#46 極星と勇者
間に合って良かった、後方に抜けようとした時ペンダントが光り輝き身体に力が溢れた。先程出せなかった{勇者のオーラ}を引き出すことに成功した。そして火山で溶岩の滝の幻術を破った時みたいに目を凝らしたら、少し遠めの所で強い魔力と弱っていく魔力を確認した。もしやと思い駆けつけたらフィオルン様とローガ様がいたのだ。
「若いの、どうしてここにきた?」
「最初はちょっとした違和感を感じただけなんですよ。それをよくよく考えてみたらおかしいと気づいたんですよ」
「ほう、何がおかしかった?」
「ウェルン達を庇ってもらった時。あなたのとこにも飛んでいったはずの攻撃術の跡があの周りだけ不自然なぐらい避けられていたんですよ。確かに全ての術を打ち消した可能性もあるかもしれない。でも片脚を失っている貴方がそれを全て打ち消せるはずがないんです」
「ほっほっほ!そうかそうか、確かに儂は片脚を失っている傷痍軍人。それは無理だと仮定して主はここまで来たと、なるほど」
そう言い終わったあと、ローガ様は目の前から姿を消し自分は咄嗟に後ろへ跳んで盾を構える。懐に来たローガ様が短剣を振り下ろしていたのを盾で防いだ。勇者の力を出せていなかったら反応できずに防げていないだろう。また正面に現れるローガ様、自分の目にはドス黒い魔力に覆われているように見えた。
「よく儂が弱くなったと思ったな。魔の力のおかげでむしろ昔より速く動けるわこの若造が」
さっきの仮説は違う、この人は2人を守ってる時飛んできた攻撃術を全て防いだんだ、自身の力で。今の{勇者のオーラ}を纏った自分が元の実力と比べてどれぐらい強いのかは分からない。歴戦の英雄相手に自分は一体どこまで戦えるのだろうか。
「まぁ良い時間は稼いだ。そろそろあれが始まる頃だ」
あれ、一体なんのことを指しているんだ?とりあえずこの場を切り抜けなければ。フィオルン様もそろそろまずいところまで魔力を吸われている様なので助けないと。ローガに斬りかかるがまたも目の前から消えてしまう。右後方に気配を感じて盾を構えるとまたも短剣を弾く。
先程から全て死角から急所を攻撃してくるな。逆にそこを突ければいいのではないか?今度は魔力を込めて斬る。またも消え背後に気配を感じるが今回は魔力を込めた剣つまり竜剣術だ。これは一番最初に使えるようになった自分の中で最も練度の高い武器術だ!短剣を弾き次々に斬撃を浴びせ最後の竜を纏わせる。
「{撃竜牙!!}」
「ぐぉぉ...なかなかやるな若いの。一体どこにそんな力を隠していた?」
「別に隠そうとしてませんよ。この力はちょっと恥ずかしがり屋みたいで言うことを聞いてくれないんですよ」
「なるほど、流石仮にも勇者の名を冠するものというわけか」
今までで一番の剣の手応えと{勇者のオーラ}で強化された魔力を込めた{撃竜牙}を喰らわせられた。ローガといえど傷を負っているはずなのにまたも再び目の前から姿を消した。魔力を感知しそちらに構えを取るが元々正面だった方から短剣で斬りつけられ蹴飛ばされた。
「だがまだまだだな、一度効いたからといって敵が同じ攻撃をしてくるわけがないだろう。まぁ儂も貴様のことは侮ってはいたがな」
わざと隙を見せたのか、やはり一筋縄ではいきそうにないな。ローガ・ビース...二つの名を持つものということは種族を代表する人。しかもこの人は歴戦の英雄として王家に認められた正真正銘の猛者だ。なら尚更分からない何故そんな人が。
「どうして魔王軍に寝返ったのですか?魔の力がなくてもあなたなら王にかなったんじゃないんですか!」
剣を振るうが空を斬り岩場の上に座っていた。何故か笑った顔をしている。その手に握られた杖を粉々に砕いたことにより心の底から笑っていない作り笑顔だと分かった。
「簡単なことよ若いのには分からなんだ。無くなったはずの足が訴えるんじゃよ!この世界で一番自己犠牲したのは儂じゃとな!!」
「どういうことですか?」
「儂は元々この国の王になるはずじゃった。だがそれも全てあの戦争で奪われてしまった。脚さえあれば儂はこの大陸一の戦士となり王となれるはずじゃった。だがそれを一時の感情で捨て、この痛みを背負うこととなった!元々儂についてきた連中も全員女王の元へ行き、儂の失った脚を笑うのは揃って若いやつら。ましてや戦争で共に戦った戦友にすら、かつては{戦場の極星}だったと馬鹿にされる!貴様らのような歯の抜けた獣ではない、儂はまだ朽ちてはいない、今も尚{戦場の極星}は健在じゃとな!!」
ローガが座っていた岩山が砕け鎖で繋がったフィオルン様ごと下敷きにする。
「これで王家の血筋は途絶えた...」
宙を浮いていたローガは姿を消した。フィオルン様の命が危ない!急いで砕けかれた山をかき分けてフィオルン様を探す。何か岩とは違う感触に触れフィオルン様を確認する。まだ身体は冷たくなっていない。まだ助かる、すぐに剣に魔力を込めて竜を体現させ{竜旋}を放ち、土砂をさらに粉々にしていくと血だらけのフィオルン様が倒れていた
「フィオルン様、大丈夫ですか!?」
「...え...え」
「待っててください今魔力を送ります!!」
フィオルン様にいつも剣に対してやってるように魔力を込めていく。だんだんと顔色が良くなってきたので止血して応急処置をする。
「あ、暖かい魔力ね、やっぱり、ゆ、勇者の魔力は、ゴホッゴホッ!」
「まだ無理をしないでください!」
「も、もう大丈夫。じ、ロ、ローガを追って...」
「だめだ!!このまま聖術テントま、っで!!な、なんだ?」
背後から強く小突かれた。そこにはフィオルン様が先程乗っていた聖獣がいた。フィオルン様の周りを回り始めその中にいるフィオルン様の周りが光り始めた。これは回復術か?初めてみる聖獣の回復術を見ているとまた小突かれた。顔であっちいけみたいなことをされた。
「先に行ってろってことか?」
「ワウ!!」
言葉が通じたかのように返事をする。またフィオルン様の周りを回り始めた、ここは聖獣に任せたほうが良さそうだ。自分はローガの気配を追って来た道を戻っていった。




