#39 事故、寿命
事前にゴルドレスさんに聞いていた通りに動いてフィオルン様の前で跪く。このあと何をされるかは全く聞かされていないので内心はドキドキしている。
「それでは失礼、ちょっとだけ我慢してね」
「は、はい!?」
視線を上げるとそこには質量の塊が迫ってきていた。目の前に広がる柔肌そしてとてもかわいらしい顔が近づいてきていた。つい反射的に身体を動かそうとしたが動かない。いや動かせなかったまるで金縛りにあっているかのようだ。
「坊ちゃん我慢してろ。扉から誰も入ってこないようにはしてやるから」
「ソール坊これから起こることは秘密にしててくれよ。テークオーバーは敵に渡っても勇者以外の人間に渡しても厄介になるからな」
「力に溺れない純粋な力を持った勇者の力がない限りは剣の力に飲み込まれてしまう。テークオーバーは元々魔剣、聖の力があるのと同時に魔の力も持っているのよ」
「魔の力ってのは強大なんだけどよ、同時に魔族に転化しちまう可能性も秘めてるんだよ。魔術に秀でた奴の例として三魔将軍のサピダムが出てくるが奴も元はヒュードだからな」
魔の力、それって自分が持ってる魔の術適性にも言えることなのか。もし魔術が使えるようになってしまったらその危険性があるのか。それと同時に勇者の装備を身につけることが出来る自分ならその剣を使いこなすことが出来るのか?
「これは?不思議なことが起きてますね」
「不思議なこと?」
「勇者様の起こるであろう未来を観ているはずなのに何故か私達が見えるんですよね」
「それって過去が観えてるってことか?」
過去、{未来予知}に関係する何かをしているはずでは?
「いやちょっと待って、違うこれ私の魔能じゃない...これって!」
首から下げてる紋章がいつの間にか光りが増していきそのまま光に包まれた。
ん、ここはどこだ?暗いな、上から一筋の光が差し込まれ辺りには黄色い水晶が生えていた。そして誰かが何かをしているのが見えた。そこに近づいていくが顔は暗がりの方にいたため見えなかったが片腕がないことが分かった。
「俺にはもうこの剣は力が戻るまではしばらく使えない。それまでに自分以外の勇者がこの剣まで辿り着いて魔王を倒すことを期待しよう」
その人はそんなことを言うと去っていった。剣は祠のようなところの台座に刺さっている。淡く光を放つ不思議な剣は同時に何か底知れないものを感じた。
「ソ・・!ソ・ル!ねぇソール!」
「あ、あれ、ウェ、ウェルン?」
「良かった、なんか急に部屋の中が光ったから、戻ってみたらソール達が倒れてたんだよ?」
周りを見渡すとゴルドレスさんやベルゴフさんが自分と同じような感じで起き上がっていた。そうだ急にペンダントが光り出して、何かを見て、何を見たんだ?確か誰かが剣を台座に刺していたんだ。
「・・・とりあえず今なんでこんなことになってるか説明してくださいますか?」
「へっ?ネモリアさん?それはどういっ、」
ムニュ
ん、なんだ今の感触は?右手で掴んだの物を確かめるため下を覗いた。・・・・・・・・・・・・待て、待て待て待て!!
「うわぁ!!」
今自分がしてしまっていた行動に驚いて思わず飛び上がってしまった。今自分の前にはあられもない姿で倒れているフィオルン様がいた。つまりは自分がフィオルン様に覆い被さるようにして倒れていたのだ。それはまるで自分が・・・
「ソールさんお話聞いてもよろしいでしょうか?」
「本当にどう言うことか教えてもらっていい?ソール!!」
その後、フィオルン様が起き上がるまでウェルンとネモリアさんから、とんでもないぐらいの質問の雨が降り注いだ。その間なぜか自分はずっと正座だったために、足が痺れてそれどころではなくなり結局その日は一旦宿に帰ることとなったのだった。
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「ここもだめじゃったか、となると次は...」
滅びた村から飛び立ち次の目的地に向けて出発する。魔族は何故だか分からないが過去の旅で儂らが訪れた村を片っ端から滅ぼしている。何かを探しているのか、それともまた別の理由があるのか?
「とそろそろソールくんがアルドリアでフィオルンに会ったところかな?」
{未来予知}はなくとも歳をとるにつれてなんとなくで予見が出来るものだ。儂はあのパーティ内で一番歳が近かったフィーザーでさえも150歳差だからの。
「儂はいつまで生きていられるのだろうか、いつも死ぬのは若い者達だのう」
あの時代共に戦った多種族の同世代の戦友はほとんど皆死んでいった。全盛期の時に比べて術の練度は上がったが単純な魔力保有量は四分の一もない。もし仮に次に無茶をしたら儂の命はないだろう。
「個能がなければ儂はもう確実に朽ちているからな」
そもそもウィンガル族は200年も生きられる程寿命が長くない。その他に長命種であるビース族、フィンシー族も150ぐらいで寿命を迎える。自身に授けられた個能を{魔寿命}と名付けている。効果は寿命の代わりに魔力量が空になるまで生き続ける。そのおかげで儂は今まで生き延び今年で226歳となる。ようやく身体に老いが回り始めて来たところだ。
はてさて儂がこうしている間にも魔王軍は何か企んでおるからな。少しでも阻止しに行かないとソールくん達にも申し訳立たないな。後はあの人に頼まれてしまったからな。まさかまたあの黒き翼を見ることが出来ようとは思わなかったな。




