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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
獣王邂逅

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43/246

#43 中身

「グオオォォォ!よくもこの身体を痛ぶりやがったな!!」

「振りが大きいだけじゃねぇか!しかもパワー不足ときたらお前がその巨竜種を扱いきれてないだけだろぉがよぉ!!」


 ベルゴフさんが飛んで腹に拳を叩きつけるとその巨体は砂埃をあげながら後ろに後ずさった。こいつ本当に強い奴なのか、今のところ大したことがないぞ。本体の方が強いのになんでわざわざ皮を被ってるんだ。


「かーこいつはめんどくさいな打撃は手応えねぇなこりゃ」

「あの厚い脂肪が衝撃を吸収してるみたいですね」

「じゃあ私達の出番ね、行くわよネモ、ソール」

「えっ、私もですか?」

「あなた、射手でしょう?私と一緒に行動したらやりやすいじゃない」

「そうですね、遅れをとらないように気をつけます!」

「硬いわねーまぁいいわ、ベルはウェルとソールを守ってあげて」

「あいよ姉御!坊ちゃん頼んだぞ!」

「はい、任せてください!」


 竜を切る術を持つ武器術それが竜剣術だ。巨竜種に対して今自分が使える竜剣の中では、まず{撃竜牙}、初撃で剣が弾かれてしまい勢いに乗れないから最後の竜を纏った一撃を放てない。だが{竜旋}ならダメージを与えられるだろう。

 だが連続しての攻撃ではそこまでの威力を期待できない。ならやることは一つだ、この前ゴルドレスさんと共に剣を掲げた時に浮かびかけた剣術を試すより他はない。


「オラァ!」


 巨竜種の攻撃を跳んで躱しながら先程より多めに剣に魔力を込める。今の巨竜種の攻撃のように威力が高くなるようにするためだ。今までの竜剣には無いものをイメージし始める。

 {撃竜牙}は蛇竜種の様に地を這い攻撃を躱す攻防一体のバランスの取れた使いやすい剣術、{竜旋}は翼竜種が空に勢いよく飛び立つ際、激しい竜巻の如く剣を振るい敵に囲まれたりした時に真価を発揮する剣術。そして今回イメージする為の元となる竜種は目の前にいる。


「くそぉチョコマカと!!」

「おおぉっと!!このまま抑えさせろよ!坊ちゃんなんかやるならやっちまえ!!」

「ぐぅぅぅぅ!!ならブレスを...はがっ!?」


 ブレスを吐こうとした口中に二本の矢が突き刺さっている。この場に弓使いは二人しかいない。


「あらごめんなさい、身体の中まで攻撃が効かないわけじゃないのね」

「き、貴様ぁ!!」

「ソールさん今です!」

「はぁぁぁぁぁ!!」


 巨竜種の破壊力抜群の先程の一撃の様に魔力を大きく込める。今までと違う魔力の込め方に少し目眩が起きるが気力を振り絞って耐える。


「竜剣!参の剣、{渾竜斬(スラッシュ)}!!」


 力任せに剣を水平に放ち確かな手応えで巨竜種を横方向に両断する。もう一度同じ様に魔力を込めてさらに新たな剣術を放つ。


「竜剣!肆の剣、{渾竜砕(クェイク)}!!」


 今度は剣を垂直に放ち更に縦方向に両断する。ただ正直言ってしまえば竜を切った感覚というよりかは普段魔獣を相手にした時と変わらぬ感覚だった。所詮は皮を借りているソウルプザース、中身が竜種じゃなければこうも簡単に斬れてしまう。

 ここまで切り刻んでしまえばウォールは身体を使おうとしないはずだ。巨竜種の皮が砂上へと落ち形が崩れていく。そしてその上で佇む翼を生やした何かがいる。


「あーあ折角のお気に入りの皮だったんだがな。やっぱ時間が経つと耐久性に難あるよな」

「やっと出てきたわねウォール!」


 その背格好は自分達ヒュードと同じぐらいだが明らかに違うところがある。それは肌の色が紫色というか気味が悪い色をしている。


「やっぱ新鮮な中身付きの皮が欲しいもんだな」

「フィオルン様!こいつがですか?」

「ゴルド!前線の方はもういいの?」

「はい、あらかた強いやつ片付けたんで自分だけでも助太刀に来ましたぜ」

「そう、ウォール!もうあなた達の侵略もこれまでよあとはあなたを倒すだけよ!」

「・・・はぁ仕方ない」


ウォールが上空に紫色の何かを打ち上げると辺りが黒い雲に覆われ冷たい風が吹いてきた


「今更何をする気!?」

「ああこれはな合図だよ我らが同志に向けてな」

「同志?何を分からねぇこと言ってやがる、その計画もここでお前さんを倒せばおわ、」

「待ってくださいゴルドレスさん!」

「坊ちゃんの言う通りだこりゃ不味いことになったぞ」

「な、なんか騒がしくなってきてるんだけど・・・」


 自分が今見ている方向には大量の魔獣と魔族がこちらに進軍している姿だった。なんて数だこれじゃまるで自分達に向けて敵の残存勢力が向かって来ているみたいじゃないか。


「全軍、ここに集まれと今合図を出したんだよ。これで対処しなきゃいけねぇことが増えたなぁ」


 ウォールは満面の笑みを浮かべていた。実際どうするんだ自分達四人でウォールの相手をしてフィオルン様の武器術を放つまでの時間を稼ぐはずだったのに。


「ああしょうがねぇソール坊達は手筈通り動きな」

「ゴルドレスさんまさか!?」

「俺があいつら食い止めてやるよ、まぁ安心しろアルドリアで一応二番目に強いからな」

「そうね、それが妥当かもしれないわねでも流石に一人じゃ厳しいでしょうベルあなたも行きなさい」

「えっいいのか姉御?俺坊ちゃん達守んなくてもいいのか?」


 裏の敵軍を抑えきるのに確かにベルゴフさんとゴルドレスさんがいれば安心感はある。でもそれって要は自分がベルゴフさんの代わりをしないといけないってことか。ネモリアさんとウェルンを守りながら時間を稼ぐなんて今の自分にはとても難しいはずだ。せめて頑丈でなくてもいいからだれかもう一人欲しいところだ。


「お困りですかな女王様」

「ローガ!?どうしてここに!?」

「少し戦場を見て人が足りなそうなところに来たまでよ。ベルゴフと言ったか主の代わりにこの子達を守ってやろう。だから安心して暴れてくるがよい守るだけなら脚を失った老いぼれにも出来るからの」

「そりゃありがてぇ!てことで坊ちゃんウォールの相手頼んだぞ」


 ローガ様が守ってくれるならウォールとの戦いに集中が出来るな。これまでも何度か魔族と戦ってきた。何があったか覚えていないがウェルンが言うには自分が倒したというサタニエル。全く相手にされずに召喚した魔物に苦戦したサピダム。見ていることしか出来なかった火山での戦い。そして船上で戦った全く歯が立たなかったキマイラ。

 全て助けが入ったり運が良かったりしたが今回は倒すのが目的ではない。時間稼ぎをすればいいのだそれなら出来るはずだ。自分は改めて剣と盾を構え直し、目の前の強大な敵に集中することにした。ただ同時に倒せる実力がないことに対して悔しさを覚えた。

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