#49 慢心
「お前ら!誰か無事な奴は返事をしろ!」
「仕留め損なうわけがないだろう。なかなか練度が高かったが私には叶わんさ」
「なら俺が相手してやろうか。戦場の極星ことビース・ローガ様?」
「べ、ベルゴフさんですか?」
「お前ベルだよな?」
「ほぉ、貴様は確かマイオアの拳術士だったな?先程までと全く別人みたいに見えるぞ」
皆が驚くのも無理はない。何故ならば一時的に封印を解き放ち拳神流拳術{奥義・纏神}を使っている。その為身体が二回りほど巨大化して全身を{撃鉄}で強化しているからだ。この力は緊急の時と坊ちゃんが成長したあと、魔王軍と戦う時使えと師匠から力を継承する時に言われたものだ。
「身体の色が違うけどまるで拳神様みたい」
「そうか、嬢ちゃん俺が師匠みたいか」
最高の褒め言葉だ、師匠とは違って俺は黄金の魔人ではなく俺は白金の魔神となれた。ただ今の俺は目の前にいる歴戦の英雄クラスにも負ける気はしない。
「もらった!」
先程と同じくローガによる背後からの一撃を受けるが、甲高い音と共に短剣の方が折れる。闘気で本気で身体を固めた師匠も並大抵の武器では歯が立たなかった。その力を継承した俺も例外ではないらしい。
「お前ほんとに人か?世界で一番固い鉱石で作った短剣だぞ?」
「魔族になった野郎にそんなこと言われるなんてな。鉱石に負けるような鍛え方してたら師匠に怒られちまうよ」
今身体に身体強化術である{撃鉄}を施しているため魔力を通した刃でない限りはそもそも傷がつけられない。ローガには武器に魔力を込めることが出来ず俺の身体に傷をつけられないのでは?今度は...目の前に現れ踵落としをして来たのをしっかりと腕を十字に固めて防いだ。
「やっぱそうくるよな」
「流石は拳術士といったところか。私の速さについてきて尚且つ瞬間的に防ぐとはな」
「まぁあんたは速いだけで力はないからな」
「ほぉ若造が、ならこれはどうだ!」
ローガは普通に肉弾戦を挑んできた。なかなかに速い...のか?さっきの踵落としもそうだがゆっくりに見える、もしかして強くなりすぎたか。次の攻撃に拳を合わせてみるか、右脚の回し蹴りに合わせてローガの身体に一撃を入れる。
「うっ、グワァァァァ!!」
「えっ?」
軽い力で仰け反らそうとしただけなんだが。そんなに力入れてないぞ、軽くふっ飛ばしちまったな。後ろを見ると嬢ちゃんらは女性陣はもちろん、ゴルドも目を見開いて信じられないと言っているような表情をしていた。
「ぜ、全然世界が違いますね...」
「速すぎて一体何が...」
「お前どこにそんな力隠してたんだよベル!」
「いやぁ奥の手って奴だな・・・」
これはもしかしなくても師匠から受け継いだ力、というよりかはそのまんま受け取ってないか?師匠は継承って言ってたがこれは譲渡に近いな。
「な、なかなかやるな若造これほど強い相手は...」
「いやそういうのいいから。早くさ本気とか奥の手出してくれない、確かに速さにおいては俺よか上だろうけど、他も強くなきゃ俺のことも倒せないし本気の姉御達には絶対に勝てないぞ。」
「きさまぁ!!私をぐろ、」
隙だらけだったので奴の土手っ腹に先程のカウンターと同じ力をぶちこんでやった。ローガは口から血を思い切り吐き出し腹を抱えて悶絶している。内臓以外にも衝撃で肋の骨も数本折れてとてつもない痛みだろう。
目の前のローガの姿を見て、一度姉御の怒りを買って思い切り鉈で切りつけられて生死の境を彷徨ったことを思い出した。あの時はまだ俺の{撃鉄}練度が甘かったのに調子に乗っていた時だったな。その時に『俺より強い人がこの世界には五万といる』と心に刻み込まれたんだっけか。
「ローガあんたさ、力を手にしてまさか自惚れてないよな?」
「わ、私は、強いんだ...こんな若造に負けるわけが・・・」
だめだ、こいつは相手にならないな。完全に力に溺れてやがる。どれだけ熟達した人も狂わせるのが魔の力なのか。実際さっきの格闘にはどこか慢心が見られるような隙だらけな攻撃だった。さっきまで実力を出しきれない相手としか戦っていたのだろう。そこで変に自信をつけてしまったのだろう。
「フォッフォッフォッ!困っているようじゃな魔族の新人よ」
「な!?き、貴様は!!」
何者かの声が鳴り響く、いやこの声の主を俺は知っているぞ。火山で遭遇し、そしてその火山を魔物化させて師匠がなんとか食い止めた。国が一つ滅ぶ程の強さの魔物を生み出した魔術師の声だ。
「サピダム!!」
「うん?貴様は、あの時フュペーガにに叶わなかった拳術士か?なるほど、これは勝てるわけがないな。拳神マイオア・フィーザーと同等かそれ以上の力を感じるではないか」
「な、そんなに強いのか・・・」
どうする、三魔将軍でしかもサピダムが相手となると流石に無傷ではすまないぞ。ここは一旦時間稼ぎをしよう。坊ちゃんの気もやっと感じられるようになってきたしあとは回復するのを待つだけだ。
「サピダム何しに来やがった!」
「いいや何、懐かしい波動を感じたんでなまさか転化するやつがこの時代にもいるとはな。しかも{極星のローガ}と呼ばれた獣の英雄だったとはな」
「お、おいた、助けろ貴様、私は、私は、強くならなければならないのだぁぁぁ!!」
「ほぉまだ力が欲しいのか、ならいいものをくれてやろう」
ローガが宙に浮いていく一体何をしようと言うのか。術式が組み上げられていくそこに別の場所からもう一つ何かが浮いてきた。あれはウォールの死体か?
「貴様何をしようとしている!やめろ私の身体にかんしょ、ウゴゴゴゴゴゴゴゴ!!」
「いいや、何貴様の足りない部分を補うために全く違う別物になってもらうだけじゃよ」
「そうはさせるか!」
ゴルドが飛び出しサピダムに大剣を振るうが障壁に防がれ、衝撃が返ってきたのか弾き飛ばされていた。
「ゴルド、もう大丈夫か?」
「ああ十分休んだからな、あいつが三魔将軍だろうこっからは俺も手を貸すぞ」
術式の中ではもう既に原型を保てていない肉の塊が二つ存在していた。そしてその二つが混ぜ合わさり、人型の何かを形作っていく。腕と脚からは鉤爪が伸び全体的に邪悪な印象を受ける姿となっていた。




