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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
獣王邂逅

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42/246

#42 獣と竜

「はぁぁ!!」


 剣に魔力を込めキマイラを両断する。戦いが始まってからだいぶ時間が経過し戦況的には数で押せてる分若干優勢なぐらいらしい。


「傷を癒すね」

「ウェルンありがとう」

「とりあえずここら一帯の副官クラスの魔族はもういないみたいです移動しますか」


 自分達はウォールが戦場に出てくるまでの間、敵軍の指揮官を倒して戦力を下げることに徹している。そうして欲しいとゴルドレスさんに頼まれ今のところ上手くいっている。


「坊ちゃんいい調子だな!その調子で次も行くぞ!」

「もちろんですよベルゴフさん!」

「あーこんな時に言うのもあれだがそろそろさん付けやめねぇか?」

「へっ?」

「ソール危ない!{バーティカルライト}!」


 自分へ飛びかかってきていた魔物達に棒状の聖術が突き刺さる。危なかった、ここは戦場なんだ敵が急に襲いかかってくるのが普通、一瞬の油断が命取りとなってしまう。


「悪い悪い、こんな時に聞くもんじゃねぇな慣れた時でいいからな」

「でもそんな些細なことで気を抜かないでくださいよ」


はい...気をつけます、でもネモリアさんさっき飛び立とうとして矢を置いてきてて、思い出してすぐに降りてたの見てま、いやなんでもないです。大量にいた敵軍もそうだが自軍の方も消耗が激しいなそろそろあいつが出てきてもおかしくないな。


「ソール!準備して来るわよ」

「フィオルン様!?いつの間に!?」


 今気づいたが何かに跨っている。気品溢れる魔獣に乗っているのは分かるが父親が残した図鑑でも見たことがない魔獣だった。だが何故だか見ているだけで寒気がしてきたもしかして魔獣じゃなくて、これは...


「聖獣まで従えてんのか姉、イタァァァァ!!」

「次言ったら当てるって言ったわよね!それにしても頑丈になったわねベル」


フィオルン様が投げたとされる投げナイフが地面に落ちていて先端が刃が完全に欠けてしまっている。いや待て、頑丈で済むだけの話なのか?肌に刃が通らない尚且つ刃が欠ける程の硬度の皮膚ってどれだけ硬いんだ。


「ん?ああ俺、常に闘気纏わしてるからよ瞬時に硬化出来るんだよ」


 一瞬で右腕が白金色へと変化した。これは拳神マイオア・フィーザー様がやっていたものと同じだ。確か拳神様は黄金の色に変化していたな。

 フィオルン様が従えてるのはやっぱり聖獣だったか。聖獣は魔族に対して特別な魔力を持っている聖なる魔獣のことだ。そのままだが実際魔に対して圧倒的な力を誇る個能{勇者のオーラ}と同じ力を持つ貴重な存在。

 反対に魔術で受けるダメージが多いので、魔族との戦闘後に力を無くしてただの魔獣になることもあるらしい。先程悪寒が走ったのも無理はない、自分も魔の適性を持ってしまっているのだから。


「ここまで連れてきてくれてありがとう自分の住処にお帰りなさい」


 フィオルン様が聖獣から降りて帰るように指示すると聖獣は何処かに消えていった。


「フィオルン様もしかして来るっていうのはまさか!」

「そうよネモちゃんもうすぐウォールが戦場に現れるわ」

「分かるんですか?」

「そうね、奴なら自軍がもう勝つ見込みがないと見たら、きっと勝つ為に相手の軍を蹂躙するでしょうね。今こうやって部隊長クラスはほぼ壊滅状態という状況を見たら絶対に出てくるわよ」

「!?なんか地中からここめがけて何か来るぞ!全員避けろ!!」


 ベルゴフさんに言われるままその場の全員が離脱する。地響きとともに激しい音を立てながら砂の中から何かが出てきた。その姿はまるで山のように大きく、自分には見覚えのある馴染みがある鱗が並んでいた。


「巨竜種か!?」

「惜しいけど違うわ、こいつはソウルプザースていう魔族よ」

「ソウルプザースは皮を被って自身を隠すんだよ。今回は巨竜種の皮を被ってんのかこりゃ骨が折れるぞ」


 ウォールの正体はソウルプザースという魔族で特異な能力を持って生まれた魔族だった。今は巨竜種の皮を被っている、巨竜種とはその名の通りともかく身体が大きく厚い脂肪で覆われている。他の竜種に比べて破壊力、耐久力に飛び抜けて優れており、基本的にはナワバリの意識が強いだけなので巣などを荒らしたりしなければ特に害を与えてこない。だが一度暴れてしまうものなら壊滅的な被害は免れないという。


「あ?誰も壊せなかったか、感知出来るやつがいるなぁ。めんどくせぇが関係ねぇ、この戦場には俺を倒せる程の魔術師はいねぇし勇者もいねぇからな。」

「ウォール!」

「ん?あテメェはいんのかよ獣の女王さんよ。だがここにはあのクソ術鳥はいねぇな」

「その通りよ、あなたを倒したノレージはいないわ。でもそんなあなたの大敵を連れてきてあげたわよ・・・新しい勇者よ!」

「そんな弱そうな奴が勇者なわけないだろ、俺が知ってる勇者はな抑えきれない程圧倒的な魔力を持ってるんだよ。」


 今言われたことに対して何も言い返せない。実際まだ少しだけしか勇者の力を使えないし、勇者様と同じ剣術を使っているだけで自分自身もまだまだ強くはない。それでも戦わなければいけない。今まで自分に託してくれた人達に申し訳が立たなくなってしまう。


「自分は勇者ヒュード・ソール、これからもお前達魔王軍を倒し続ける。世界に平和を取り戻すまでな」


 剣に魔力を込める自身の魔力の質を仕上げ正面の巨竜種に剣を向ける。前にもこんなことがあったなフレイペントの時もこんな感じだったな。あの時は自分とウェルンしかいなか、いや一応ベルゴフさんもいたか。


「よく言った坊ちゃん!そら!来たぞ!!ふん!!」


 ベルゴフさんが巨竜種の巨大な尾の叩きつけを押さえる。その隙に自分は尾に向けて自身の剣術である竜剣を振り下ろす。


「グオオオオオオオ!!」


 尾をあっさりと切り落としたが手応えがない。こいつ自身は巨竜種の身体をただ使ってるだけだからか、なら早く本体を引っ張り出さないとな。

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