#4 勇ましき力
「コルロ、まださっきのナリの実持ってるか?」
「いやあれはさっきの1個しかない、なんか思いついたのか?」
「いや多分あいつ距離感が掴めてないんだと思う」
「距離感?もしかして目を2つ潰してるからか?」
「あいつがコルロから距離を取った時離れすぎだし、今の投石だって俺らのかなり前に落ちた。だから可能性は高い」
距離を取った時からなんとなく違和感はした。それに先程までとは変わって動きが慎重になっている。
「で作戦は?」
「あぁそれは・・・」
「何をベラベラ喋ってやがる!!」
奴は投げても当たらないと判断したのか今度は岩をこちらに転がしてきた。投石と比べてかなり遅い速度の岩を早めに避けて、顔に目掛けてナリの実と同じ大きさの石を投げた。
「あぁ、くそっまた!?」
狙い通りナリの実だと思い込んだ魔族は腕を上げた。こちらの攻撃を通しそうもなかった太い腕が無くなり完全に隙だらけとなった。
「今だ!コルロ!!」
「はぁぁぁぁぁ!!」
コルロの剣がやつの体を切り裂いた。深く入った傷口から血が激しく血しぶきを上げ奴は倒れた。
「コルロやったな!!」
「あぁそうだな、土壇場であんな作戦思いつくなんて流石ソールだな」
「へへへじゃこんなとこ早く抜けようぜ」
「ウェルンを頼んだ、俺は紋章を...」
先程コルロが突き飛ばした方を見るとウェルンがまだ気絶して転がっていた。咄嗟だったので多少擦り傷等はあるが大丈夫そうだ。
「いやこれ本当に重たいな。流石は勇者の紋章だ」
「コルロでも重たいのか」
「いや重たいというよりかは何だか変な感覚が・・・」
「そうなのか、俺も持つよ」
自分も紋章を持ったが、これそんなに重たいものか?理解が出来なかった。
聞いてた話と全く違って首から下げても重さを感じないぐらい軽い。気がつくと紋章はコルロの手から離れ自分だけが持っていた。
「ソール、お前まさか、お前がそうなのか?」
「コルロ?何を言っ、」
「うぐがぁぁぁぁ!!」
コルロが倒しきったと思って油断していた。さらにウェルンに肩を貸していて反応が遅れた。奴の傷口から無数の触手が生えて、こちらに襲いかかってきた。
「うん・・・どどどどうしたの?そ、ソール!?」
「えっ?ああごめ...」
反射的に自分の身よりもウェルンを守ろうと何かをしたのだろう。押し倒している以外の現状何が起きているか分からなかった。
状況を確認する為後ろを向くとコルロが自分の前で触手によって身体を貫かれていた。触手が戻っていくが、奴はもはや原型を留めておらず全身が触手に覆われていた。力なく倒れるコルロにウェルンと共に駆け寄る。
「「コルロ!」」
「あぁ、ソール、お前、だった、のか」
「何の話だ!?しっかりしろ!!」
「・前、が・、・の末・だっ、た」
「えっ?ソールがなの?!ちょっと待っててコルロ今回復を!!」
「・・ル、ン、いい」
「コルロ!どういうことだ!!」
何か発しているのか分からないがコルロが震えながら紋章を指さす。この時やっと理解した。何故コルロが自分を庇ったのか。
勇者の紋章の重さを感じずに身につけられる者、それはつまり勇者ゴレリアスの子孫に当たる。ということは・・・
「お前、・ら勝、てる、い、け、・・、ル...」
「いやぁコルロぉぉぉ!」
「ぐがぁぁぁぁぁ!!」
自分を狙って触手が迫ってくる。その時紋章が眩い光を放ち球状にエネルギーを展開した。それに当たった触手は色を失い粉々になって消えていく。
これが紋章の力なのか?自分の身体が癒えていくのを感じ力が湧いてくる感じがした。剣を抜き強く握り直し距離を詰める。それまで繰り出そうとしても出せなかった{竜剣術}が完成する。
「ぐぎぃやあ?!うぐがぁぁぁぁ!!」
「竜剣、壱の剣、」
先程まで全く捉えることが出来なかった触手を目で捉え斬り進んでいく。いつもよりも自然に軽く剣を振るえているのが分かる。
「いぎぃぃがぁぁぁ!!」
近づくにつれて奴の触手による攻撃が激しくなっていったがその触手が届くことはなかった。
この悪魔は先程まで自分より強かった。だが自分が勇者の紋章を身につけてからは全てが変わった。
そして奴にとどめを刺すべく、奴の胸元へ回転して飛び込んでいく。その様はまるで地を這う竜、{蛇竜種}のように。
「{撃竜牙!!}」
繰り出した武器術は初めてにも関わらず見事に決まった。奴の胸元を貫通し反対側へと着地し、癒えることのない深い悲しみを背負いながら。人生始めての魔族との戦闘で勝利を収めた。




