#28 追われる者と追う者
ううん、もう朝か着替えなくちゃ。昨日は大変だったな。宿が中々見つからなくてやっと見つかった頃にはもう私達疲れ果ててたもんね。特にソールはその後もどうにかしてマクイル大陸に行けないか探してくれてた。
ソールはまだ寝てるだろうからちょっと散歩でもしてこよっと。外に出ると昨日と同じくらい人がいてとても賑わっていた。こんなに人がいるところに来るのなんか久しぶりな気がする。サルドリアにもいたけど観光は出来なかったからな。メルドリアしか観光したこと無かったな。
あぁ、そういえば鍛冶屋のおじさん元気してるかな。そういえばメルドリアを発つ前にギルドのみんなにサルドリアに行くって言うの忘れてたな。まぁ、きっと会えるよねみんな冒険者なんだし!!
でも今でこそ顔バレせずに指名手配されてるけど、もし顔が割れたらみんな今までと同じように接してくれるのかな。とか考えながら街を歩いていると何かにぶつかってしまった。
「いたたた・・・」
「あっすいません大丈夫ですか?!急いでいたものですいません、それでは!」
「ごめんねー」
私を起こしたあとそそくさとどこかへ行ってしまった。うーん、なんか追われてる感じだったな。今ぶつかったのは私と同じか少し歳上かぐらいのウィンガルの子。彼女が連れている子はここら辺だとあまり見かけないフィンシーの子供だった。
フィンシー族は母国から出ないで暮らすのがほとんどで地上に出る人もいるがフィンシー的常識から言うとなかなかの変わり者らしい。ただ地上に出たフィンシーはもう二度と母国ヒルドリアには帰れなくなる。帰ろうとしても自分がどこからどうやって来たのか分からなくなり、それ以降は母国を捨てて地上で暮らすより他ないという。
そんな種族なんだけどあんなに小さい子が自分から地上に出て、ましてや他種族と一緒に行動するために出てくるとは考えにくいな。とか考えていると明らかにごろつきみたいな男たちがその路地から出てきた。
「くそぉあの女どこ行きやがった!」
「兄貴まずいですよ!あの高級品無くしちまったら...」
「うるせぇ!文句言う暇あんなら手分けして探せ!」
ごろつき?いや、あれっぽい、えーと確か海賊って言うんだっけ?山賊とか盗賊とか見た事あったけど実際に見るのは初めてだな。まぁさっき私にぶつかったあの子達はおそらくこの人たちに追われているんだろうな。ちょっと探してみよっと困ってそうだったら助けてあげよっと。
「で、今一緒に食べている人達がその時の人達ってこと?」
「そうそう!困ってそうだったから!」
「まぁしょうがないかウェルン昔からそうだったもんな」
「本当にいいんでしょうか?私達追われてるんですけど・・・」
「大丈夫だよ!ネモリアさん、私達も似たような感じだから!」
そうだ、自分達も追われてる立場。まぁ追われてる規模が違いすぎるからなんとも言い難いが同じではあるな。てかこの人遠慮してるように見えるけどもう4、5人分は食べてないか。相当お腹空いてたんだなその横に座るフィンシーの子もよく食べるなぁ。
話によると今連れている子は海賊によって奴隷として高等貴族に売り払われる予定だったという。この情報を聞きつけてネモリアさんは海賊のアジトから助け出してきたという。
「これおいしいの、もうおなかいっぱいなの」
「そういえばこの子名前はないんですか?」
「それが困ったことにこの子自身どうしてここにいるのかも分からないようで」
「むーそれは困ったな、この場合自分達で保護してたら?」
「特に問題はないでしょうけど、この街にいる限りはあの海賊達に追われますね」
エクスキューションに加えて海賊達からも逃げなきゃいけないのか。これはますます早く大陸を渡る手段を探した方が良さそうだ。ここには長くは居られないのだがマクイル大陸に行く為の連絡船も止まってしまっている。どうしたものか都合良く船を持ってる人に出会えないだろうか。
「名前ないと不便だし、そうだ!ねーねーあなたのことキュミーって呼んでいい?」
「きゅみー?うんいいよ、おねえちゃーんすきー」
「はぁ!かわいい...なんかすごいいい気分だなー」
あっちはあっちでなんか盛り上がってるな楽しそうでなによりだ。なんか名前まで決まってるし、でこの人はいつまで食べてるんだ、その身体のどこに入ってるんだ。
「ちょ、ソールさんあまり女性の身体を見てると訴えられますよ!もう...」
「すいませんいい食べっぷりだなって思って」
「いやぁお恥ずかしい限りです、あちこち逃げ回ってたらご飯食べる暇もなくて少し食べ過ぎましたねそろそろ私達は行かなければ、いくらでしょうか?金額を・・・」
「いやいいですよ払いますよ」
「本当にいいんですか?ではお言葉に甘えさせてもらいます」
店員さんを呼んで金額を聞いて驚いてしまった。まさかね自分達の食費4日分の金額を払うことになるとはめ。今更お金出してもらっていいですかとも言えず泣く泣くお金が消えていった。
「このあとはどこに行かれるんですか?」
「とりあえず実家を頼ろうと思います、なので船に乗ってエルドリアに…」
そうか実家に帰るのか海を渡ってエルドリアまで行くのか。ん?ちょっと待って今なんて、今確かに船に乗ってって言わなかったか。
「「あぁ!!」」
「?おにいちゃんおねーちゃん?どうしたの?」
「これはいったいどういうことだ?」
路地裏のその現場では食い散らかされた死体が発見されていた。しかも血が乾いておらず喰われてまだ数時間といったところか。その衛兵は目の前の死体ばかり見ていたためその背後から忍び寄る何かに気づいていなかった。そして衛兵は言葉を発することなく上半身丸々喰われてしまった。そこにフード姿の何者かが現れた、手には鎌を持っている。
「ウアイイイイ」
「また間に合わなかった・・・でもこれで4匹目!」
鎌は衛兵を喰らった何者かを切り裂いた。周りに鮮血が飛び散り身体が2つに分かれ完全に活動を停止した。
「まさかこんな所でまだ生きていたなんて、いやもしかして誰かが意図的にこれをこの港に誘導した・・・?」
目の前に転がる死体は一見普通の人のように見える。肌が白みがかって体調が悪く見えるだけではなく血管が濃く浮き出ていた。やっぱり間違いない、これは・・・
「一刻も早く全て片付けないとここがまたあの場所と同じになってしまう!」
それは昔とある場所に存在した施設内での惨状を予感させた。もしあの時と同じことがこの港で起きようものならサピダムはまた研究を開始するだろう。キマイラなんてもう絶対に作らせない!
あの施設の跡地で最近まで使用されていたポットは5個、そしてこれまでこの港で倒したキマイラと思われる化け物は4匹なのであと1匹のはずだ。港に住む人々に被害が出る前にそしてあの子達に被害が及ばないうちに。




