#47 魔の力
「オラァ!!」
「どうしたぁ!そんなもんか、ウォール!!」
「グラァ!?グァァァァァ!!」
「私とウェルンさんの攻撃術でしかダメージを与えてないはずなのに、まるで打撃が効いてるみたいに見えますね...」
「でもこの調子ならフィオルン様の武器術を放つ時間まで時間を稼げそうだね!」
嬢ちゃんそうでもなさそうだぞ。今俺と戦っているゴルドも気付いているな。姉御がいるあたりでさっきから気が乱れてるし、流石に姉御が武器術が苦手だと言ってもここまでは時間はかからねぇ。
口に出せないのは士気が下がってこの場を押し切られて俺らが全滅する可能性があるからだ。もしそうなったら俺らを信じて、場を任せてくれた坊ちゃんに申し訳がたたない。俺は何がなんでもこのパーティを守らなきゃならねぇんだ。
「ベル、まだ行けるか!?」
「へっ、無理っていっても休ませてくんねぇだろ!?」
「もちろんその通りだよぉ!!」
ウォールの攻撃は正直に言うならとてつもなくきつい。俺らの攻撃が一切効かないからって無茶な攻撃をしてきやがる。ましてやそれは人の身ではとても出来ない、えげつない身体の動きでやってくるもんだから受けるしかねぇ。先程までの理性が残って攻撃していた時と違う、これはまるで魔獣を相手にしているようだ。
もし俺が師匠から力を継承していない状態だったらサンドバックにされていただろう。どうやって俺が師匠の力を継承したのかについては、あいつらにもいずれは説明しないとな。まぁとりあえず耐えることを考えるか。
「グァァァァ...あああ?」
「なっテメェ狂化してたんじゃ?」
「ん、ああしてはいたけどよ効果切れよ。」
「で、なんで冷静になったんだ?その力じゃどうしようもないだろう?」
「正直別に解除しようとして解除したわけじゃねぇよ。急に力が無くなったんだよおかげで強制終了させられたんだよ」
「魔の力が消滅?、っ!?まさか!!」
後方を振り返ると空にそびえ立つ光の柱を目撃した。それが破魔偶像によって起こされているものだと気付いた。
「あれは俺らが手を加えた破魔偶像なんだよ。魔を消滅させるのではなく吸収して誰かにその力を収束させるんだよ」
そういうことか!こいつ自身、あの偶像を起動させるための囮だったのか。転化する為に必要な魔力を集めさせるのに誰かが暗躍しているのか。そしてその誰かはその魔力を使って転化しようとしている。だから坊ちゃんは後方に急いだのか。いや、待て坊ちゃんて確か、{魔}の適性を持っていたんじゃ...
********************************************************
「これで儂は、儂は...」
「守備はどうだ大臣」
「おおローガ殿ご覧の通りでございます。これで我々は魔族に...」
目の前にいた老いぼれの首を切り落とす。後ろで魔力を使い果たした術師達と同じところに送ってやった。
「ご苦労、せいぜい自分のしたことをあの世で嘆くのだな」
獣神派の連中は使いやすかった。何せ他種族と魔族を嫌悪しているおかげでこの計画を進めやすかった。ウォールに会ったのは儂、いや私が戦場から離れ平和な暮らしを謳歌していた頃だ。私は教育係兼補佐役として女王の補佐をし共に国の面倒を見ていた。だが転機が訪れた。
その日は世界大戦で前アルドリア王が魔王軍との戦いで命を落とした日だった。私はこの日が来る度に無くなった脚がいつも以上に痛みを覚える。この年のこの日だけは特別痛みが激しかった。王へ花を手向けるために海岸にある王の墓へ一人で来ていた。
そこで私は墓の前で待つウォールに出会った。私は死を覚悟で戦おうとしていたが奴は私には興味がないように見えてしまった。相手からしてみれば当然だ。自慢であった速度を失くし衰えた傷痍軍人、どこにでもいるしがない老人と一緒なのだから。
私は敵であるはずのウォールに一つ質問をした『私のことを覚えているか』と、そして奴はこう答えた『覚えてるさお前ほど忠誠心と慈愛の塊はいなかったよ、もし魔族だったら勇者達すらも倒せる力を持っている魔の適性の持ち主だろうな』と。
その言葉に私は惹かれた。確かに今のようにかつて仕えた王の形見であるフィオルンを助けた。確かに女王の補佐もいいが実力絶対主義の儂がこの国で王として君臨する姿を想像した。正直旅から帰ってきた彼女を見て不覚にも惚れてしまっていたのだ。前アルドリア王の一人娘で王家唯一の生き残り。その彼女のたわわに実った身体を味わい尽くして支配したい。この思いは理性で押さえ込まれたがそれを叶えられる可能性が出て来たのだ。
その瞬間人であることを捨て魔族に転化する決意をした。そこから私はこの日の為に動いてきたビース族以外への不安を煽り獣神派を作り、障害になりそうな権力を軒並み潰した。落ち着いたかつての同志達は皆陰で屠ってきた。私はこの目の前の偶像から溢れ出る魔の力に身を投げた。
「こ、これは、これはこれは!!ゴホッゴホッゴホッ!!ガァァァァァァァ、ウグワァァァァァ!!」
これは脚を失った時と同じ痛みだ。ある程度の痛みに耐えられるがまるで全身を何かに掻き回されているような感覚だ。一番痛むのは無くなった脚があったはずの部分だ。痛みを段々と感じなくなってきて水に浮かんでいる感覚に近くなってきた。いや、もうこれは心地いいぞ...身体の底から溢れる自身の力に対して快感を覚えてきた。これほど高揚したのはいつぶりだろうか。
********************************************************
先程まで力に溢れていたのにどうしてだか身体が重い。というよりかは急に身体から力が抜けて動けなくなって砂の上に倒れていた。早く動かなければみんなが危ないんだ動け、動け!砂の上でもがく自分の前に黒い羽根が落ちてきた。この羽根はどこかで見たような...
「{ギーブ}」
目の前で唱えたその術を背中から受ける。何かが流れ込んで身体全身を巡り力が入るようになってきた。意識がはっきりとしてきてようやく自分の手当てをしている人が誰だか気づいた。
「あ、あなたは自分達をキマイラから助けてくれた人ですよね」
「そうよ、久しぶりねまさか{破魔吸蔵}があるとは思わなかったわ。私がいなかったらあなたは死んでいたわよ」
破魔吸蔵?破魔偶像とは何か違うのか。
「あれわね誰かを転化させるための魔道具なのよ。そのためにこの戦場のありあらゆる魔を吸い尽くしていたってわけ」
そうか、だから急に身体から力が抜けたのか。勇者のオーラだけが残り自然と力が尽きたというわけか。
「このままじゃここであなたと仲間は死んでしまうわ、だからこれからあなたにかけられた封印を一段階解くわよ?」
「どういうことですか!?もっと詳しい説明を...」
「時間がないの、ただ一つだけ言っておくわこの力は強大であると同時に危険な力。絶対に強い意志を持って、自分は誰かのために戦っているんだと」
頭に手を当てられ何かの術式が展開され鍵が開くような音が聞こえた。一瞬心臓の音が大きく聞こえて自分の奥底から何かが伝わってくる感覚がきた。
「あとは自分の意思で解放しなさい。その力をコントロール出来るようになりなさい」
「ま、待ってください!あ、あなたは何者なんですか!?」
その質問に答えることなく彼女は大空へ飛び立ちどこかへ行ってしまった。自分を二度も救ってくれたあの人は一体誰なのだかは気にはなるが、ひとまずウェルン達の元に戻ろう手遅れになる前に。




