#45 暗躍せし者
ベルゴフさんとゴルドレスさんが来てから攻撃はさらに激しくなった。先程までやつの攻撃を1人で捌いていたが3人で攻撃を捌くようになったため大分余裕が出来てきた。自分もウォールの攻撃を盾で弾き返しながら一つ考え事をしていた。
それは先程ローガ様にウェルンとネモリアさんを守ってもらっていた時に覚えた違和感についてだ。本当に何に違和感を持ったんだ、あの時の状況を思い出すが違和感が湧いたことに対して謎は深まるばかりだった。
「それにしても激しいもんだな昔もこんなんだったな」
「ゴルドレスさん前ってもしかして...」
「うん?ああ俺がまだ若くて剣を使ってなかった頃の話だな。やつは俺らの戦場で暴虐の限りを尽くしたんだよ、それこそローガ様がいなかったらどうしようもなかったんだよ」
「んで最終的にローガ様が敗れて、そこに師匠達が来てこの砂漠の戦争を集結させたんだよな」
ゴルドレスさんの言葉とベルゴフさんの言葉で違和感の正体に気づいた。そうだ、やっぱりおかしかった、だけどこれを言うには確たる証拠がないといけないぞ...
「ちっ!なんだよお前ら!ちょこまかちょこまかと!効きもしねぇ攻撃術で攻撃してきやがってよ!!」
「いいだろ付き合えよ!こっちだってよ{物理無効}さえなければ俺の拳がお前を貫いてんだよ!!」
「しょうがねぇこれだけはやりたくなかったが、ウォォォォォォア!!」
「気ぃつけろよソール坊、ありゃ自我を捨てて破壊に身を委ねる魔族特有の技{狂化}だ。もう奴はただの知性の無い怪物に成り下がりやがった。その分、くっ、流石に重いな!」
ここに来てさらに強くなるのか!?くっ...確かに今までで一番重くて速いぞ。だが三人なら捌ききれない量ではない。剣に魔力を濃く込め応戦する。まだか、まだなのかフィオルン様流石に時間がかかりすぎな気がする。不慣れな人でもここまでかかることはないはずだ何かあったんじゃないか。
「ベルゴフさん、ゴルドレスさん少しここを任せてもいいですか?」
「どした?なんか気になることでもあったか?」
「まぁ俺ら2人でもこの感じならどうにかなると思うぞ行くなら行ってきなソール坊!」
ゴルドレスさんが岩山を砕く、その砕いた巨岩をベルゴフさんがキャッチして自分の前に立って壁を作り退路を確保してくれた。即座にここまで連携が取れるのは2人の技量と経験があってのものだ。攻撃術が降り注ぐがネモリアさんの弓術とウェルンの攻撃術で相殺された。
「ここは私達がやるからソール早く行って!」
「ソールさんフィオルン様のことは任せました!」
「・・・みんなありがとう、すぐに戻る!」
脚に魔力を込め砂の上を全速力で駆けフィオルン様の元へ急ぐのだった
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思えばそうだった。昔から私は変わっていない、大事な時に何かを忘れる最悪なビースだ。初めて戦場に立った時だってそうだ私は未来が見えていた。負けて魔王軍の捕虜となってしまう、私の姿を。
それでも諦めることが出来なかった。両親共に病で亡くなり国を治める者として負けてはならないと気負ってしまっていたからだ。誰にも予知を伝えずに皆を戦場に駆り立てた、自分がやられないように立ち回ったら予知は外れた。自分でも驚いた、その日だけは何かが違ったのだろう。
だが自分が助かった代わりに自分以外のものに被害が及んでしまった。古くからの頼れるじぃやも片脚を失ってしまった。ゴレリアス達が来てくれてなければ私1人は助かっても戦争自体には負けてしまうところだったのだ。予知だってその気になれば変えられるのに伝えなかった。もう何回経験もしたことなのにどうしてだろう。
