#51 本領発揮
「な、なんだこれは…」
剣を持つ自身の右腕は目の前の魔族と同じく禍々しい鱗を持っていた。だが不思議と力は溢れてきていた。
「どうしたその姿は勇者よ、それではまるで魔族ではないか」
「姿に関してはお互い様だと思いますよ」
頭の中に攻撃術の基本造形の仕組みが組みあがっていた。あの女性は自分に何をしたというのか。左手を前に構え螺旋状の魔力を形成してローガの頭に目掛けて発射する。
「ふっ攻撃術か私に効くはずが...」
狙いが逸れて脇腹を掠めて奴の体に傷を作る。それに驚いているのは他でもないローガだ。
「な、なぜだ私には、術が効かないはずだ。まさか、貴様その術は{魔}ではないか?!」
「魔の力を扱う人族?ほぉなるほどそういうことか」
今のが術を放つ感覚、そして初めて魔力として{魔}を感じた。次は魔力を込めて剣術を振るう、いつもより剣に纏わせるのが楽に感じる、奴の懐に潜り込み竜剣術を放つ。
「それも効くはずが...」
「{竜旋}!!」
いつも以上に濃く込められた竜剣は想像以上の威力を持っていた。魔力に耐えきれず剣にヒビが入ってしまった。だがローガに対して手応えのある攻撃を与えることが出来た。
「なぜ私の身体に傷をつけることが出来るんだ!!」
「も、もしかしてソールの使える属性が{魔}なのが関係しているんじゃ・・・」
「ウェルンどういうこと?」
「今あそこにいるのはローガ様とウォールが混ざり合ってできたキマイラ。どちらの魔能も持っていてベルゴフさんの攻撃効かないし私達の攻撃術も効かなかった。でももしかしてソールなら...」
そうかそういうことか。ローガは確かに{術無効}を持っているが、それは魔以外の術を無効化する魔能なので自分の攻撃術が効いた。そして物理攻撃が効かないはずのウォール、それは人族視点からみたら効かないというだけだ。普通の人は魔の力を持っていないからそういう魔能だと認知されたんだ。
だが自分は違う。ヒュードで珍しく魔の適性を持っており魔の力を込めた剣は通った。要は魔を持つものにはウォールが持つ魔能は効果がないのだ。
「じゃあ自分は何も気にせずに戦えるってことだ」
「貴様はどうしてその力を使えるんだぁ、若いの!」
「知りませんよ、自分だってこんな力あったことに驚いてるんですから」
「っ、おいサピダム。どこ行った、私にもっと力を貸せ!」
先程まで近くにいたはずのサピダムはどこかに消えていた。あいつがいないならワンクネスとの戦いに集中が出来るはずだ。
「坊ちゃん頼んだぞ俺らにはどうしようも出来そうにないからな」
「はい分かり...っ!?ベルさんどうしたんですかその身体!?」
「ん?ああ気にすんないつか教えてやるから。目の前のあいつに集中しな」
なんだあの神々しさの塊はまるで拳神マイオア・フィーザー様のような。もし拳神様と同等の力と言うならウェルン達は安心して任せられる。あとはこの力はどれほどなのかを確認しなければならない。
頭の中でよぎる言葉があった『この力は強大であると同時に危険な力』。確かに勇者の力よりも強い力を持っているかもしれない。暴走もするかもしれないが今はこの力に頼るしかない。
「まぁいいお前はどちらにせよ、倒したほうが良さそうだな」
「そうですね、自分も少し腰を入れましょうかね」
「この若いのが、どこまで舐めたらいいんだぁ!!」
術式を構えて術弾を放ってきたが躱したり盾でいなしたりしていた。勇者の力を出している時より体が良く動く、いや動きすぎるぐらいだ。
「くっちょこまかと・・・」
「はぁぁぁぁ!!」
「グオオオオ!!」
一気に決めるぞ!剣に荒々しい魔力を込め、先程巨竜種に放った時と同じように剣を振るう。竜剣術{渾竜斬}を放ち、もう一度すぐに荒々しい魔力を込めて{渾竜砕}を放った。
「{ライズドラゴン}!!」
かなり深く決まり血が吹き出すこれは決まったな。完全に力を出しすぎた、立ってるのがやっとの状態だ。剣を杖代わりに刺そうとしたが完全に刃が折れていた。
「また剣も探さないとな」
「ソール!!大丈夫!?」
ウェルンが駆け寄ってくる。そうか、自分は勝てたのか。今気づいたが元の姿に戻ってい。、先ほどまで感じられた魔の力もなく勇者の力ももう残っていなかった。
「坊ちゃんよくやったな」
「ソール坊なんだあの力!めっちゃ強いじゃねーか!!」
自分が知る中で強い人達にこうも褒められるとむず痒いな。その後ろから黒鎧姿の集団が迫ってきていた。確かあれは...
「どうしてエクスキューションの人達がこちらに来てるんですか?」
「「あっ・・・」」
えっ、ベルゴフさんゴルドレスさん何その忘れてた的な間抜けな声。
「いやーそういえば、あいつら誰を探しにここに来たか思い出したわ」
「で、ここまで探しにきて魔王軍を俺らが無理矢理消しかけたわけで」
「てことは?」
「狙いはソール坊だな。まぁてことはだ・・・」
「嬢ちゃん達逃げるぞ!掴まれ!」
ウェルンとネモリアさんはベルゴフさんに掴まる。自分もゴルドレスさんの肩に乗せられて猛ダッシュでその場を離れるのだった。




