#34 灼熱の歓迎
「なんだこの惨状は?一体何があった」
「は、はい数日前港にて魔勇者一行を捕らえるため待ち構えていたところ、マイオアの拳術士により我々の詰所が襲撃されたため応戦しましたが我々の戦...」
「もういい、要はとり逃したのだな魔勇者一行とやらは」
「は、はいその通りでございます」
襲撃された詰所の前で報告を聞くが正直惜しいことをしたと思っている。ギルガバースの野郎が強い奴がいるって言うからよ。わざわざこの港で魔勇者一行を捕まえて俺様自らが処刑しようかと思ってたんだがな。
まさか単身上陸してうちの雑兵どもを蹴散らす野郎がいるとは。雑兵と言えどこの港で待機させていたエクスキューションは、次期隊長クラス20人、現隊長10人を含めた100人規模をたった1人で壊滅させやがったのか。
「でその後の足取りは?」
「は、はい!えーマイオアはそのまま魔勇者一行と合流しその翌日にアルド砂漠へと出発しました!」
なるほどやはり魔勇者一行はなんらかの理由でアルドリアを目指していると。まぁ魔勇者と呼んではいるが、そもそも本当に国王を殺したのかは分かっちゃいないらしい。だからとりあえず捕らえて話を聞いてから処刑するかどうかは決めようとしていた。
「そうか報告ご苦労、明日から通常警備に戻せいいな?」
「了解しました!ドーガ・ベレイス様!!」
自分が率いる剛力隊を連れ後を追うことに決めた。エクスキューション三闘士、剛力のドーガことドーガ・ベレイスからは逃げられると思うなよ魔勇者ヒュード・ソール一行よ。
「ハクシュン!」
「えっ、どうしたのソール?」
「いやなんでか急に悪寒が・・・」
なんで急に悪寒がしたんだ?それどころか今進んでいるこの場所は太陽が照りつけて気温が高く皆汗が止まらないと言うのに。いやしかし暑いな、灼熱のアルド砂漠と言われるだけのことはある。しかも道中出てくる敵もまぁ厄介なのが多い。
砂中から飛び出してくるサンドワーム、空から強襲してくるデスイーグル、どっちも討伐推奨ランクは赤ランクだ。そういえばギルドに行けてないからな今のランクはいったい今幾つなのだろうか?そうそうランクと言えば、この前気になってネモリアさんの冒険者カードを見せてもらった。ネモリアさんは赤ランクだった。
旅路は今のところは順調だ。夜になれば涼しくなって昼間の疲れもよくとれるからな。ここまでちゃんと予定通りだ。港を出てから3日経ってアルドリアまで残り3分の1と言ったところらしい。自分達よりも旅慣れているベルゴフさんとネモリアさんが言うんだから間違いないだろう。
「いやしかしうちの火山周辺も暑いがこれはまた違うもんだな。蒸し暑いじゃなくてただ単純に熱いだもんなこりゃ」
「ほんとですね、拭いても拭いても汗が噴き出してきますね」
「そろそろシャワーかお風呂に入りたいなー」
「みんな辛そうだねでもごめんこればっかしは自分にはどうしようもできないから」
「おにいちゃん、おにいちゃんなんでみんなすごくあせかいてるの?」
「いいなーソールは紋章の力で暑さも軽減されてて・・・」
ほんとにこればっかしはしょうがない。だってこの紋章はなんでか自分にしか効果を発揮しないのだから。勇者の紋章は装着者に対しての不利益となる効果をほぼ全てを無効にする能力を持っている。そのため今自分は少し汗ばんでいる程度で済んでいる。
他の人が今自分に触れたら他の人に比べて温度が低い。その為今自分はキュミーのことを肩車で運んでいる流石にまだ幼いキュミーを灼熱な砂の上を歩かせるわけにはいかないからな。
「あぁ・・・この感じはやばいな」
「どうしたんですか?まさか魔物ですか?」
「それもあるんだがこの先で誰か襲われてるんだよ」
「!?急がないと不味いのでは!?」
「そうだ...いや待て誰か来たから大丈夫そうだ。これは相当な実力者だな、なんだ、ん?この魔力の使い方なんだか坊ちゃんと似ているな」
「えっ?それってどういう・・・」
ベルゴフさんがいう地点が遠くに見えてきた。目を凝らしてみる確かに誰か戦っているな商人らしき人達を守る人。そして自分達が遭遇してきたサンドワームとデスイーグルともう1体牙の長い獣がいた。
「あれは・・・えーと、なんだっけネモ?」
「いやあの魔獣は私も知らないですね、この大陸特有の魔獣ですかね?」
「あれはビーファン、この大陸でもなかなか遭遇しない地龍種と同じぐらいの強さを持っている古代獣ですね」
「坊ちゃんよく知ってんな」
「家に世界中旅した父の日記があっていろんな魔獣とか魔物とか載っててそれをよく読んでたので知識だけならたくさんあるんですよ」
「あーあの汚い字で書かれててソールにしか読めなかったあれかー」
確かにあの日記を誰に見せてもみんな読めないって言ってたもんな。父親は世界中を旅して冒険者の中でもなかなか有名だと自称していた。村の人は皆その話を信じてはいなかった。自分はたまに帰って来る度に増えている父親の身体の傷に気づいていて、いつも言う話を信じ父親の日記を読んで後に活かせるようにしていた。
「しかしあのビースの方、大剣を片手で軽々しく振るってますね」
「随分と豪快な戦い方だな、こりゃ1回手合わせしてみてぇな」
「確かにあの魔力の纏わせ方は似ているというか同じ...?」
「ソールと似てる?てことは剣術士ってこと?」
ウェルンの言葉に頷く。自分は正直父親以外の剣術士を見たことがなかったのでどんな感じで振るうかを見てみたかった。すごいな一振り一振りが早いのに魔力を纏った状態をずっと保てているな。父親と同じぐらいかそれ以上の剣術士だ。纏っている魔力の濃度がさらに濃くなった!大技が来るぞ!
「{獣爪}!!」
大剣を持ったビース族は次々と斬撃を繰り出していく。その姿はまるで鋭い爪を持った魔獣のように見えた。獣のオーラ・・・魔力を具現化するほどの才能を持っているということは相当な剣術士と分かる。
「グギャァァァァァ!!」
サンドワームの身体を一刀両断にし、デスイーグルの羽を引き裂き、そしてビーファンに深い傷を負わせ魔獣達は力尽きた。ビース族の剣術士はその様子を確認した後、背中の鞘に大剣を納めた。なんて綺麗な剣筋なのだろうか。切り口がとても綺麗に切られているすごい練度を積んでいるぞあの人。
「もう大丈夫だ後はうちの騎士団に送ってもらいな」
「あ、ありがとうございます!!」
今騎士団て聞こえたか?メルドリアの騎士団とはまた違った格好をしているな。メルドリア騎士団は重鎧に槍を装備していたが軽鎧に片手剣を装備をしているな。そしてあのビースの剣術士が騎士団の人に指示を出していた。ってことはもしかして・・・ん?あれベルゴフさんがいないぞ、どこに...
「なぁ、あんたアルドリアの騎士団長か?」
「ん?あぁそうだがこんなところにマイオアがいるなんて珍しいな」
いつの間にあんなところに!?なんか砂が舞ってるなって思ったけどあそこまで飛んだのか。ベルゴフさんも見ない間にどれくらい強くなってるんだか。他のみんなも驚いた顔をしている。自分達も騎士団長らしき人の近くに近づいていくのだった。




