#29 穏やかではない海
「こ、これが・・・?」
「はい、これが私が乗ってきた船ですけど何か問題が・・・?」
いや船を持ってるとか言う時点で若干豪華な船を想像していた。でもまさかこれほどとは、てかこの船ってもしかして私掠船なのでは?どう見ても連絡船に比べて機動力も高そうだし、砲台もこんなに並んでるし、掲げている旗の紋章はエルドリア王家の物ではないか。一体何者なんだネモリアさんは。まぁ今はそんなこと気にしないでおこう。自分らにとってもこれがマクイル大陸に渡る手段なんだ。
「わぁ!でっかいでっかい!おじちゃんたちのふねとおなじくらいおおきい!」
「本当に大きい船だよね、船旅もこれで困らないね!」
そういえばこんな大きな船どうやって動かしているのだろう?まさか船員が居ないわけないよな。
「さて行きましょう出発は早いに越したことはありませんからね。」
動く気配のない船に自分達は乗ったがやはり船員の姿は全く見当たらない。ネモリアさんは制御端末のような物に触れていた。
「起動」
『魔力認証を確認しました・おかえりなさいませネモリア・ゴース様』
帆が1人でに開き、砲台の横に弾が装填され船の中から小型ゴーレムが出てきた。先程とは全く違う光景にただただ唖然としていた。
「あっえーと、今この端末に触れて私の魔力を流して船の機能を起動したところですね。この後の操作はある程度は自動ですが、例えば私が戦闘態勢と指示すれば砲術が発射態勢になります」
「へーその間はネモの魔力を使ってるの?」
「いや私の魔力は使わないで船の動力で動いてるので特に魔力切れとかは起きないですね、私自身がこの船の鍵みたいな感じですね」
なるほどそういうものもあるんだな。そういえば船に乗ったのは生まれて初めてだなもっと揺れるものだと思っていたけど馬車と似たようなものだな。突然衝撃音が鳴り足元が揺れた。もうそろそろ運がないとかそういうレベルじゃないぞ。これは...周りを見渡すと黒く塗られた船が三隻並んでこちらに砲台を向けていた。
「な、なんで!?エクスキューションが私を撃ってくるの!?」
「あぁーごめーんネモ、言ってなかったねそういえば私達が何に追われてるか」
「えっ!?まさかあなた達が追われてるのって・・・」
「皆さんご存知の黒鎧がトレードマークのエクスキューションです」
頭を抱えるネモリアさんとその横で首を傾げるキュミー。騙したようで悪いが先に何に追われているか話していたら船に乗せてもらえなかった可能性もある。おそらくネモリアさんはきっと自分達が盗賊とかから目の敵にされてると思って船に乗せてくれたのだろう。彼女はこちらに向き背中の弓に手をかけ構えようとしていた
「なんで追われてるか理由を聞いてもいいですか?」
「それはですね話すと長くなるんですけど・・・」
ネモリアさんにこの港に来るまでのことを一通り話した。自分達はメルドリア王からの書状をサルドリアへと届けに行ってそこで火山内で魔王軍と戦い。そして魔物となったメルクディン山を止めるため拳神マイオア・フィーザー様が命を懸けたこと。その時にマクイル大陸のアルドリアへと向かえと言われたこと。そして何故か拳神様を殺したという濡れ衣をかけられたことを話した。
「・・・なるほど」
「今この状況から考えても自分達を疑うのは仕方ないですよね」
「おにいちゃんたちどうしたの?けんかしてるの?」
「...あなた達がそんなことをする、悪人とは思えないので信じます。そんな人達が私達のためにわざわざ罪を重ねませんからね」
背中の弓にかけていた手を外し警戒体制を解いてキュミーの頭を撫で笑顔を向けてくれた。大丈夫だったようだ、人によるかもしれないが話せば分かってくれるみたいだ。いやこれは人によっては違う反応を示すかもしれない。自分らの身柄を引き渡すだけでこの先の人生を働かずとも生きていけるだけの金額が貰えるのだから。
船の右舷側に砲弾が落ち船が揺れる。流石にそろそろ当たりそうになってきたな、自分も撃ち落とす準備もするか!?さ、左舷側にもなんか落ちてきたぞ。そちらを振り返るといくつもの船がこちらに向かってきている。
「あっおじちゃんたちのふねだー」
「おじちゃん?てことはあれは海賊達か!」
「待って私達挟まれてない!?これやばいよネモ!」
「逆にこれは好都合です!{前方へ全速力}!!」
ネモリアさんがそう言うと今まで展開していた砲台がオールへと変わり、先程とは明らかに速度が変わり距離を離していく。
「この調子なら奴らが勝手にやり合ってこっちには攻撃してこないはずです!」
そうか!エクスキューションと海賊が手を組んでいるはずがない。あそこで衝突が起きて自分達は逃げ切れるってことか!さっき自分達がいたところで激しい音が鳴り響く。
「ふぅなんとか乗り切りました・・・」
「ばいばーいおじちゃんー」
「いやほんと早いねー馬車と同じくらいかそれ以上かな?」
「そうだな、いやほんとネモリアさんの機転でどうにかなったな」
この調子で行けば特に問題もなく明日ぐらいにはマクイル大陸に着くだろう!後ろの方で鳴っていた砲台の音が止み水柱が上がる。
「待ってください!あれを見てください!」
「な、何があったんだ!?」
エクスキューションと海賊が戦っていたはずのとこに見えたのは大破した船群。おかしいことにどちらの船も大破している。そして水中から何かがこちらに迫ってきていることに気づいてネモリアさんには何かを投げつけていた。
「危ない!」
「えっ、きゃあ!」
ネモリアさんの前に飛び出して咄嗟に盾を構えて金属っぽい何かを弾いた。船の上に降り立った何者かはその手には何も持っていないがその代わりにとても鋭利な爪が伸びていた。そして目は白目、血管が浮き出て激しく脈を打っている。自分が知っている中でのとある魔物の特徴と一致している、こいつはもしかしなくてもキマイラか。




