ本題に入りますこの中にヒュード・ソールという方がいらっしゃいますか?」
その言葉を聞いて自分は一歩前に踏み出した。きっとこの人なら信じてくれるだろう。前に立つ背格好的には自分より少し大きいハウゼントさんに顔を向ける。
「あなたがヒュード・ソールで間違いないですね?」
「はい、自分はメルドリア王家に認められた勇者ヒュード・ソールです」
「勇者?・・・では単刀直入に聞かせていただきます。先輩方からあなたがサルドリア王を殺害したという罪で指名手配されていると伝えられました。もし本当なら私はここであなたを殺さなけばならないのですが...何か言う事ありますか?」
自分は今までどういった経緯で旅をしてきたかを話した。サルドリアで起こった真実、一部のエクスキューションが魔王軍に乗っ取られている可能性についても事細やかに話した。
「なるほど大体分かりました。私も情報が少なすぎて困っていたんですよ」
「じゃあよ今上に展開している物体を無くしてくれよ。あれお前さんの術かなんかだろ。この船の上空に展開しているあのドデカイ盾みたいなやつは」
「いや雨が降っていたので雨除けにでもと思ってましたが威圧的でしたね」
「他に目的があって展開しているわけじゃないよな。例えばこの船を叩き潰すためとかじゃないな?」
何故かそのあとは言葉が続かなかった。確かに上空に展開している盾は雨を防ぐだけにしてはサイズ感が違いすぎる気がする。にしてもあれほど大きな盾が全て魔力の塊なのか。流石にエクスキューション三闘士なだけあるな。全員が何かしらに特化しているな。この前会った三闘士のドーガは明らかに攻めというか能力が力に偏っていたしな。
今対面しているハウゼントは魔力で作られた盾による攻撃や防御が得意なのかもしれない、となると最初に会ったギルガバースは魔術に特化しているのか?
「・・・そうですね先に言います。あなた達に対しては危害を加えるつもりはないですが残念ながらこの船は壊させていただきます」
「どうしてですか!?」
「ここであなた方を見逃すのは命令違反になってしまうので。船ごと魔勇者一行を叩き潰したことにしようと思っています。もしこれで他の大陸から先輩が来てしまったらその時は必ず味方します。先輩方が魔勇者一行として悪と見て断罪しようとしても、私は勇者ヒュード・ソールを支持します」
アルドリアにいた王宮の人達の他にもここまで信じてくれる人がいるんだな。でも今まで対立していたエクスキューションが、一部だけでも味方になってくれるのはありがたいところだ。
「ネモリアさんどうしてもこの船は壊されるのは嫌ですか?」
「そういう理由があるなら分かりました、私も慈愛のハウゼント、あなたを信じます」
「その二つ名で呼ばないでください...先輩方と違って自分はまだ慣れてないんですよ」
自分達は必要な物資を運び出し船の中に誰もいないことを確認し終わる。ハウゼントが船に翳した手を振り下ろすと上空に展開していた盾が船を潰し海の藻屑となったのだった。




