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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
獣王邂逅

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50/246

#50 新たな力

「おお、これはなかなかに強い作品が出来上がったではないか。お前はこれまで作ってきたキマイラの中で最も魔王様に近い魔族となったのだ。素晴らしきものへと生まれ変わったのだよ」

「私は強くなれたのか?」

「ああ、もちろんだともローガとやら。いや新たに魔族としての相応しい名を授けようではないか。あらゆる攻撃を無力化することが出来る最強の身体を持つ魔族{ワンクネス}と名付けてやろう」

「ワンクネス...最高の名だ」

「そんな口聞いてる場合か!喰らえ!!」


 ゴルドがワンクネスに剣を放つだが奴は躱す素振りを見せていない。そいえばさっきサピダムが変なことを言っていたじゃないか。『あらゆる攻撃を無力化する最強の身体を持つ』と。刃で斬られているはずのワンクネスの身体にはなんの傷もついていなかった。


「効かないだと!?」

「ウォールの力が私の物になったのか。元々の感覚もあるということは貴様らの中にもう敵はいないな」


 戦場の極星ことローガへの対抗策として挙げられるのは近接による攻撃。ウォールには攻撃術と呼ばれる類の魔力を使った攻撃だ。だが目の前の二人の性質が混ざったワンクネスにはどちらも効かない。つまり自分達には勝ち目が完全になくなってしまった。


「ゴルドお前は守ることに集中しろ」

「ベルお前まさか?!」

「こいつは俺が引き受ける、絶対に嬢ちゃん達を守ってくれ」

「それなら俺もてつだ...」


 力をさらに解放する。これから先はまだ自分自身も試したことはない味方に被害なくあいつを抑えられるかは分からない。


「頼む、守ってくれゴルド」

「・・・分かった、その代わりこの戦いが終わって落ち着きを取り戻したら互いに本気で戦おうや」


 ゴルドらしいな、それぐらいならお安いものさ。しかしこれは不味いことになった流石に自身の体だけでは耐えきれないだろう。心の中で念じて拳と脚部分に{英具}を呼び寄せる。

 英具とは所有者の魔力に呼応して体現する破壊不可能の武器や防具のことである。今俺が着けているのは元々は師匠の英具だった{オールブレイカー}だ。装着者に筋力上昇の効果を与え強靭な肉体にする。と聞いていたがこれは確かにすごい力だこれなら奴にも対抗出来そうだ。


「ほぉこの私に挑むか、貴様の攻撃は私には効かないぞ?」

「分かんないぞ?何か企んでるかもしれないぜ。あんたさっき言ってたろ『いついかなる時も警戒を怠るな』ってさ」

「ふんほざけ、私と同じ魔族でない限りまずダメージを与えられんわ!!」


 ふーん同じ魔族ね、時間を稼げばどうにでもなりそうだな。俺は今とある人が来るまで待っているだけだ。いやまぁカッコつけたこと思ってるが仲間というか坊ちゃんなんだがな。



********************************************************



 砂原を駆けて行く道中には亡骸を多数見かけていた。急がなければ裏切り者のローガによって、いやそんなことはないか。自分よりも数段強いベルゴフさんとゴルドレスさんがウェルンとネモリアさんを守っているはずだ。視界の中で騎士団らしき人達の死体も流れてきていた。騎士団も助けに来てくれていたのか!ウェルン頼む無事でいてくれ!


「ん?あそこにいるのは...ゴルドレスさーん!!」

「・・・!?ソール坊か...びっくりさせないでくれ」

「今どういう状況ですか?」

「俺達は今ワンクネスという魔族に対して戦うのは無理と判断して撤退しているところだ」

「ウェルン達は!?」

「・・・俺らが撤退するための時間を稼ぐためにワンクネスと戦闘中だ」

「!?」

「いや最初はベルだけだったんだが、お前さんが来るのを信じるって言って皆戻っていったんだ」

「どうして止めなかったんですか!?」

「止められなかったんだよ、『守られてばっかじゃいや!』って言われちまってよ実際逃げ切れそうになかったから止めなかったんだよ」


そうだ、ウェルンはそういう性格だった元々正義感が強いんだった。村にいる時も危ないから来るな、と言っても聞く耳持たずって感じでついて来てたな。なら守りに行くんじゃなくてこれは加勢しに行くだな。


「分かりましたそれじゃあ自分も行ってきますね」

「気をつけろよ、今の所奴にはもう勝ち目がないかもしれない。だが勇者の力を持ったお前さんならどうにかしてくれるだろう?」

「そのつもりです絶対に倒してきます」


 ローガは転化してワンクネスという魔族になったようだ。ゴルドレスさんと別れまた砂原を駆けていく。まだ勇者の力は残っているらしくウェルン達の魔力を確認出来ている。二つもとても強い魔力を感じるが片方がワンクネスでもう片方はベルゴフさんだろう。撤退しなければと判断せざるを得ない程の強さのようだ。

 だが相手がどんなに強い魔能を持っていても一瞬だけ無効化出来るはずだ。火山の時にサピダムに対して一度だけ使ったあの術を使えば、段々と何か金属っぽいものがぶつかり合う音が聞こえてきた。

 ベルゴフさんとロー、いやワンクネスが戦っている。その後ろでは杖で身体を支えながら立っているウェルン、援護射撃と言わんばかりに空中から矢を放つネモリアさんがいた。ワンクネスの周りから大量の術弾が発射されウェルンに対して降り注ごうとしていた。


「!?間に合ってくれ!」


 脚に力を込め大きく跳んでウェルンの前に飛び出し、術弾が当たる直前に魔術による壁を展開する。


「大丈夫かウェルン?」

「・・・もういつも遅いんだからソー、るは...?」

「お前誰だ、いや坊ちゃんか?」


 ウェルンが不思議な顔をしていた、どういうことだ。いや待て、というか今自然な動きで基本造形ランク3のウォールを展開していなかったか?ようやくここで自分の身体に起きた変化に気づいた。


「なんだこれ・・・」


 背中から生える黒翼を手で掴み抜こうとする。痛みを感じ幻術にかかっているわけではないことに気づいた。いったいどうしたんだろうか自分は、これではまるで魔族ではないか。

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