実はとても重要な予知を見ていたのだが誰にも伝えていなかった。私が見たのは魔族と魔族が衝突する姿だった。どうして戦っているのか分からないが片方の顔にはじぃやの若い頃に似ていたのだった。疑心暗鬼になるものの、じぃや本人には聞けなかった。今この国の裏で暗躍しているスパイなのかと。
せめて戦場には立たせるべきではなかったのかもしれない。それでも私は信じたかったのだ父に仕え、長年アルドリアを支えてくれた国の英雄ローガ・ビースを。
「女王よ簡単に裏を取られてはいけませんぞ。ましてやここは戦場ですぞ味方も疑わなければひどい目に遭いますぞ」
「ど、どうして、じぃや!なんで...」
「どうして、なんでと?儂はここまで生きてきて気づいてしまったのですよ魔の素晴らしさに」
その言葉を聞いて予知で出てきた片方の魔族がじぃやという確信をここで得てしまった。せめてゴルドに話しておけばこんなことにはならなかったかもしれない。私もゴレリアスとのあの旅で成長したと思い込み1人で運命を変えられると考えていた。裏を取られ武器を取り上げられ挙げ句の果てに吸収の鎖で壁に縛り付けられてしまっている。
「まさか転化するつもりなの!?」
「半分正解ですな、確かに魔族にはなりますがサピダムと同じ手段で転化はしませんぞ」
「な、ならどうや、っくぅ!!」
「流石はグランドビーストと呼ばれることはありますな。常人ならもう意識が飛んでいてもおかしくはないのですがね」
「こ、これぐらいあの旅にく、比べれば、ぁぁ...」
私は絶対に屈せない。もうあの時みたいにゴレリアス達が助けに来てくれないのだから。でも何が出来るというの。持ってきた武器は全て奪われて魔力も奪われて身体の自由も奪われて、いったい何が出来るの。
「助けを求めても良いのですよ女王、最もこんな場所にすぐに駆け付けられないでしょうがね」
この場所も敵にバレないとじぃやと話し合って決めた狙撃ポイント。なのでこの場所は私とじぃやしか知るものはいないのだ。ここに来れる人はいないかも知れないゴレリアスの様に{勇者のオーラ}を持っているなら{サーチ}でこの場所がわかるかも知れない。けどあの子にはゴレリアスと同じ力を感じられなかった。ゴレリアスからはとてつもないほど澄んだ魔力が溢れていた。でもあの子からは魔族と同じ、いやまるでヒュードに近い希少種族デビアに似た感じだった。もしかしてあの子はあの人の...
「何事も諦めが肝心ですぞ女王。抵抗はもうやめて魔王様へ忠誠を誓いましょう。そうすれば我々ビース族は安泰ですぞ!!」
「あ、諦めだけは、わ、悪いのよいつだって、こ、こんな時を許さない人がいるのよ」
「ほうまさか、あの若いヒュードとは言いませんね?」
「ゆ、勇者の力を舐めてたら、い、痛い目を見るわよ」
「もういいです、儂が転化しこの国を納めた暁には専属奴隷として飼って可愛がったものを、さようなら女王貴方は選択を間違えた」
ナイフが私に目掛けて飛んでくる、だが正直もう限界だった身体に力が...目を閉じて死を受け入れる。ミュリル、ノレージ、フィーザー、ウヌべクス、アンクル、ゴルドレス、ごめんね私はもうダメみたい。私をこの国から連れ出して冒険と恋を教えてくれたゴレリアス、出来るなら最後にあなたの顔が見たかった...
ガキィィィン!!
何かが弾かれる音がした。まさかここを突き止めて誰かが来たの?閉じた目をゆっくりと開いていくそこには見慣れた澄んだ魔力の持ち主がいた。
「もう大丈夫です、あとは任せてください」
目の前で剣を構えるその姿に私はかつて共に旅をした人の姿が重なって見えた。魔族に立ち向かう勇者ゴレリアスの姿が。




