#57 守りたいもの
「うわぁぁぁ!!」「きゃぁぁぁ!!」
先程まで城の中庭にいた自分達が飛ばされた先は空中だった。そして真下のオアシスの水面へと落下し水しぶきが上がる。ここは確か...
「ここは港から一番近いオアシスか?あーもうびしょ濡れだな。まぁ砂漠は暑いからちょうどいいか」
「おみずつめたーい」
そうだ、ここは北マクイル港に一番近いオアシスだ。アルドリアに行くときも通ったところでここまでかなりかかる距離を術式で転送してくれたのか。フィオルン様ありがとうございます。
「あと少しで港ですね頑張りましょう」
「そうだねネモ、またあの豪華な船で旅だねー」
「俺乗ってねぇから楽しみなんだよな。トレーニングルームってあったりするか?」
「確かありましたね」
「おっ、そりゃいい船旅も退屈しなくて済みそうだな」
あれ、そういえばベルゴフさんはどうやってこの大陸にたどり着いたのだろうか?まさかメルクディンからマクイル大陸を泳いで渡ってきたわけじゃないよな。いやベルゴフさんなら有り得るか?
この前の戦いや身に纏うオーラを見ての憶測にすぎないが、ベルゴフさんは勇者一行並みの力を持っていると思う。自分達の中で三魔将軍クラスの敵を相手に出来るのは今のところおそらくベルゴフさんだけのはず。
勇者一行とこの世界にいる人で、魔王軍と戦える実力を持った人達がいないわけじゃない。その内にエクスキューション内の三闘士とジャッジマスターが含まれている。だがエクスキューション三闘士のうちの2人、メルクディン大陸担当、巧技のギルガバース・先程ベルゴフさんと対峙していたマクイル大陸担当、剛力のドーガが魔王軍だと判明してしまっている。
残りのもう1人、ヴァル大陸担当、慈愛のハウゼント。彼はいったいどちら側なのだろうか流石に全員は敵ではないと思いたい。今のところ自分達に味方してくれるのはアルドリアの人達、勇者ゴレリアス様と共に旅をしていた人達は自分達に味方してくれるだろう。
それと度々味方してくれている魔族の女性だがただなんとなく、なんとなくだが、自分はあの人のことを知っているような気がする。次に会えたら聞いてみよう自分について何か知っているかもしれない。ただでさえ何者なのか分からないのだから。
「やあ!やあぁ!!」
「おっ、いいぞ振りも良くなってきたな。そろそろ休憩にしようか」
「うん、つかれたー」
槍を振るっていたキュミーが俺の膝に座りそのまま寝息を立て始めた。突発的に槍を与えてキュミーに訓練させてみたが筋がいいというか、元々槍を使っていても不思議じゃないぐらい才能がある。あとは成長するのを待つだけだ。
「おかあさん、どこ?こわいよ・・・おとうさんいかないで・・・」
「...でも、まだこんな小さい子まで戦う時代とはな。もしそんな世界が普通になったら師匠に殺されちまうよ」
頭を撫でていると頭につけている髪飾りに手が触れた。そういえばこの子が着けてる高価そうな髪飾りは外れているところを見たことがないな。これもしかして・・・
「動く気配すらないな、んじゃこれ{英具}なのか?」
あとこの紋章をどこかで見たことがあるような。まぁいつか分かるだろう本人にも今度聞いてみよう。日が暮れてしばらく経ったので宿に帰ることにした。こうやって訓練するのもあとどれくらいだろうか。
正直俺が教えられることはもうない。あとは俺より格上の槍の達人もしくは実戦経験を積ませるしかない。相手させるとなると訓練していることを誰かに話したほうがいいだろうか。いや良くも悪くも全員善人だからな戦うこと自体を経験させたくないかもしれない。やはり育てていることは教えない方が良さそうだこういう損な役回りは俺だけでいい。
「ベルゴフさんお疲れ様です。今日もキュミーの相手ありがとうございます」
「いやいいよ俺も好きでやってるしよ」
坊ちゃんもこの前の戦いを経て強くなったからな。それが問題とも言えるがな魔の力を扱えるようになったことはいい。その力に飲み込まれないようにちゃんと見守っててやらんとな。でもってあの御方のことはまだ話さない方が良さそうだ。互いに面識はあるだろうがまだ坊ちゃんが知るには早いだろうからな。
「ベルゴフさんキュミーのこと預かりますね」
「おう、頼んだ嬢ちゃん達」
キュミーを女性陣に預けて部屋に戻ってシャワーを浴びる。次に行くのはヴァル大陸か、空を飛ぶ相手か強いやつはいるだろうか。あの大陸は主に弓と槍が盛んでその2つよりも特に群を抜いて研究等がされているのは術に関してだ。
あの国には世界に唯一術に研究する特別な機関が存在しており、そこは元々ノレージ様が設立した場所だ。そこに行ければキュミーの術適性も調べてもらえるだろう。まぁだが一介の冒険者では相手にされないだろう。もしそうなったら俺も正体を明かして無理やりにでも調べてもらうしかねぇな。術が使えるようになればキュミーもただ待っているだけじゃなくて良くなるからな。
「いやしかし俺みたいなのが師匠になるなんてな人生分からないもんだな」
服を着替えて食堂に出ていくそこには笑顔で食事を取る坊ちゃん達が見えた。なんか俺も歳くったんだなぁ、若いやつらが輝いて見えらぁ。世界を守るだとか気負わなければいけないとは思ってはいるが、まずはこいつらを守ってやらんとな。




