#41 開戦前
「うわぁ・・・」
本部の監視塔からの光景につい声を漏らしてしまった。戦争とか大戦に参加するのは生まれて初めて。尚且つ武装した人がこれだけたくさん集まってるのを見るのが初めてだったからだ。
「ガハハハ!坊ちゃんあんまり固くなんなよーじゃねぇと足元掬われちまうからな」
「ははは、ベルゴフさんには流石に見抜かれますね」
「まぁ俺もこんな大規模なのは初めてだがな」
「そうなんですか?意外です」
「こんなナリしてるからよよく間違われるけどよ、前世界大戦の時はまだ生まれてないんだぜ」
そういえばそうだベルゴフさんは猛者感があるが確か42歳だったな。前世界大戦は48年前のはずなのでベルゴフさんは生まれてないはずだ。
「ベルここにいたのか、おっソール坊もか」
「ゴルドレスさん、いやぁちょっと緊張してしまって・・・」
「だろうな今回先輩方は後方で指揮を取ってるから。前線に立つ連中で大きい戦争経験したことあるやつ俺しかいないからな」
「えっそれって...」
「まぁ単純に戦闘が満足に出来ない人とかもいるからな、何も言うことはないさ」
「そういうことじゃ」
声をした方を振り返ると左脚がなく杖を突いた老人がいた。
「儂がこの脚を失ってなければまだ前線に立っておったんじゃがのう。そこの若いののために脚をくれてやったわ」
「あの時助けられてなかったら今生きてないからな!本当に感謝してるよ」
「ふん、まぁ儂の分も暴れてくるといいさ手柄は全てくれてやる」
「{戦場の極星}と呼ばれた方からそんな言葉をもらえるなんて負ける気しねぇや」
とゴルドレスさんが言って老人が鼻で笑ったと思ったら風切り音と共に姿を消した!?
「今の方が先代アルドリア王の右腕、戦場の極星ことローガ・ビース様か」
「よく知ってんなベル、今も現役だったら女王といい勝負を張れるだろうな」
「そうなんですか!?」
それ程の実力を持った人なのか。どんな魔能を保有していたんだろうかこの戦いが終わったら後学の為に色々と調べてみよう。そして自分はもう少しで始まる戦争についての作戦会議を思い出す。
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「今回あの軍を率いているのはおそらく前世界大戦で私達が対峙したネームドの可能性が高いです」
その言葉に辺りがざわつきだす。ネームドとは前世界大戦においてギルドランク青(上から二つ目のランク)相当の討伐対象として指定された魔族。だが実際紫相当の強さを持つ人でさえ苦戦する可能性がある、要はとても厄介で危険な相手である。
「女王様ちなみにどのネームドとか予測はついてるのか?」
「・・・ノレージが倒したウォールというネームドです」
またその言葉に辺りがざわつく。頭を抱えたり天を仰いだりしていて大半の人が諦観している様子だ。ビース族にとってあまりに分が悪い相手ということだ。その理由の一つとして奴が持つ魔能が関係しているからだ。ウォールが持っていた魔能は{物理無効}つまり術以外効かないというとんでもない魔能である。
「正直私が知る限りで我が国の魔術師団ではネームドに致命傷を与えられる者はいないでしょう」
「他の奴らはどうにか出来てもそれだけはな...」
「そこで勇者様御一行の力をお借り出来ればと思っています」
ふと今思ったけど、この前砕けて喋っていた人と同じ人だよな。んーなんだろう調子狂うなぁ、まぁ切り替えがうまく出来る人ってそうそういないよな。
「もちろん自分達で良ければお助けさせていただきま...」
激しい音を立てて立ち上がり自分の発言を遮る。その男はついこの前目にした獣神派のトップと噂されている大臣だった。
「女王なぜ他種族を頼らねばならないのですか!?ウォールが相手でも我々ビース族は...!?」
大臣は話してる途中で何かに驚いていた。この感じ前にもあったような、顔を見ると一筋の細い頬傷が出来ておりそこから血が滴っていた。大臣の後ろのテントの外壁には何か貫通した跡がある。
「こんな時までそんなことを言っているのですか?アルドリア魔術師団のレベルは残念ながら大隊規模の敵軍は潰せても、相手の術耐性が高ければ意味を成さない。あなたも知っているではないですか。知らないのならあなたも術師でしょう、なら基本造形レベルシューティング系統を使える大隊規模がいるとでも?」
「そ、それは・・・」
「現実を見なさい大臣、いえもう我慢の限界です。いくら過去の実績があって、実務成績が良くて、どれだけ国に尽くしていても、あなたのような人はアルドリアには要りません。今この時をもってあなたを解雇します」
「女王よお待ちください!ただ私はこの国のためを思って...」
「そいつを前線へと連れていけ。是非、我らがアルドリアに貢献してもらおう」
何かを喚き散らしながら大臣だった男は連れて行かれた。残った人達の中で心無しか顔色がよろしくない人が多いな。おそらく獣神派の人達だろう、だが誰も抵抗する気はなくただただ押し黙っていた。
「本題を戻します、我々のアルドリア魔術師団ではウォールに対して有効な術を放てません。ですが私なら強力な武器術で奴を屠れますそれを貯める時間を稼ぐために囮となって欲しいのです」
「囮ですか?」
「はい新たな勇者一行となればおそらくウォールは狙いに行くでしょう。奴が前線に出てきてしまうと総崩れになってしまいます」
「要は正面から殴り合っていいんだよな!」
「まぁそうだが・・・ベル流石にそれは...」
「私達後衛の2人への攻撃を正面で受け切ってくれるってことですよね」
「頑丈さは俺の売りだからな任せとけ!!」
「流石ベルゴフさんだねソール」
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今回の戦いにおいて自分達はキーパーソンだ。ただ今回は自分の剣術が通じないため回避に徹する方がいいのだろう。ただ自分にはもう一つ手がないわけじゃないいざとなったらあれも試すしかないな。




