#52 祝勝会
「そういうことね!まぁゴルドらしいというかあなたはフィーザーに似てるというか...」
「まぁ実際戦況的にあそこ抑えてくれなかったらよ、フィオ姐も死んでたかもしれないだろ?」
「そうね、ソールが来てくれなかったら私も危なかったわね」
ベルゴフさんとゴルドレスさん、そしてフィオルン様が軽く談笑している。自分は身体が強ばっていた。というかベルゴフさんはどうして緊張すらしていないんだ?
ここは今回の戦争の祝勝会で、特に自分達は功労者として色々な人から礼をされているんだぞ。こんな堅苦しい場所は初めてだ。素振りでもして落ち着きたいところだ。
「おい坊ちゃんそんな堅くなるなよ。いつも通り振る舞えばいいんだよ」
「そ、そうなんですけど、勇者として感謝されるのがなんだかむず痒くて...」
「ソール坊逆に応えてやってくれないか?」
「ゴルドレスさん...」
「今回の戦争で少なくとも世界がまた危機に陥ると思う奴もいるかもしれんからな。勇者がいるってだけで少しは気が楽になるかもしれないからよ」
そうか、そうだよな。どんな時でも勇者は希望というか支えになるよな。自分が小さい時も勇者になりたいとか、世界を救いたいとか、思ってた時あったもんなぁ。
今それが全部実現しているのか。全然実感湧かないな。そうだよな、自分は勇者のはずなんだよな。つい背中を触り翼がないことを確認して右手を眺めてしまった。
「自分は勇者なんだよな?」
ワンクネスとの戦いの時出たあの力。詳しいことはみんなには言っていない。仮にも魔族と同じ鹿らを出せてしまったのだ。あの後自身の見た目を変化させずとも基本造形の魔術を扱えるようになっていた。
自分が力を吸われてしまった時に現れ、自分と同じような黒い翼を生やした正体不明の女性。彼女に『あなたにかけられた封印を一段階解く』と言われた。その力をさらに解放出来るとも言っていた。そしてその力をコントロール出来るようになってほしいとも言われた。
確かにこの力を使いこなせたら今まで出来なかったことも出来るかもしれない。あの後何度か出そうとしたが連続剣である{ライズドラゴン}は使えなかった。単純に魔力が足りずに放つこと自体が全く出来ないのもそうだが、身体にかかる負担も普通に竜剣術を振るうときと比べものにならないぐらい大きいのだ。
「・・・ちゃん?」
「いやまずは新しい剣を・・・」
「ねぇ、おにいちゃん!!」
大きな声を出されてやっと我に帰る。いつの間にか自分にしがみつくキュミーがいた。自分もそうだが祝勝会ということでビース族王家に伝わる正装を着ている。
他の参加者の方も気品溢れるドレスを着ていたり、騎士団の方々もいつもの服装に加えて飾り武器をつけていたり、村育ちの自分からしたらどれも輝かしいものだ。今着ているこの服も今すぐ脱ぎ去り勢いでむず痒くなってきていた。
「おにいちゃんあれとってー」
「うん?あぁこのケーキか、はいどうぞ」
「ありがとー!」
キュミーは戦争の間は王宮に匿われて侍女の方と一緒に遊んでいたそうだ。自分が帰ったあとは身体に鞭を打ちながらキュミーの相手をしていた。キュミーはまだ幼いからな出来るだけ構ってあげないとな。
「あ、じょおーさま!」
「あらあらおいでキュミー、顔にクリーム付いてるわよレディは身だしなみがとても大事なのよ?」
「あ、えへへ」
フィオルン様に抱き上げられるキュミーを見てつい顔が緩んでしまった。種族は違えどまるで母と娘のようだ。この子の母親もちゃんと見つけてあげないとな。
「そいやフィオ姐も子供いなかったけか?さっきまでキュミーと遊んでたんじゃないのか?」
「おじさん、ふぉるちゃんのこと?なんかほんをよむっていってたよ?」
「うちの子ね、新しいことを見つけるとすぐにそっちを見ちゃうのよ。だからあまりこういう場に出てこないの。うちの主人が面倒を見てくれるから私もこうやって公務に集中出来るのよ」
フィオルン様にも子供がいたのか。それもそうかこれだけかわいい人が独り身なわけないもんな。昔旅をしていた勇者様達がもう所帯を持つほどに月日が経過しているのか。
「お、やっと嬢ちゃん達も来たみたいだぞ」
会場の人々の雰囲気が変わったような気がした。振り返るとそこにはビース族王家の正装に身を包んだウェルンとネモリアさんがいた。いつもと違ってそれぞれが持つスタイルや容姿の良さを際立たせる格好をしていた。どこかの国のお姫様もしくは貴族の御令嬢だと言われても違和感はない。
「ねぇ、ソールどうかな、変じゃない?私こういうの初めてで」
「うん、全然似合ってるよ。ヒュードのお姫様みたいだよ」
「そ、そう?」
「良かったですねウェン、今まで一緒に遊んできた中で一番時間掛けてましたもんね」
「もぉ!そういうこと言わないでよネモ!」
「ネモリアさんも似合ってますよ」
「えっ...あ、ありがとうございます」
ネモリアさんが顔を赤くしてそっぽを向いてどこかに行ってしまった。何か悪いことを言ってしまっただろうか。そんなことを考えているとベルゴフさんに肩に手を置かれた。
「坊ちゃん、少しは責任取ってやれよ?」
「どういうことですか?!」
「まぁソールには分かんないよねー乙女心は」
「ウェルンまで?!」
「こんなところもあの人に似てるんですね」
「みんなして自分のことをからかわないでくださいよ!」
なんでみんなに呆れられて笑われているのかは分からない。なんとなくで思うのは別に悪い気はしないので自分も笑うことにした。ああこんな日が続けばいいのに。




