#31 凶刃と黒翼
キマイラの爪を剣と盾で弾き続ける少し腕が痺れてきたな。流石にそろそろ打てないかネモリアさん?ネモリアさんの方を見るとまだ力を溜めている感じがした。
「もう少しです!もう少しだけ耐えてください!!」
ネモリアさんは魔力を何かに込めるのに慣れていないのだろう。実際魔力を武器に纏わすのにもそれなりの修練が必要で、自分やベルゴフさんのように剣術や拳術を使う人達は技を使わずとも、普段の攻撃に多少でも魔力を込めているので瞬時に剣や拳に魔力を纏わせられるのだ。
「準備出来ました!!」
「キュミーは私に任せて思いっきりやっちゃって!!」
「ああ分かった!ネモリアさん!!」
彼女の構える弓矢には濃い魔力が纏われているのがよく分かる。これならきっと装甲を打ち破れるぞ。そして自分も竜剣術を放つ準備をする。
「{ソニックアロー}!!」
キマイラに向かって矢が飛んでいく。先程までとの違いは魔力によって強化され
大きさが変化している通常の矢とは比べ物にならない大きさだ。そしてその矢の裏に張りつきながら剣に魔力を込める。今出せる高火力の竜剣術は{撃竜牙}以外にはこれしかない!そして矢は見事キマイラの身体を捉え装甲を剥いだ!
「{竜旋}!!」
そこに自分は弐の剣{竜旋}を放った。これなら相手を逃がすことなくダメージを与えることが出来るはずだ。感覚としてはとてもいい感触だった。今までで一番質がいい竜剣術を繰り出せた。これならキマイラだって...
「!?ッ...!」
「ソール!」
背中部分に裂傷を負った。かなり深く入ったな血が垂れてくる。こんな攻撃してくる敵はもちろんあいつしかいないのだが感触として確実に決まっていたはず...だがそこにいるキマイラは装甲を剥いではいたが全く外傷がなかった。
「どうしてさっきの攻撃が当たってないの!?」
感触はあったんだがどうしてだ?ん、あそこに落ちてるのはなんだ、殻?すごく傷ついてるな、分かった、そういうことか。
「キマイラって脱皮することで個体として成長するんですよね確か?」
「そうですねキマイラは脱皮で・・・!!」
「多分自分の攻撃を受けきった後すぐに脱皮をして身体を再生したんだと思います」
「それで傷が全くないんですね」
でも逆に装甲が回復する気配のない今なら剣が通るかもしれない。背中の傷を手当てしてもらい血が止まったのを感じると自分はすぐにキマイラに斬りかかった。が避ける気配を見せなかった、そして刃が触れるとガキィィンと高い音がした。
「な、まさか身体がさっきの装甲と同じぐらい硬くなっているのか!?」
「それじゃあ私たちの攻撃って・・・」
キマイラの皮膚は先程の装甲並みの硬さを持っていた。つまり剥がすという概念がなくなった奴の全身には自分たちの攻撃が一切通らないということになる。つまり・・・
「このままやられるしかないってことですか?」
「はい、そういうことになりますね・・・」
どうする!他にやれることは...待て、さっきまでそこにいたウェルンとキュミーはどこに行った?背後から気配を感じ振り返るとウェルンが飛んできた。
「きゃあ!!」
「ウェルン!!どうした?」
「分かんない急に何かに飛ばされて・・・?!見てあそこに!!」
ウェルンが指した方を見るとそこには帆の上に立つキマイラ。そして奴が抱えているのは・・・
「キュミー!!」
「おにいちゃん、おねえちゃん!!」
これはまずいぞ。キマイラは脱皮したばっかだと確かエネルギーを補給したがる。そしてキマイラの好物は心臓と幼い子供だ。
「やめろぉぉ!!」
「待ってソール!無茶だよ!!」
「無茶でもいい!!目の前で誰かが死ぬところはもう見たくないんだよ!!」
感情に任せて魔力を込めた剣を振るうが空振りに終わり背中を蹴られり。帆の上から甲板に叩き落とされる。キマイラはこちらを見て気味悪い顏をしている、いやきっとあれは笑っているのだろう。落ちた自分を見て。そして奴は口を大きく開けて泣き叫ぶキュミーへ顔を近づけていく。
「やめてぇぇぇ!!」
自分は見ることが出来ず目を逸らしてしまった。自分の身体に何かがかかる...返り血でもかかったか、ごめんな自分が無力で。勇者なのに誰も助けられなくて・・・
「ンギャァァァァァァァ!!」
「!?」
どうしてあいつが叫んでるんだ?ネモリアさんが何かしたのかと思ったが、そこには全く見たことがない女性がいた。大きな鎌を持つ右手とは反対の左腕にはキュミーが抱き抱えられている。
「あなたが奴に攻撃しようと飛び出してなければ私は間に合わなかったわ」
その人の背中には見覚えのある黒い翼が生えていた。この翼は、魔族の翼だどうして自分たちを助けたんだ?自分達は敵のはずなのに。




