#56 血飢姫
「とりあえず同じとこ出の拳術士!相手してくれや、港んときは逃げられちまったからよ」
ドーガは何もない空間に右手を掲げて戦斧を出現させた。あれは奴の{英具}なのだろう片手斧だというのに刃が両手斧ぐらいもあるとても巨大な戦斧だ。
「姉御、ちょっと相手したほうがいいか?」
「そうね1分だけ耐えてくれたらいいわ。合図したら術式のところに飛び込みなさい」
「ほらキュミー、嬢ちゃん達のとこ行ってな」
「1分も俺とやりあえると思ってんのか?同族とはいえなめられたもんだなぁ!!」
そういうと激しい音と砂埃をあげてベルゴフさんの前で斧を振りかぶっていた。マイオア特有の巨体に似合わずなんて速い動きなんだ。まぁそれに関してはベルゴフさんも負けていないとは思うが。叩きつけられてまたも砂埃があがるが、ベルゴフさんはドーガの背後に回っていて攻撃を繰り出すも片手で受け止められた。
「あんた生前は相当鍛えこんでたんだな。師匠直伝の拳を止められるなんてな」
「なんのことだ、俺は生きてるぞ?なんなら前より気持ちがよくなるくらい力が溢れてくるぐらいだぞぉ!!」
ベルゴフさんの巨体が持ち上げられそのまま投げ飛ばされる。ベルゴフさんを投げ飛ばすなんてどんなでたらめな怪力の持ち主なんだ。だがそれと同時に鎧の内側から何か禍々しい何かが漏れ出していた。あれは先日倒したワンクネスや三魔将軍サピダムそして自分と同じ魔の力だ。
「転化していない普通の身体を魔の力で動かしてんのか。仕組みはアンデットと変わらないな」
「俺が死んでるか死んでないかは関係はねぇ...俺はただ強いやつをぶっ潰してやりたいんだよぉ!」
さらに瘴気が漏れ出す。魔の力に溺れて自我を失っているのか。いいやあの顔は力を制御して尚且つそれを楽しんでいる顔だ。自発的に力を引き出して我が物としているドーガを見て思ってしまった。
「ソールやあのお姉さんみたいに自我を保たないでなんか獣みたいに力使ってる・・・」
自分が思ったことをウェルンが口に出した。今まで押さえつけてた破壊衝動のタガが外れているというわけか。
「相手としてはおもしろいがそろそろ時間だろ姉御!」
術式に向けて飛んだベルゴフさんに鋭い蹴りが叩き込まれる。足元の術式が輝きだす、いや待ってそのままこっち来ないでぇぇ!
********************************************************
だから姉御って呼ぶんじゃないわよベル。つい反射的に蹴り入れちゃったじゃないおかげでちょっと術式で指定していた座標がズレたじゃない。まぁあの子達なら大丈夫よね。私達と同じように勇者一行と言われ、これから魔王軍と戦っていかなければならないんだから。
そしてそれを意図的に邪魔する何者かがエクスキューションを操っている。しかもその何者かはガッシュ・バグラスに次ぐ実力者である三闘士をも倒す実力者であるということ。国規模の軍隊を操れるほどの何かしらの術者であるということ。だが逆にそれ程の術者も限られてくるサピダム並みの魔の力を操るものとなると...
「どこに行った、拳術士!貴様どこに行ったぁ!!」
「もうここにはいないぞドーガ。お前も少し冷静になれソール坊が本当に抹殺されるべき存在かどうかを」
「うるさい!俺は、あいつらのために、殺さねば・・・あいつらって誰だ?・・・俺はなんのために・・・はぐぁぁぁ!?」
ドーガが頭を抱えて急に苦しみ始めた。身体を操ることは出来ているがまだ完全に精神までは魔の力に浸食されていないようだ。今ここで戦えるのはゴルドレスとその他数名の騎士たちだけだ。
「女王様、これ以上は厳しいぜ。俺もそろそろ身体に響いてくるぜ」
「分かりました、少し私が無茶をしましょう。ゴルドしばらく王宮を預けますよ」
流石に私もここで果てるわけにはいかない。先ほど見た予知が本当なら私は生きていたい。予知で見た戦いまで私は生きていたい。実は私の子供でありフォルはフィーザーとの子供で今の夫は実は私のいとこなのだ。
死と隣り合わせの旅をしていくうちに私はゴレリアスに惹かれていった。でもその彼は突然私達の前から消えてしまった。その心の行く先は親友として良く話し相手になってくれていたフィーザーにぶつけられた。だから私の子はマイオアの天才拳術士とビース族王家の血を受け継いでいる希望の塊。そして本当の父親の顔を知らない我が子に会わせてあげたい拳神マイオア・フィーザーという人物を。
予知で見た傷ついた姿で拳を掲げてこちらを向いて笑顔で私に対して何かを言うフィーザー。そんな傷だらけの姿で何を言うのかしら気になってしょうがないわ。でも一度は死んだと予知したあの人に会えるなら私は・・・
「来なさい私の友よ」
足元に展開した術式から英具{マスターオブアームズ}を呼び出す。この武器いや狩猟具は私が制御してすべて完璧に使いこなせる。狩猟具の扱いにおいては誰にも負ける気はしない。城内のエクスキューション1人1人に鉈や斧などを多数の弓で狙いを定める。
「{エンタイアブレイザー}」
城のあちこちから悲鳴が木霊する。私はゴレリアスと共に旅をしたグランドビースト、誇り高きビース族の女王フィオルン・ビース。
「くぅ・・・流石はブラッドプリ...」
「その名で呼ばないで、あなたは私の敵よ{ストレートロー}」
強大な魔力の塊をドーガにぶつけそのまま彼方へと突き飛ばした。{血飢姫}、その名で呼ばれていた時期は母上が魔族に殺され、ただただ狩猟に明け暮れていて血に飢えていた時期だった。
そんな日々を救ってくれたのがゴレリアスだった。あの時の私と比べてあなたのように誰かを守ることが出来たかしら。ふふっ、こんなに無茶して身体を動かしたのは約50年振りぐ、らいか、しら。




