#44 2つの無効
ウォールは手を上に掲げまた何かを打ち出した。先程とは違うのは明らかに魔術による攻撃だということ。空に撃ち出されたいくつもの玉はこちらへ降り注いできていた。それを自分は盾を使いながら躱していた。一度ウェルン達が心配になって後ろを見たが特に傷を負ってはいなかった。ローガ様によって守られたのだろう。
「こっちを見る余裕があるのか若いの?」
「なさそうですね、ウェルン達を頼みます!」
「私も出来るだけ支援するよ!」
元々の作戦としては自分とベルゴフさんで敵の攻撃を防ぎながら、後方からウェルンとネモリアさんが攻撃術でウォールにダメージを与えるという作戦だ。だが今は自分一人でウォールの相手をして後方にいる二人はローガ様によって守られている。万全であるこの状況に何故か違和感を覚えてしまったが相手に集中する。
「考え事をしてる暇があるのかぁ!!」
「っ!ぅぅ!!」
急降下して蹴りを浴びせてきたのに対して辛うじて盾で弾くことに成功する。攻撃せずに防御だけの戦闘はやはりやりづらいが攻撃するわけにはいかない。
先に説明された通りなら奴には普通の物理攻撃が効かない、なので基本的には術による攻撃でしかダメージを与えられない。例外として貫通属性の物理攻撃ならダメージが通るらしい。もし自分も魔術が扱えていたなら今感じているやりづらさはなかっただろう。
『皆聞こえる?』
「は、はい聞こえます!」
フィオルン様の声は聞こえるが辺りに姿は見えなかったのですぐに通信術だと理解した。通信術はとても高度な術でただ話すだけならまだ容易だが、特定の人にだけ話すのは難しい。その間にいる別の人にも伝えたい内容が聞こえてしまう為個人だけに伝えるようになる為には相当の時間を要するという。
『今貫通属性の武器術を練ってるけどまだまだかかるわ。打てる様になったら教えるわね、ソール抑えられそう?』
「今のところは行けそうですね、これ以上攻撃が激しくなったら分かりません...」
『そう、でもまだ裏のベルとゴルドは手が空かないからあなたに頼むしかないわ』
少し離れた場所ではとんでもない数の魔獣と魔族の対処が行われいてこちらより忙しい。何故ならこの戦場のほとんどの勢力をたった二人で抑えているのだから。
ゴルドレスさんはこの国の騎士団の団長というのもあり実力があるのは分かっていた。ベルゴフさんも元々自分よりかは強かったがここまで実力差はなかったはずだ。一度サルドリアで別れてからここの大陸で再開するまでに絶対に何かあったのだろう。
それにしても二人で国を落としかねない量の敵軍を抑えている、あの二人はということは先代の勇者一行にも近い実力を持っているんじゃないか。そしてここで自分は考え事をしながら防御していることに気づいた。今相手にしているのはギルドランク青相当の相手のはずだ自分は青から数えると三つ下のランクのはずだ。
「ちっ!これじゃ壊せねぇじゃねぇか」
「そこの若いの気を抜くなよ、まだまだウォールは力を隠しておるからな」
「は、はい分かりました!!」
「はっ!バレてるなら仕方ねぇもっと本気でぶっ壊してやらぁ!!」
辺りの空気が変わった感じがする、ウォールが力を解放したようだ。消えた、後ろか!先程と全然違う攻撃によって攻撃が自身の脇腹を少し掠った。集中しろ気を抜いていたら確実にやられるぞ。
「どうしたどうした、貴様は勇者とかいう忌まわしき存在なのだろう!お得意の{ディスキル}を当てて俺に少しでも傷をつけてみろぉぉぉ!」
「くっ!」
出そうとしていないわけじゃない。先程から力を解放しようとしているのだが何故か個能{勇者のオーラ}は答えてくれない。なんで出せないんだ!?火山でサピダムと戦闘した時は出せたはずだ。
何かきっかけがないといけないのか?激しい攻撃の連続で盾を着けている左腕が痺れてきた。まずいぞ、自分の方にそろそろ限界が...それを見たのか奴は胸元めがけて鋭く爪を振るってきた。爪攻撃をなんとか剣で防いだ、だが腕は頭の上に弾かれて完全に無防備な状態になってしまった。
「壊れなぁぁぁ!!」
「!!まずい!!」
これは流石に防げないぞ、この攻撃は受けるしか...
「ソール!!」
「ソールさん!!」
「んなことさせるかぉぉ!!」
ウォールが攻撃をやめて空へ飛び立ち、奴がいたその場所に大剣が降りおろされていた。
「大丈夫かソール坊」
「ゴルドさん!?それにベルゴフさんまで!?」
「はは坊ちゃんよく1人で頑張ったなここから先は3人で行くぞ!!」
「裏の方はいいんですか?」
ネモリアさんのその質問に我に帰る。そうだベルゴフさんとゴルドレスさんは裏の敵の軍勢を抑えていたはずだ。流石にこの短時間であの量を殲滅出来たとは思えない。
「嬢ちゃんいい質問だ。ちょうどいい奴らがきたから全部丸投げしてきてやったよ」
「やっと来おったかゴルドレス。さて儂はそろそろ帰ろうかの」
「ローガ様ありがとよ。今度あんたの大好きな砂煎餅たくさん持ってくわ」
前と同じく風切り音と共にローガ様は消えてしまった。杖をついていながらあの速度を出せるのかやはりローガ様の実力は先代勇者様と肩を並べていたに違いない。
裏を誰が相手しているのか気にはなるが一旦この状況をなんとかしよう。自分はウェルンの回復術によって回復したのでまだまだいける。ベルゴフさんとゴルドレスさんが来てくれたならもう大丈夫だ。
「しかしいざ考えてみると厄介な相手だな、ローガ様の対局に位置してるみてぇだな」
「ゴルドレスさんそれってどういうことですか?」
「うん?あぁソール坊は知らんのか、ローガ様の魔能は{術無効}だよ」
「えっ!?」
「まぁ相手が術を使う魔族と戦うことが少なかったしな。前世界大戦ではあまりローガ様の魔能は知られなかったけどよ、そもそもが強いから関係なかったんだよな」
そんな強い魔能いや個能を持っていたのかローガ様。それにしても{術無効}...もしサピダムの様に転化していたなら、三魔将軍ではなく四魔将軍と呼ばれ世界中から恐れられていたかもしれない。
「ちっ数が増えたか、だが同時に壊す楽しみが増えたなぁ!!」
背後から急降下の蹴りがきていた。その脚にベルゴフさんの拳が合わせられており、ぶつかりあった瞬間辺りが軽く揺れたような気がした。
「そんな軽い一撃に壊されるほどやわじゃねぇよ!!」
自分は弾くので精一杯だったウォールの蹴りをいとも簡単に相殺。いや奴が{物理無効}を持っていなければ逆にダメージを与えられるぐらいの威力はあったのだろう。頼もしいのはいいのだが同時に容易に対処出来ずに苦戦している自分に悔しさを覚えてしまった。




