#30 魔の生物
キマイラ、魔王軍の主戦力として作られた。前世界大戦においてノレージ・ウィンガルによって、戦場に出没していたキマイラは全滅させられた古代魔族の一種である。次世代を残すことを嫌い己が唯一であることを誇りとし魔術を使わない者を悪とした。だがとある魔族のせいで古代魔族の劣化コピーを大量に生み出されることとなり結果的には魔王軍へと貢献した。だが元となった古代種のキマイラとは仲を違えた。
自分達の目の前にいるのはその時の生き残りである劣化コピーのキマイラ。あの船に乗っていたエクスキューションや海賊を喰らってきたのがよく分かる。表面上に全く見えないはずの血の匂いがとてつもなく濃いのだ。突然飛びかかってきたので躱しながらすれ違いざまに斬ったが刃が通らなかった。こいつ全身が硬いのか、刃が通らないとなると術を行使するしかないのだが自分は上手く使えない。
「ウェルン!!」
「うん!{バーティカルライト}!!」
棒状の聖術がキマイラに発射され被弾するもあまり効果が無さそうだ。術にも耐性があるのか?それは厄介だな。こういう硬い敵には打撃か貫通力のある術や武器が有効だが。
「これならどう!」
ネモリアさんが矢を放つとキマイラの硬い身体を削った。今のは矢に魔力を帯びさせたのかそういうことなら簡単だ。魔力を剣に帯びさせるなら竜剣術でいつもやっている。だが削られた部分はまた新たな殻みたいなものに覆われていた。
なんでこうも魔族や魔物の類って再生能力が高いんだか。もう勘弁してくれ、術耐性かつ生半可な攻撃は通用しない、挙句に再生能力ってもうそんなんズルくない。ただ1つ前向きに考えられるとするならば竜剣術にうってつけの相手ではある。どんな相手も対処できてこそ一流の剣術士だっ!?
「っ!」
「大丈夫ですか?!気をつけてくださいね」
考えをまとめようとして動きが止まるのは悪い癖だな。今のだってあと少し気づくのが遅れていたら。ってこういうことも考えてどうするんだ、今は目の前の敵に集中するんだ。今この時でこいつに対して自分が打てる竜剣はあれしかない。
剣に魔力を込め斬りかかりその流れのままにもう一撃を加えつつ次の一撃に繋げる。竜剣術、壱の剣{撃竜牙}と名付けた、この技は魔力の消費が激しいことを除けば現時点で一番バランスがいい剣術だ。剣を振る速度も速めで一撃が普通に振るうよりも威力がだいぶ高めなので使いやすい。
キマイラには手応えのある一撃が何発か入り後ろへと仰け反らせフィニッシュを決めようと魔力を溜め突撃した。だが奴はその一撃を軽々と避けてしまった
「で装甲がなくなったらなくなったで動きが速くなるのか、っ!」
「流石にあそこまで速いと狙いが定めづらいですね」
「装甲が無ければ速くなって攻撃が当たらなくなって装甲があると攻撃を弾くってそんなのずるくない!?」
全くウェルンが言った通りだ。隙が全くと言っていいほどないぞあいつ。ただ流石に先程と違い再生に時間がかかっているな小さな傷ならすぐ直せる代わりに大きな傷は時間がかかるのか。つまりは装甲が無くなった瞬間にどうにかして強力な一撃を放てれば。装甲が完全に回復したキマイラは距離をとっている、流石に警戒されてるなこの感じは。多分だがもうさっきの攻撃({撃竜牙})は通じないな。普段戦うような魔物と違って知能もあるのか本当にこれは強敵だ。
「ソールどうしようかこの状況」
「一つだけ方法があるかも、ネモリアさんちょっといいですか?」
「ソールさん何か良い手がありますか?」
「うん、これは正直賭けになるかもしれないけどやってみる価値はあるかもしれない」
「それってもしかして逃げる隙、もしくは装甲を回復する時間を与えないで一撃で倒すとかですか?」
これは驚いた、ネモリアさんも同じことを考えてたなんて。なら言わなくても伝わるはずだ!
「とりあえず自分が強力な剣術を用意します!そのための隙って作れますか?」
「はい、やってみます!」
「なら私はキュミーを連れてサポートに徹するね」
よし方針は決まった作戦開始だ!
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「うーむ参ったなこれじゃあいつらにいつまで経っても追いつけないなどうするか・・・」
そんなことを言っているのは坊ちゃんと別れ、追っ手を振り切りとある場所で拳神流の継承を済ませたベルゴフだ。そのあとは野を超え山を超え荒野を超えてやっと南メルクディン港に着いたが連絡船を含む全ての船が止まっていた。これどうするんだ泳ぐにしたってなぁ流石に海を超えるのはきついからなぁ。
「それは本当ですか!」
なんだ?港の方が騒がしい気がするな。あとこの声はどこかで聞いたことがあるようなないような。そこにはフードを深く被った女性と港の職員らしき人がいた。木箱の裏に隠れて聞き耳を立てる。いやそれにしてもあのフードを被った女性一体何者だ。抑えてはいるが内から濃い魔力が漏れ出ているな。相当な実力者だと伺える。ただ何となく違和感は感じていた普通に強いとは違う何かをこの感じは師匠と同じような...
「まさかあれと戦闘になったんじゃ・・・情報ありがとう!」
といって海へと走っていく。えっまさか泳いでいくのかあの人?ん、背中のあの武器どこかで見たような...思い出した!あの人は!!
「待ってください!今この港近くではハイドロゲーターが!!」
職員が言うころにはもう遅く彼女は港から飛んでいた。そんな海から激しい水しぶきと共に大口を開けて真下からハイドロゲーターが飛び出し食べられてしまった。
「あぁなんてことだ・・・」
「安心しなあんた、あの人はこんなとこで死ぬような人じゃないさ」
「えっ?」
ハイドロゲーターが飛び出したところの水面が震えている。やっぱりあの人はあんなやつにやられるような御方じゃないよな。またも激しい水しぶきをあげ飛び出してきたハイドロゲーターは何かがおかしい口を閉じたまま震えている。
「グルファァァァァァァァァ!!」
口を開け叫び声と共に赤い血飛沫が噴水のように巻き上がり、その中からハイドロゲーターの歯に乗った先程のフード姿の女性が出てきた。後ろで鎌を回転させて風を起こして海上を高速で移動していった。
「あっという間にいなくなったな、やっぱ考えることが違うなー」
さてどうするか泳いでいくかやっぱり、いや待てよ今の俺だったらあれ行けるか?浜辺に行ってマクイル大陸の大体の方向を向き海に向かって走った。おっやっぱいけるな水面を走るのも行けるな。よーしこの調子で次の大陸まで行くか!
「おいおい嘘だろ、あの人海上走っていったぞ・・・」
「今日だけでありえないことが起こりすぎじゃないか?あの人達はいったい何者なんだ・・・」




